【他人棒に】妻の喫煙 【寝取られ】 オナネタ専用エッチな体験談

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    【他人棒に】妻の喫煙 【寝取られ】


    問いただせば簡単に済む問題も、自分が躊躇した瞬間から妻に対する疑いの形に変わって行った。
    疑いを解決する方法は色々有るのかもしれない、灰皿を見つけた時に妻に問い詰める方法、或いは吸っている現場を押さえる方法。
    いずれにしても、妻がガラムを吸っていた事は明白であり、この段階で私の中には妻の素行に興味が移っていたのかも知れません。
    妻は長女の出産を期に一度勤めていた会社を退職したが、長男が生まれてから少しすると、前の上司の薦めもあり派遣社員の形で、また同じ会社に勤めていた。
    その会社は、そこそこ名の知られた観光会社である、二度目の時は経験も評価され、添乗の仕事もある事を妻は私に納得させていた。
    元来家に閉じこもっているのが似合うタイプの女性ではないと思っていた私は、妻の仕事に口を挟む気はなかった。
    行動を起こすでもなく、数日が過ぎたある日仕事も速めに終わった私は同僚の誘いも断り、妻の勤める会社の近くに私は足を進めていた。
    妻の素行が知りたいという私の気持ちは、気づいた時には探偵の真似事をさせていました。
    町の目貫通りに面した妻の会社は人道通りも多く、人並みの影から様子を伺うにはさほどの苦労は無かった。
    午後6時頃現場に着いた私は、15分位でしょうか、探偵気取りで道路の反対側にある妻の会社の出入り口に神経を集中していると、突然聞きなれた女性の声で、私は出入り口から目を離すことになった。
    その女性は、妻の会社の同僚の佐藤さんでした。

    「奥さんと待ち合わせですか?」

    突然の会話に、答えを用意していない私は多少狼狽していたことでしょうが仕事の関係上帳尻を合わせて会話するのは容易でした。

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    「たまたま近くに居て、仕事が速く終わったので女房を脅かしてみようかと思って」
    「大分待ったんですか?」
    「そんなでも無いですよ、今来たばかりです。」
    「そうなんだ、でも連絡すれば良かったのに、奥さんもう帰りましたよ」
    「そうなんですか。」
    「今 私と別れたばかりですよ、そこの喫茶店で。」

    新婚当時、妻がまだ正社員の頃は何時も夕方6時ごろに会社に迎えに行きデートをした記憶があった私は、
    固定観念のみで行動を起こしていた。

    「あの頃とは違うんですよ、奥さん派遣なんだから残業はあまりしないのよ。」
    「そうなんだ、昔の癖が抜けなくて。」
    「お熱いことで、ご馳走様。」
    「今追いかければ、駅で追いつくかも?」
    「良いんです、別に急に思いついたことなんで。」

    多少の落胆を感じながらも、私は好期に恵まれたような気になって会話を続けた。

    「佐藤さんはこれからどうするんですか?、もう帰るんですか。」
    「特に用事もないし、帰るところ。」
    「この前飲んだの何時でしたっけ?」
    「大分前よ、2ヶ月位前かな?、武井君の結婚式の2次会以来だから。」

    私たち夫婦は、お互いの会社の同僚や部下の結婚式の二次会には、夫婦で招待を受けることが多く、その時も夫婦で参加し、三次会を私たち夫婦と佐藤さんや他に意気投合した数名で明け方まで飲んだ記憶が蘇った。

    「あの時は、凄かったね?」
    「奥さん凄く酔ってたみたいだったし、私には記憶がないと言ってましたよ。」
    「凄かったね、何か俺に不満でもあるのかな?」

    頃あいを見た私は、本題の妻の素行を探るべく、佐藤さんに切り出した。

    「もし良かったら、ちょっとその辺で飲まない?」
    「二人で?、奥さんに怒られない?」
    「酒を飲むくらい、この間の女房のお詫びもかねて。」
    「それじゃ、ちっとだけ。」


    とはいえ私は妻帯者でり、あまり人目につく所で飲むのは、お互い仕事の関係から顔見知りの多い事もあり、暗黙の了解で、人目をはばかる様に落ち着ける場所を探していた。

    「佐藤さん、落ち着ける場所知らない?」
    「あそこはどうかな、奥さんに前に連れてきて貰った所。」

    佐藤さんは足早に歩を進めた。
    妻の会社から10分位の所にその店をあった。
    幅2メートル程の路地の両脇に小さな店が並ぶ飲み屋街の奥まった所に、その店はあった。
    店の名前は蔵、入り口のドアの脇には一軒程の一枚板のガラスがはめ込んであり、少し色は付いているものの、中の様子が見えるようになっていた。
    店の中は、喫茶店ともスナックとも言いがたい雰囲気で、マスターの趣味がいたる所に散りばめられた店という感じで、私にはその趣味の一貫性の無さに理解の息を超えるものがあったが、席に着くと変に落ち着くところが不思議だった。
    とりあえずビールであまり意味の無い乾杯から始まり、結婚式の二次会の話で盛り上がり、一時間位して酔いも回った頃。
    私はおもむろに、女房の素行調査に入った。

    「佐藤さんタバコ吸う?」
    「吸ってもいい?」
    「かまわないよ、どうぞ。」
    「奥さん旦那さんの前で吸わないから、遠慮してたんだ」

    あっけなく妻の喫煙は裏づけが取れた。
    にわか探偵にしては上出来であろう結果に、一瞬満足していたが。
    この後続く彼女の言葉に私の心は更なる妻に対する疑惑が深まっていった。

    「そういえば、女房はガラム吸ってるよね?」
    「でもね、正直言って私は好きじゃないのよね、ガラム。」
    「ごめん、最近まで俺もガラム吸ってた。」
    「私こそごめんなさい、タバコって言うより、それを吸ってるある人が嫌いって言ったほうが正解かな。」
    「誰なの?」
    「ご主人も知ってるから、いい難いな。」
    「別に喋らないから。」
    「○○商店の栗本専務さん」
    「栗本専務なら私も知ってる。」

    栗本専務言うのは、私たちの町では中堅の水産会社の専務で、私も営業で何度か会社を訪問していて面識はあった。

    「どうして嫌いなの?」
    「栗本さん、自分の好みの女性を見ると見境が無いのよね。私もしばらくしつこくされたけど、奥さんが復帰してからバトンタッチ。」
    「そんなに凄いの?」
    「凄いの、そのとき私もあのタバコ勧められたんだけど、それで嫌いになったのかな、あのタバコ。」
    「女房も彼に薦められて、吸うようになったのかな?」
    「ご主人じゃないとすれば、多分そうでしょうね、奥さんもともと吸わない人だったから。
    会社復帰してからですもんね。ここの店も栗本さんに教えてもらったらしいですよ。」

    そんな会話をしている内に、夜も10時をとっくに過ぎ、どちらからとも無く今日はおひらきとなり、割り勘と主張する彼女を制止し、会計を済ませた私は店の外で彼女の出て来るのを待つ間、一枚ガラスの向こう側に見えない何かを探しているようでした。

    その後の私は、仕事も極力速めに切り上げるようにした。
    かといって家に早く帰るわけでもなく、探偵の続きをしていたのです。
    毎日はできませんが、できる限り妻の会社の出入り口を見張り、妻の退社後の行動を掴もうと躍起でした。
    この頃になると、喫煙の有無は問題ではなくなっていました。
    妻がもしや浮気をしているのではないか、私の気持ちは一気に飛躍していました。
    だかそれが現実のものとなって自分に押し迫ってくるのに、さほどの時間はかかりませんでした。

    長男が生まれた頃から、私は妻に対して新婚当時ほどの興味を示さなかったのは事実でしょう。
    それは妻のほうにも言えることだと思います。
    ですが、あのタバコの一件以来、私は妻の言動の細部に渡って、観察集中するようになっていました。
    今まで何気なく聞き流していた、言葉が気になってしょうがありませんでした。
    妻の行動が気になり始めて、1月程経った頃でしょうか。
    それは突然やってきました。

    「あなた、今度の日曜休めない?」
    「家の仕事か?」
    「ん〜ん、私日帰りの添乗の仕事入ったから子供見ていてほしいの。無理かな?」
    「何とかしてみる。」

    私はとっさに承諾に近い返事をしていました。
    私の仕事は、日曜がかきいれどきのような仕事ですが。
    月に1度位は、土日の休みがシフトで回ってきます。
    妻の日帰り添乗という日は、後輩にシフトを交代してもらい、休みを取ることが出来た。
    そこで私は考え行動に出ました。
    家に帰った私は、妻に予定の日休めない旨を伝えました。

    「昨日の話だけど、日曜はやっぱり無理だ、ごめん。」
    「そう、お母さんに頼んでみる。」
    「すまないな。ところでどこに行くんだ。」
    「山形の方よ!」
    「誰と、何時から?」

    いつもはしない私の質問に、妻は少し怪訝そうに答えました。

    「取引先の役員さん達と、社員旅行の下見。」

    これ以上の質問を回避するかのように、妻は続けた。

    「9時頃会社を出て、夕方までには戻れると思うよ。」

    私もこれ以上の質問は、墓穴を掘りかねないと判断し、気をつけて行って来る様に言うと会話を止めた。

    当日の朝私はいつもの時間に家を出て、妻の会社の最寄り駅の駅の公衆トイレの影から妻の到着を待った。
    この時点では、また素行調査のいきは脱していないが、8時45分頃着いた電車から妻が降りてきてからは、ただの挙動不審の男になっていた。
    日帰りの添乗とは行っても、妻は軽装で荷物も手提げのバック1つだけ。
    駅から真っ直ぐ南に歩き、2目の信号を渡って左に曲がって200メートルほど行ったところに妻の会社がある。
    時計を見て歩き出した妻は、会社の方向へ歩き出したが、1つ目の信号を左に曲がり、目貫通りの一本手前の道路に入ったのでした。
    その道路は一方通行で、角から私が除く50メートル程向こうでしょうか、一台のグレーの高級国産車がこちらを向いて止まっており、妻はその車に乗りました。その車はおそらく数秒後には、私の居るこの交差点を通過していくだろう、そう思ったとき、重圧に押しつぶされそうになりながら、車内の構成を瞬時に想像していました。
    得意先の役員が数名、それに妻が同行で車の大きさから多くても5名位、まさか二人だけということは無いようにと願う自分も居ました。
    考えているうちに、耳に車のエンジン音が聞こえて、その車はスピード落とし左折して行きました。
    そのとき車の中には、妻が助手席に一人、後部座席には誰も居らず、運転席には私の心のどこかで、そうはあってほしくない人間の顔がありました。そうです、やっぱり栗本です。
    左折しようと減速した車の助手席では、妻が前髪で顔を隠すような仕草して俯いていました。
    自分の顔を他人に見られたくないという行動に他ならない。
    一瞬私は吐き気を覚えました、何故かは分かりませんが次の瞬間、冷や汗と同時に歩道の上にしゃがみ込んでいました。

    その日曜を境に、私はより確信に迫ろうとするのではなく、逆に妻を自分から遠ざけるになって行ったのです。


    時折、通る人たちの冷たい視線を感じながらも、しばらくの間動けずにいた私は、体の自由が戻ると朝近くの駐車場に止めてあった車まで着くと、鉛のような重さを感じる体を、投げ出すように運転席に着いた。
    しばらくそのままの状態が続き、その間に何本のタバコを吸ったのであろうか、手にしていた箱にはもう一本も残っていなかった。
    駐車場を出た私は、すぐ隣のタバコ屋の前に車を止めると、店先の販売機には目もくれず、店の中に入りあのタバコを注文していた。
    おつりを受け取るとき、手から毀れる小銭の感覚に気づきはしたが、しゃがみ込んで拾い上げる気力もない私は其のまま車へ向かった。後ろからタバコ屋の店員の呼び止める声がしたが、振り返ることもなく車に乗り込み走らせていた。

    タバコ屋を出てから何分経ったであろうか、私の車は港の防波堤の所に移動していた。
    最初私は思考のないマネキンのように海の方を身動きもしないで見つめているだけでしたが、時間が経つにつれて数時間前のあの光景が脳裏に蘇(よみがえ)りましたが、思考回路に命令を与えても、考えの整理がつきません。
    そんな時、車の後ろのほうから子供の声が聞こえたような気がして、ルームミラーでその声の主を探した。
    ミラーの端からその主は現れた、年のころは4才位だろうか、補助輪の付いた自転車を必死にこいでいた。
    その子がミラーの反対側に消えるころ、その子の両親らしき二人ずれが、満面の笑みを浮かべその子に視線を送っている姿が、目に入って来た、次の瞬間私の目からは涙が溢れていた。嗚咽することもなく、両頬に一本の線として流れているだけでした。

    あたりは日もかげり時間は6時をまわっていました、時間をつぶして夜遅い時間に家に帰る気にもなれず、ミラーで身支度を確認し家へ帰りました。


    玄関を開けると、何時もより早い私の帰宅に気づいたのは儀母でした。

    「パパお帰りなさい、早かったんですね。」
    「仕事の切も良かったので、早めに帰らせて貰いました。」
    「麻美(妻)はお風呂ですか?」
    「それがまだなのよ、日曜で帰りの道路が込んでいるらしくて、電話がありました。」

    それを聞いた私は、初めて計り知れない怒りを覚えました。
    私の中では、今日の妻は日帰りの添乗の仕事ではないという前提の基に、遅れる理由を想像するのは容易い事でした。

    「そうですか、お風呂先にいただきます。」
    「パパご飯は?」
    「済ませましたから。」

    そういい残して、リビングにも寄らず脱衣所へ向かいました。
    風呂場からは、子供たちのはしゃぐ声が聞こえます、服を急いで脱いだ私は、勤めて明るい笑顔を作り浴室のドアを開けました。

    「パパだ!」

    子供たちは、不意の訪問者を諸手を上げて歓迎してくれました。
    思えば子供たちと風呂に入ることなど暫く無かった様な気がしました。
    湯船に浸かった私の膝に子供たちが争うように腰掛けます、その時私は昼間の涙の意味を知りました。
    また涙が溢れ出て来ましたが、今度は嗚咽を伴い抑えることが出来ません。
    それを見た長女か私を気遣い、一生懸命話しかけて来ます。

    「パパ、私ね、今日ね、パパよりもっと悲しいことがあったよ・・・・・・パパ泣かないで。」

    私の耳にはそれ以上のことは聞こえませんでした、ただ二人の子供を強く抱きしめる事しか出来ませんでした。
    風呂場には暫くの間、嗚咽を堪える私の声、父親の悲しみを自分の悲しみのように泣きじゃくる幼い娘、それに釣られるように指を咥えながらすすり泣く幼すぎる息子の声が響き渡っていました。

    子供達を寝かしつけて、寝室に入ったのは20時ごろだったでしょう。
    妻はまだ帰って来ませんでした、多少冷静さを取り戻した私は、昼間買ったガラムを1本取り出し火をつけました。
    机の上の灰皿を持ちベッドに腰掛けて、タバコを深く吸うと最近吸いなれないその味にむせ返りすぐに消してしまいました。
    独特の香りが立ち込める部屋に一人でいた私は、部屋の中を物色(ぶっしょく)し始めていました。
    何のためにそうするのか、何を探すのか解らないままその行動は続けられた、しかし何時妻が帰ってくるか解らない、作業は慎重に行われてゆきました。
    階段の物音に聞き耳をたて、物の移動は最小限にし、クローセットやベッドの飾り棚、考えられる場所全てに作業は行き渡った。
    だが、1時間程の苦労も実らず、私の猜疑心を満足させるものは何も見つからなかった。
    心臓の高鳴りと、悶々とする気持ちを落ち着かせる為、ベッドに横になって暫くすると、誰か階段を上がってくる足音がしました。多分妻であろうその音は、子供部屋の方へ進んでいった。
    その時私は、先ほどの作業の形跡が残っていないか、部屋を見回していた、変化が有るとすれば灰皿の位置がベッドの上の20センチほどの出窓の上に変わっている位だった。
    程なくして、子供部屋のドアの閉まる音がし、寝室のドアが静かに開いた。
    私の存在に気づいた妻は、目線を下に下ろしたまま後ろでに持ったドアノブを静かに引いた。

    「珍しいね、早かったんだ。」
    「あぁ、たまたま仕事が速く終わったから、遅かったな、義母さんに聞いたけど、道路込んでたんだって、それにしても随分掛かったな!」

    よく見ると、妻はアルコールが入っているのか、頬が少し赤らんでいるように見えた。
    クローゼットを開け着替えを始めた妻は、後ろ向きのまま聞いてもいない、一日の行動を説明し始めた。
    妻が説明し始めてすぐに、私の心の何処か片隅に有った小さな希望がもろくも崩れ去った。

    「一日中バスに揺られて疲れちゃった。」
    「バスで行ったのか?」
    「そう、お客さんの会社の送迎バスで、事務所に迎えに来てもらってね!」

    顔が青ざめていくのが自分で解りました。
    それでも妻は、クローゼットの方を向いたまま、子供をだますような口調で話を続けます。

    「旅なれた人たちだから、下見というより、飲み会みたいなものね。
    一応、予定の場所は見たんだけど、帰りのドライブインで、宴会になっちゃって、出るのが遅くなったら、渋滞に巻き込まれちゃって。」

    何も知らない、以前の私ならば、大変だったなご苦労様の一言ぐらい言っていたのでしょうが。

    「それでお前も飲んできたのか?、顔が赤いぞ、酒が強いお前が顔に出るんだから、随分飲んだんだな?」
    「お得意さんだもの、進められれば多少飲むわよ!」
    「コンパニオンじゃあるまいし、顔に出るくらい飲まなくても。」

    言葉の端々に棘のある口調になり、エスカレートする自分を抑えきれなくなり始めていました。
    その時パジャマに着替えた妻が、こちらを振り向き、謝罪した。

    「ごめんなさい、これから気を付ける。」

    そう言われると、次の言葉を飲み込むしかありません。
    鏡台に座り、化粧を落とした妻はベッドに入ってきた、その時、窓に置いたタバコに気づき、

    「また戻したの、タバコ?」
    「なんとなく、吸いたくなって。」
    「ごめんなさい、今日は疲れたからお先するね。」
    「風呂は入らないのか?」
    「明日シャワー浴びる、お休み。」

    アルコールの勢いも手伝ってか、妻はすぐに寝息を立てて眠ってしまった。
    寝息を立てる妻に体を寄せみると、自分もさっきガラムを吸った為か、識別はしにくいがタバコのにおいと、微かでは有るが石鹸の匂いがした。
    一日バスで揺られて働いて来た人間が、昨日の夜の石鹸の匂いを維持できるはずも無く、風呂に入らずにすむ理由は、私にとって想像する必要も無かった。

    ここまで来ると、私の妻に対する疑いは、かなりの確立で的中しているのは、疑う余地も無い。
    でも私は、日ごろ見たことも無い妻のバックを除き見たい感情に掻き立てられた。
    妻の眠りの深いことを確認すると、クローゼットを静かに開け、妻がさっき持ち帰りクローゼットの隅に無造作に置いてある手提げのバックを持って、子供部屋へ向かった。
    長女の机の電気をつけてバックの中身を見てみた、多少の罪悪感は有ったがそれ以上に私は、
    さっき寝室で探しきれなかったものが、このバックの中に有る、あって欲しいと願う気持ちが強かったように思う。
    中身を見ていくと、財布、定期入れ、アドレス帳、ハンカチ,等在り来たりのものが目に入った。
    取りあえず財布の中身は領収書やキャッシュカード,現金と特に気になるものは無い。
    次にアドレス帳、あ行から順に追っていっても、私の知っている知人親戚等これと言って怪しいものは無い。
    バックの中身を一度全部出してみると、手前の部分にファスナーで仕切られた部分があるのに気づき、
    ファスナーを開け中を見た瞬間、目的は達せられました。
    中身は、タバコ(もちろんガラム)に女性用の高級そうなライターそして、ポケットベル。
    今でこそ、携帯電話が当たり前ですが、当時はまだ携帯電話は一般的ではありませんでした。
    目的を果たした私は、元通りにバックを帰し、ベッドに入りこれからの事を考え始めました。
    不思議なものです、自分の考えが裏付けされた今、怒りは頂点に達している筈なのに、妻に対する復讐より先に、我が家の今後のを考える自分がいるのです。
    その時、私は思いました。世の奥さんは亭主の不貞が発覚したとき、私のように子供のことや家の事を複雑な思い出、考えあぐねるのだろうと。
    妻は相変わらず、隣で寝息とも鼾ともつかい音を立てて寝ていました。
    その時私は、妻の髪の毛を掴み揺り起こし、その顔に平手を食らわしてやりたい気持でしたが、奥歯が痛くなるほど悔しさをかみ締めてこらえていました。


    悔しさでほとんど眠れなかった私は、朝食もとる事が出来ませんでした。
    それにしても、妻の行動は余りにも不用意で、もう少し用意周到さがあっても良いのではと思う気持ちも有りました。
    何故なら、私は先日妻の同僚の佐藤さんと二人きりで飲んでおり、それは彼女と妻の関係から、妻に伝わっている筈。
    その時の内容を聞けば、自分の秘密の一部が私に解ったしまったということで、他の秘密を守るために何らかの動きがあって然るべき。
    私はその日、妻の会社の前で佐藤さんを待ちました。
    夕方5時半過ぎ、妻が会社を出ました、それから待つこと1時間、佐藤さんが出で来ました。
    何気ない振りをして、私は彼女に近づき声を掛けました。

    「佐藤さん。」
    「びっくりした!、如何したんですか?」
    「これから帰るの?」
    「そう、○○さんは?」
    「実は佐藤さんを待ってたんだ。」
    「私?」
    「ちょっと聞きたいことが有って、都合悪いかな?」
    「別にかまわないけど、何か怖いな。」

    歩きながら、彼女は何の話か有るのか必要に聞いてきましたが、私は話をはぐらかして先日の蔵に向かいました。
    店の入り口に近いいて中を見たとき、有ろうことか店の奥まった席に、妻が一人で座っているではありませんか。
    私は振り向きざま、佐藤さんの肩に両手を添えて、そのまま後ろ向きにさせると、店の中を見れないようにもと来た道に彼女を追い立てました。

    「如何(どう)したんですかしたんですか?」
    「満席。」
    「へー、そうなんだ!」

    予期せぬ遭遇とは言え、自分の不用意さを反省しながら別の店へと足を運びました。
    そこの店は私が何度か足を運んだことのある店で、私よりも若い人たち(20〜25才位)が集まる店でした。
    サーファーが多くトロピカルな雰囲気の店。
    蔵とは違い、目抜き通りに近い店にもかかわらず、彼女は抵抗無く付いてきました。

    「ここで良かったかな?」
    「私も来たこと有るから!、妹もよく来るし。」
    「妹さんいたっけ?」
    「ん、それより、話って何ですか、気になるんですけど?」

    私は、先日二人で飲んだことを、妻に話したか如何(どう)かを単刀直入に質問した。
    彼女から帰ってきた答えは、NOだった。

    「だって、あの時私もちょっと喋り過ぎたし、それに麻美さん焼餅焼きだし、麻美さんにばれちゃいました?」
    「そうじゃないんだけど、まだ隠れて吸ってるみたいだから。」
    「そうなんだ、今日のことも内緒が良いかな?」
    「特に問題は無いけど、言う必要も無いかな。」

    佐藤さんとの二人の飲み会が、妻に伝わっていなければ、妻の行動に変化が起こるわけも無い筈である。
    妻が焼餅焼きという言葉には、いささか驚きました。
    何時の時点までなのか、いまだにそうなのかは解りませんでしたが、
    少なくとも他の男と関係を持つまでの妻は、同僚から見れば私に対して嫉妬深い女だったのでしょう。

    カウンターを含め15席程度の店内は、既に2、3席を残し満員状態、入店してから30分位取り留めの無い話をしていると、店のドアが開き二十歳ぐらい女性が一人入ってきました。

    「由香!」
    「お姉ちゃん!」
    「由香里さんじゃないですか。」
    「知り合いですか?(佐藤さん)」
    「仕事の関係で、ちょっと。」

    その女性は、佐藤さんの妹でした。
    驚いたことに、その女性は私も面識のある女性だったのです。
    小さな町ですが、偶然というものは恐ろしい、と言うよりは個々の人の情報を知らな過ぎたのかもしれません。
    彼女は同じ系列の販売店に勤める、いわば私の同業者でした。
    その後もう一人女性が入って来ましたが、妹さんの連れでした。
    二人は、ちょうど開いていた席に私たちを両脇から挟むように座ろうとしたため、私が席を移動しようとしたとき、彼女達に肩を抑えられ、上げた腰を同じ席に沈めました。

    「そのままで良いですよ。」
    「特に積もる話も無いですから、
    ○○さんさえ良ければ、
    ここに座って良いですか。」
    「私は良いですけど。」

    連れの女性は、佐藤さんとはかなり親しいようで、座った瞬間から何の抵抗も無く会話をしていて、私は必然的に妹の由香里さんと話をするしかなかった。
    元々、今日の目的は済んでおり、由香里さんとの会話は新鮮味を感じることが出来たのも事実である。

    彼女とは、店舗も近いと言うことからメーカーのイベントなどでも度々話す機会があったため、飲みながら話をしていると、杓子定規な話からプライベートの話に移行するには、時間を必要とはしなかった。
    この女性「由香里さん」が妻と私の関係に微妙な役割を持ってくるのは、それから間もなくの事でした。


    時間を忘れて、辛さから逃れるように由香里さんと飲み続けていたのでしょう。

    「○○さん、そろそろ、明日もあるし?(佐藤さん)。」

    私もかなり飲みすぎたようで、時計の針もろくに読めない程でしたが、佐藤さんの問いかけに返事をして、マスターに会計を済ませ店を出ました、皆に挨拶をして少し歩き始めた時、不覚にも吐き気を覚え道路脇で戻してしまいました。
    吐き気も治まったころ、背中を摩る手に気づき、すみませんと言いながら振り返るとそこには、今別れたばかりの由香里さんが、中腰の彼女は眉尻を下げて私の顔を覗き込んでいました。
    由香里さんは、後ろから私の肘を掴むように支えてくれて、深夜喫茶に連れて行ってくれました。

    「少し酔いを覚まして。」
    「すみません、少し楽になりました、すみません。」
    「そんな姿を、可愛い娘さんが見たら心配しますよ。」
    「もう寝てます。」

    時計を見ながら答える私、由香里さんが頼んでくれたらしいコーヒーがテーブルの上に差し出されました。
    私はまた、すみませんを連呼していました。
    かなりの醜態を見せてしまっていた筈です。
    水を一気に飲み干し、コーヒーに手を伸ばし一口啜ると、すぐに皿にカップを戻しました。
    元々とコーヒーは好んで飲む方で無かった私は、コーヒーの熱さも手伝って、そのカップをまた手にすることは無かった。
    タイミングを見ては由香里さんが頼んでくれた、水を3杯程飲んだころには、多少酔いも冷めて来た。

    「さっき戻したのが良かったんですね、顔色が大分良いですね。」
    「助かりました、すみません。」
    「そろそろ帰りましょうか。」

    その時の私には、一回り近く年の違う由香里さんに醜態をさらしたという思いから、まともに顔を上げることが出来ませんでした。
    通りに出てタクシーを待つ間、正気を取り戻し始めた私は、由香里さんに丁寧に感謝の意を伝えると。

    「○○さん、気にしないで下さい、詳しいことは知りませんが、辛い気持ちは良くわかります。」

    由香里さんと飲んでいる間、妻の不貞に関する事を知らず知らずに話していたのかも知れません、いや誰かに聞いてもらいたく、間接的に伝えていたのかも知れません。
    空車が一台、由香里さんが止めてくれ私を乗せてくれました。
    別れ際、タクシーのウインドー越しに由香里さんが言葉を掛けてくれました。

    「頑張ってください、私で良ければまたお付き合いしますから。」
    「ありがとう。」

    深々と頭を下げた私を乗せて、タクシーは走り始めました。

    家に着くと、さすがに風呂に入る気にもなれない私は、寝室に直行しました。
    寝室のドアを開けた私は驚きました、妻がベッドに腰を掛けて起きているでは有りませんか。

    「こんな遅くまでどうした?」
    「あなたこそ、如何したの?、2時過ぎてるよ。」
    「会社の連中と、ちょっと飲みすぎた。」

    スーツをクローゼットの中に脱ぎ捨てるように、下着のままベッドに滑り込んだ。
    私のスーツを片付けると、部屋の明かりを落とし、妻もベッドの中に入ってきて、私がまだ眠りについていないのを確認すると、話しかけてきた。

    「あなた、何か有った?」
    「何でだ?」
    「お姉ちゃんから聞いたんだけど!」
    「あぁ、なんでもない。」
    「でも、あなたが子供に涙見せるなんて!」
    「何でもない!・・・・」
    「私には、話せない?」

    お前が原因だ、などと言えるはずも無く、暫し沈黙が続いた。
    妻も、何か感ずるものがあるのか、それ以上の追求は無かった。
    いつの間にか寝てしまったようで、体に違和感を覚えた私は少し朦朧とするなか少し目お開けた。
    何時もは背を向けて寝ている筈の妻が、私の足に自分の足を絡め、右手は私の胸をまさぐっているではないか、
    恐らく私の意識が戻る直前には、股間をまさぐっていたのであろう、下着姿をつけて寝ていた筈の私のトランクスは、そこには無かった。
    私の下半身は確かに今まで妻のしていたであろう行為に、明らかに反応していた。
    しかし、意識がハッキリするにつれて、これは瞬く間に萎えていった。

    「どうしたの?」
    「疲れてるんだ、勘弁してくれ。」

    吐き捨てるように言うと、妻を押しのけ足元にあったトランクスを手早く身につけると、妻に背を向けて寝てしまいました、いや正確には寝たふりをしました。
    背中の向こうでは、妻が下着をやパジャマを直す衣擦れの音が聞こえていました。

    翌朝少し頭の痛さを覚えながらも、リビングに降りて行くと、何時もと変わりないように妻が話しかけてきた。

    「ご飯食べれますか?」
    「いらない、シャワーを浴びたら直ぐ出る。」
    「冷たいものでも?。」
    「いらない!。」

    飲み物は欲しかった、でも妻に言われた瞬間、お前に出してもらいたくない、というのが本当の気持ちだった。
    なぜか妻は腫れ物にでも触るかのような、口調だったように感じました。
    脱衣所の洗面台の前に立った私は自分の険しい顔をみて驚きました。
    この日を境に妻の言動に変化が現れ始めました、言葉使いにいたるまで。



    その後も、妻のバックからタバコ,ライター,ポケベルの3点セットがなくなる事はありませんでした。
    妻の不貞が確実になる前は、私達夫婦の間にはそれなりの夫婦の営みはありました。
    週に1度程度はあったと思いますが、妻の日帰り添乗の日から営みは皆無となりました。
    たまに妻から求めてくることはありますが、私の体がそれを受け付けません。
    そんなある日、私はメーカーの新車発表会の為、1泊の予定で東京に出張することになりました。
    各販売会社から数名が代表で主席して、一般発表する前の新車を内覧するという内容のものです。
    会場には千人を超える販売店の人間にメーカーの職員、それは盛大なものでした。
    一次会が終わり、地域別の分化会が開かれました。
    一次会とは一転して、分化会はこじんまりした感じでした。人数も百人足らず、当然地域別ですから知った顔も多く、その中には由香里さんもいたのです。
    メーカーの職員と私が会話をしているところに、一人の女性が割り込んできました、由香里さんです。

    「お久しぶりです。」
    「お久しぶり。」

    前回のことがあるので、少し躊躇している私に由香里さんは、屈託の無い表情でひたしげに会話を進めてくれます。
    今日の新車のことや、営業に関する話など、さすがにお互い営業の仕事柄、仕事の話にはこと欠きません。
    そのうちメーカーの人間が中座すると、由香里さんが切り出しました。

    「この間は、大丈夫でしたか?」
    「本当に失礼しました、醜態を見せてしまって。」
    「そんな事ないです、辛いときはお互い様です。」
    「そういって貰えると、少し気が楽になります。」

    そうこうするうちに、文化会もおひらきとなり、人も減り始め由香里さんと二人ホテルのラウンジで、コーヒーでもと言うことになり二人で、ラウンジに向かいました。
    内覧会は、東京のベイサイドの大型ホテルを借り切り行われたため、同じホテル内の移動で済すむのです。
    ラウンジは、同じような考えの人間で満席状態でした。
    それではと、最上階のレストラン,バーと行ってはみたものの、ことごとく満席。
    その時由香里さんから提案が。

    「しょうがないから、部屋で飲みなおししませんか?、
    今日はお互い個室ですし、気兼ねなくお話が出来ますよ!」
    「独身女性と二人は、不味くないですか?」
    「何かまずい事でも?下心有りですか?」
    「そうではないですが、それじゃどっちの部屋にしますか?」

    さすがに二十歳の女性、じゃんけんで負けた方の部屋、冷蔵庫とルームサービスは、負けた方が持つという提案です。
    その場でじゃんけんです、負けたのは私でした。
    クロークから荷物を受け取ると、各自の部屋の鍵を受け取り私の部屋へ向かいました。
    その日初めて入った部屋は、10階に有るオーシャンビューの部屋でした。
    由香里さんは、窓際に駆け寄り海に漂う船の明かりを見て感激していました。
    その場の雰囲気に照れた私は、由香里さんを茶化します。

    「夜の海なんてね田舎で見慣れてるでしょ。」
    「こんな見晴らしのいいところ無いもん。」

    そういえば、岸壁から見る漁火とは大分雰囲気は違うのは事実です。

    「由香里さん、なんにする?ビール,ウイスキー?ワインも有るけど。」
    「何でも、○○さんは?」
    「ビールかな。」
    「私も同じでいい!」

    缶ビールを二つ持って窓際の応接セットに近付き、1つを由香里さんに渡すと、籐性の椅子に腰を下ろしました。
    何を話するでもなく、由香里さんは海を見ているだけでした。
    私は田舎に居る妻のことを考えて、視点の定まらない目で由香里さんの方を見ていました。
    今思えば、メロドラマの世界です。
    妻帯者の私が、心に傷を負い自暴自棄の状態で、家を離れ偶然とはいえ高級ホテルの一室で二十歳の女性と二人きり。
    何も無い方がおかしい状態です。

    「○○さん、聞いてもいい?」
    「何?」
    「嫌なら答えなくても良いですよ。」

    その瞬間、彼女の質問はおおよそ察しがつきました。

    「奥さん浮気してるんでしょ?」
    「多分。」
    「多分って!。」

    雰囲気がそうさせたのでしょう、私は今までの経緯を詳細に話しました。
    一通り話し終えると、由香里さんは私の向かい側に座りため息を1つつきました。

    「そこまでハッキリしてるんだから、○○さんは如何(どう)するの?」

    暫く答えることが出来ずに居ると、由香里さんが立ち上がり私のてお引き、ベッドへと誘いました。

    「私で良ければ、奥さんにお返しして!」

    正直どこかの段階で、私の方からそうなっていただろう事は否定しませんが、由香里さんの方から行動を起こすとは、予想の範囲を超えていました。

    「いいの?」

    彼女は何も言いません、後で聞いた話ですが、同情心から始まったのかもしれないが、前に飲んだときから、私の事が気になってしょうがなかったらしい。
    部屋での飲み直しを提案したときから、彼女はこうなることを覚悟していた、いや望んでいたと。

    私は、彼女のジャケットを脱がせると、シルクのブラウスの上から、乳房を軽く揉んだ。
    その時彼女の首筋には、鳥肌のように小さな突起が無数に浮かび上がり、ピンク色に染まっていくのがわかった。
    妻へのお返し、というよりは由香里の程よく張りのる、若くて白く透き通るような体を獣のように貪った。
    結局その日、由香里は自分の部屋へ帰ることは無かった。


    状況を理解したのか、由香里はそれ以上の努力をすることを止めた。

    「気になるんだ。」
    「・・・」
    「今日は、帰りましょう?」

    それ以上の会話はなく、ホテルを出ると駅へ直行、最寄の駅
    で由香里とポケベルの番号を交換して帰宅した。
    家に着いたのは、6時頃だったでしょうか。
    私が玄関に入ると、妻が迎えに出てきました。

    「お帰りなさい。」
    「ただいま。」
    「お風呂は?、ご飯は食べますか。」
    「風呂入るよ。」
    「ご飯用意しておきますか。」
    「頼む。」

    風呂に入りながら、自問自答を始めました、妻が浮気をしたとしても、私も同じ事をしてしまった。
    妻に浮気されたからという理由で、それが許されるのか。
    この二日間で私は、妻と同じ立場に立ってしまった。
    妻は私の不貞を知らない、また私も妻が不貞をした確証を掴んではいない。
    その段階で私は、自分の立場を優位にしようという自己保身の行動を取ろうと考え始めていたのかも知れない。

    夕食が済むと、私は片づけが済んだら寝室に来るように妻に告げると、2階に上がり子供部屋を覗いた後、寝室で妻の来るのを待った。
    ほどなくして妻が寝室にやってきました。
    これから何が起こるか分からない恐怖感に慄くかのように、少しうな垂れながら。

    「何か話ですか。」

    私は、自分の不貞は妻にはばれていない、妻の不貞は確実であることを自分に言い聞かせ、話を切り出した。

    「お前、何か俺に隠してないか?。」
    「何のことですか?。」
    「何か隠していないかと聞いている、同じことは言わないぞ。」
    「突然そう言われても。」

    私は、出窓からガラムを手に取り、ベッドの上に放り出した。
    少し顔色の変わった妻は、タバコについて喋り始めた。

    「ごめんなさい、隠すつもりは無かったの、でも貴方が、タバコを吸うのを嫌うかと思って。」
    「だからといって、隠れて吸わなくてもいいだろ!」
    「ごめんなさい、早く言えばよかったです、タバコを吸うことは許してもらえます?」
    「吸うなとは言っていないだろう。」

    ちょっと口調が荒くなってきた私に対して。

    「貴方が嫌なら止めます。」

    少し間をおいて、妻が私に質問します。

    「何時気づいたんですか?」
    「前にベッドの下に灰皿を隠していたこと有るよな。」
    「はい。」

    その時妻は、少し安心したような顔をしたように私は思えた。

    「ごめんなさい、貴方が嫌なら本当に止めますから。」
    「それはそれでいい。」

    これからが本題です、私の心臓は鼓動を早めて行き、言葉も上ずってきました。

    「他にはないか?」

    妻の顔が青ざめていくのが手に取るように分かりました。
    この時私は、今まで心の何処かで99パーセント確実と思ってはいましたが、
    妻の反応を見て100セントの確信に変えて行き、自分のことなどすっかり棚に挙げ、妻に対する詰問を開始しました。

    「他にもあるだろう?」
    「他にはありません。」

    妻は震えていました、目には涙を浮かべ始めています。
    今までベッド端に立っていた妻は左手をベッドにつき、よろける様に、ベッドに座り込みました。
    後ろ向きになった妻の顔は見えませんが、肩が振るえ始めているのは分かりました。
    その姿を見たとき、私の中に罪悪感のような物が少し頭をもたげた。

    「嘘は止めよう、まだ俺に隠していることが有るだろう。」
    「・・・・」
    「それなら、俺の方から言おうか?」
    「何をですか?」

    妻は、声を荒げてそういうと、両手で顔を多い前かがみになってしまった。

    「麻美、お前男がいるだろ!」
    「何でそんなこと言うの!」

    逆切れに近い口調で言う妻に対して、私の罪悪感は吹っ飛び、立ち上がると、クローゼットの中から妻のバック取り出し、そのバックを妻に目掛け投げつけました。
    床に落ちたバックを妻は胸に抱きかかえ、私に背お向けました。

    「バック開けてみろ!」
    「嫌です!」
    「開けろって言ってるんだ!」
    「・・・」

    妻は、後ろを向いたまま、首を横に振るばかりです。
    怒り心頭に達した私は、妻に駆け寄り、取られまいと必死になる妻から無理やりバックを取り上げると、
    内ポケットから例の3つを出すと、ベッドの上に投げつけた。

    「タバコは、分かった。
    でもこの高級ライターは何だ?
    俺は買ってやった覚えは無い。
    そのポケベルは何のためにある?、
    お前が何で俺に隠れて、そんな物持つんだ?
    説明しろ!」
    「他人の者を勝手に見るなんて酷い!」
    「お前がそんなことを言えた立場か!」

    一度は私を睨み付けた妻ですが、あまりの私の形相に床に座り込み泣き出しました。
    その時ドアを叩く音がして、静かに開きそこには、儀父母か立っていました。

    「大きな声を出して、どうかしたの?。」
    「義父さん、義母さん何でもありませんから。」

    とりあえずその場を取り繕って、儀父母を自室に帰しました。


    暫くの間妻は泣くばかりで、話そうとしません。
    タバコを買ってくると言い残しね私は寝室を出ました。
    タバコが無かったわけではありません。
    その場の重苦しい空気から、しばしの間逃げ出したかったのです。
    近くのコンビニでタバコを買い、遠回りして家へ帰り寝室に入ると妻がいません。
    慌てて寝室のドアを開け妻を捜そうとしたとき、子供部屋から声が聞こえました。
    ドアを開けると妻が床に座り込み、ごめんなさい、ごめんなさい、何度も子供達に向かって頭を下げていました。

    「子供が起きるだろ、向こうへ行こう。」

    弱々しく立ち上がる妻、寝室に戻った妻はようやく、意を決したように話始めました。
    やはり、相手は栗本です。
    長きに渡って私を欺いていた事など、ガラムが好きになった理由等聞かなければ良かったと思う内容の話が続きました。
    妻は子供達の為に離婚だけはしないで欲しい、その一点に関しては目を見開き真剣眼差して私に訴え掛けていました。
    私が暴力を振るうことなく、妻の話を聞くことが出来たのも、由香里との事があったからだと思います。

    人間というのは我がままなもの、私を含め自分に有利な言動をする物です。
    辻褄の合わない行動を取ったり、辛い目に合えば楽な方へ直ぐ靡く、後先を考えず行動を取ったりすることも多々あり、感情に左右され安い生き物であることは身を持って感じさせられました。
    また、人間の学習能力は時に欲望に負け、同じ過ちを起こしてしまう。


    妻の話した事は、私にはとうてい理解出来ませんでした。
    栗本はやはり猛烈なアタックをして来たようです。
    初めは取り合わなかった妻も、帰り際に会社の近くで偶然遭ったりしているうちに、(偶然を装って待ち構えていたのでしょう)、お茶から始まりそのうち例の蔵へ行くことになったそうです。
    初めは好きでも無い人だし、お茶の相手ぐらいと思っていたのが、女性としての魅力を再三に渡り褒められているうちに、妻も有頂天なってしまったらしいです。
    その時私は妻の行動があまりにも軽率なのに腹が立って来て、妻を問い詰めました。

    私「そんなしょっちゅう誘われていたのか?」
    妻「初めは、月に一度か2週間に一度ぐらい、その内週に一回位遭うようになった。」
    私「週に一度位会う様に成ったのは何時からなんだ?」
    妻「初めてお茶に誘われてから、半年位してからだと思う。」
    私「お茶だけにしても、半年も亭主以外の男とお茶を飲むことに抵抗は無かったのか、その後に来るものが想像できなかったのか?」
    妻「今思えば、軽率だったと思います。」
    私「違うだろ、最初からお前の中に何か期待する物があったから、誘われるままにしていたんだろ。」
    妻「最初からそんなつもりは無かった。」
    私「嘘を言うな、だったら何故そんな関係になるまで、一度も私に話さなかったんだ。
    お前の気持ちの中に後ろめたさがあったからだろ。
    その関係を私に知られたくないからだよな!」

    妻は言葉を失い、私の吐き捨てるような言葉に、ただ下を向いているばかり、その姿は茫然自失といったようにも見えたが、私にとっては、言い逃れを必死に考えているようにも見え、妻への罵倒にも誓い追求は暫し続いていきました。


    私はどんな言葉を妻に浴びせ掛けたのだろう、何時しか自分自身が涙声になっているのに気付き、それを隠すかのように目に入ったガラムを一本取ると、震える手で火をつけて深呼吸するように深く吸い込んだ。
    目眩を少し感じながら冷静な自分が戻る間、寝室は静まりかえっていた。
    タバコを吸い終えた私は、妻に栗本との肉体関係について質問した。

    私「何時からセックスしてた。」
    妻「半年位前からだと思う。」
    私「何回位栗本に抱かれた?。」
    妻「解らない。」
    私「解らない位抱かれたのか。」
    妻「・・・」
    私「俺が知らないと思って、やりまくってたのか?」
    妻「そんなにしょっちゅうはいてません。」
    私「じゃ、何回なんだ?。」

    答えの帰ってこないもどかしさに、また私の声は荒々しさを増していました。
    瞬間妻は、体を硬直させ私の目に視線を合わせ10回位と答えました。

    私「10回じゃ、辻褄が合わないだろ、
      週に一回は会っていたのに?」
    妻「生理の時も有ったし、会うだけで直ぐ帰る事も有ったから、それ位しかしてない。」
    私「それ位しかだ、何回であろうがお前のしたことは、
      絶対にしてはいけない裏切り行為だ。」
    妻「ごめんなさい。」

    妻は突っ伏して泣き崩れた。
    私と言えば、自分で回数を問いただしておきながら、行為そのものを攻めていて支離滅裂の感が否めませんでした。
    そして確信に迫ろうと、内容を変えていきました。

    私「栗本とのセックスがそんなに良いのか?。」
    妻「・・・」
    私「そんなに俺とのセックスが詰まらなかったか?
      それとも俺のことがそんなに嫌いか。」
    妻「貴方のこと嫌いになった訳ではないです。」
    私「嫌いじゃないのに他の男とセックスできるのか?
      お前は何時からそんな淫乱女になった。」
    妻「ごめんなさい。」
    私「もう謝って済む問題じゃない。」

    その時の私は、事の前後は有ったにしても、妻と同じ立場であることに気付いてはいましたが、妻の浮気が無ければ私は浮気をしていなかった、そう自分を弁護する気持ちが頭の中を支配していました。

    私「とにかく、栗本と話を付けないとな。」
    妻「・・・」
    私「直ぐ電話しろ。」
    妻「今日は勘弁してください、もう時間も遅いし。」
    私「時間も何にも関係ない。」
    妻「奥さんに変に思われますから、勘弁してください。」
    私「いずれ奥さんにも解ることだろ、良いから電話しろ。」
    妻「・・・」
    私「おまえが出来ないなら俺がする、番号を教えろ。」
    妻「解りました、私がしますから。」
    私「俺が話がしたいと伝えろ、それで解るだろ。」

    別途の脇の電話を手にした妻は、啜り泣きを抑えながらダイヤルし始めた。
    掛け慣れているのだろうか、友達の家に電話する時でさえアドレス帳を見ながらすることが有ったのに、その時妻は何も見ることなく、記憶だけでダイヤルしていたのです。その光景を見た瞬間、私は嫉妬心で顔が強張っていくのを感じました。


    妻は、受話器を耳に当てたまま、フックを左手の人差し指で静かにきった。

    私「何で切る、掛けられなければ俺が掛けると言っただろ。」
    妻「ちょっと待って。」

    数秒おいてから、また妻は慣れた手つきでダイヤルした。
    妻のその行動は、栗本との約束ごとだったようです。
    ワンコールの後に再度電話があった時は、妻からの電話という栗本と妻の暗号だったのです。
    おそらく、その時奥さんがいれば栗本が静止し電話に出るのでしょう。

    妻「もしもし」
    栗本「・・・」
    妻「私、麻美です。」
    栗本「・・・」
    妻「主人が・・・」
    栗本「・・・」
    妻「はい」

    妻は受話器を置いた、あまりの会話の早さに私は妻に問いただした。

    私「随分早かったな、栗本は何て言ってた。」
    妻「掛けなおすそうです。」

    妻の電話の内容から不倫の発覚を察知した栗本は、その場を取り繕い、会社の事務所からまた電話すると言い残し電話を切ったそうです。
    時間も夜の10時を過ぎていたでしょうか、栗本から電話がある間私は妻を攻め始めました。

    私「やっぱり、おまえ達は確信犯だな。あんな約束事まで二人の間にはあったのか?」
    妻「・・・ごめんなさい。」
    私「結局、栗本にお前の方から電話して誘ってたと言うことか。」
    妻「違う、私から誘ったりしてない。」
    私「どう違うんだ。」
    妻「夜ポケベルに彼から連絡があったときに、私から電話してたけど、何も無い時は私から電話はしていない。」
    私「どっちにしろ、連絡に応答していること自体が誘いに応じているという事だろ。」
    妻「そういう事になるかも知れません。」
    私「なるかも知れないじゃないだろ、自己弁護するなよ。」
    妻「はい、すみません。」
    私「そのうちお前は、みんな栗本が悪いとでも言い出しそうだな。」
    妻「・・・」

    妻がまた黙り込むと、我に戻った私はふと気付きました。
    もう直ぐ掛かってくる栗本の電話に対して、私自身なんの準備もしていないことに。
    どう切り出すのか、何から話すのか、どういう態度口調で望むのか、そんなことを考えているうちに電話がなりました。私に視線を合わせた妻に対して、無言のまま電話に出るよう、顎を動かし指示しました。

    妻は電話に向かい、一度深呼吸して気持ちを落ち着けるようにゆっくりと受話器を取った。

    妻「はい○○です、」
    栗本「・・・」
    妻「私、麻美です。」
    栗本「・・・」
    妻「主人に替わります・」
    栗本「・・・」
    妻「でも、私は言えない。」
    栗本「・・・」
    妻「とにかく話をして下さい、お願いします。」

    受話器の向こうで栗本が何を言っているのか、私には想像もつきません。
    ただ妻が受話器に向かい、泣きながら栗本に私と話をするように頼む姿が見えるだけでした。
    私に電話を替わるでもなく、状況に変化の起きない事に腹を立てた私は、妻を怒鳴りつけた。

    私「何をウジウジ話してる。」

    受話器を手で覆いながら、私の方を向きながら妻が言うには、日を改めてご主人とは話をすると栗本が言っているとの事。
    私は我を忘れ妻に駆け寄り、奪うように受話器を取った。

    私「おい、日を改めるとは、どういう事だ。」
    栗本「・・・」
    私「おい、聴いているのか。」
    栗本「聞いてる。」
    私「聞いてるなら、きちんと答えろ。」
    栗本「今日は、お遅いし日を改めて・・・」
    私「お前も、こいつも(妻)今日は遅いの何だの、お前たちのした事が解っててそんな事を言ってるのか。」
    栗本「・・・」
    私「今からそこに行く、どこに居るんだ。」
    栗本「明日にして貰えないですか。」
    私「だから、何で今じゃ駄目なんだ。」
    栗本「・・・直ぐ戻ると、女房に言ってきたし・・・」
    私「何言ってんだ、お前の奥さんも呼べはいいだろ、何れ解るんだ。」
    栗本「それだけは、勘弁して下さい。」

    栗本という男は、私よりも5歳ほど年上でしたが、私の恫喝に近い口調に年齢が逆転したような言葉遣いになっていくのが、私には手に取るように解りました。

    私「とにかく今から行く、事務所に居るのか。」
    栗本「はい。」
    私「奥さんも呼んでおけ。」
    栗本「・・・」
    私「解ったのか、とにかく行くからそこで待ってろ。」

    私は一方的に電話を切り、隣に立っていた妻の袖を掴むと、寝室を後にした。
    栗本の会社の事務所は、車で10分ほどのところに有ります。
    事務所の前に車を止めると、中から栗本らしい男が出てきて、こちらに向かい頭を下げています。
    車から降りると栗本が無言でドアを開けたまま事務所に入っていった。
    事務所に入ると、応接室の前で栗本がこちらへどうぞ、賓客を招くかのように、深々と頭を下げた。
    私の後ろに隠れるようについて来る妻は終始俯いたままです。
    私は促されるままにソファーに座ると妻が私の隣に座ろうとしたので、お前はそっちだと、栗本の隣に座るように指示しました。私に隣に座ることを否定された妻は、声を上げて泣き出した。


    妻がソファーに腰を下ろすと、栗本が立ち上がり炊事場の方に行こうとするのを静止し、私は話し始めた。

    私「お茶ならいらない、奥さんは。」
    栗本「すみません。」

    ソファーに腰を降ろしながら栗本がそう言った。

    過去に面識の有った栗本の印象は、年下の人間を上から見下すような言動を取る男という印象があったためか、目の前にいる栗本はまるで別人のように思えた。
    おどおどして眼が泳ぎ、まがりなりにも企業の専務と言った感じには到底見えなかった。

    私「奥さん呼べと言ったよな。」
    栗本「すみません。」
    私「すみませんじゃないだろ、奥さんを呼べよ、今すぐ。」
    栗本「・・・」
    私「返事をしろよ。」
    栗本「女房にだけは・・・お願いします。」
    私「他人の家をめちゃくちゃにしておいて、自分の家は守りたいのか、むしが良すぎないか。」
    栗本「すみません、何でもしますから。」
    私「馬鹿野郎、そんなに家が大事なら最初からこんなことするなよ。」
    栗本「もう奥さんとは会いません、私の出来ることは何でもします。」
    私「もう会わない、それで済む問題じゃ無いだろ、その程度の気持ちでお前ら遣ってたのか。」

    私は栗本に対して、社会的な立場を認識させる意味も込めてあえて栗本を専務呼んだ。

    私「専務さん、これからどうする気なの、俺の家はもう終わりだよ。」
    妻「貴方、私が悪かった許して下さい。」

    私の怒りが治まりそうも無いことを認識した栗本は、自己保身の言い訳をし始めた。

    栗本「○○さん、私も○○さんと同じで婿養子です、妻や儀父母にこのことが知れると、私はこの会社にも居られなくなりのす。」

    栗本が婿養子であるということは初耳でした、しかしその身勝手な言い分に私の怒りは増すばかりでした。
    このことが私の口から出る言葉に辛辣さを増して行きました。

    私「お前ら、セックスがしたいだけで、後のことは何も考えてなかったのか。」
    栗本「・・・」
    妻「ごめんなさい。」
    私「お互い家族のある同士、ばれた時にこうなる事は予想がつくだろ。」
    栗本「○○さんの家庭を壊す気は無かったです。」
    私「子供みたいな事を言うなよ、実際に壊れたろうが。」
    栗本「申し訳ありません、何でもしますから。」
    私「だったら、ここに奥さんを呼べよ。」
    栗本「・・・」
    私「麻美、専務さんはお互いの家庭を壊す気は無かったそうだ、お前はどうなんだ。」
    妻「私も同じです。」
    私「二人とも後のことは何も考えないで、乳くりあっていたのか、それじゃ、犬や猫と一緒だろ。」

    堂々巡りの会話が続き私は怒りが治まったわけではありませんが、栗本という人間の愚かさに呆れ返っていました。

    私「これ以上は話をしても無駄のようだから、明日もう一度話をしよう。」
    栗本「・・・はい。」
    私「明日の夕方連絡をくれ、それまでに奥さんとちゃんと話をしておいてくれ。」
    栗本「・・・」
    私「お前が話さなければ、俺が話しをするだけだ、事の重大さが解るなら、最低限の誠意は見せろ。」
    栗本「・・・」
    私「麻美、お前はここに残るか、栗本と話があるなら送ってもらえ、俺はこれで帰る、お前らの顔を見てると虫唾が走る。」
    妻「連れて行ってください。」
    私「止めたほうがいい。今、車で二人きりになったら、お前を殴りそうだ。」

    そう言い残して、私は一人で栗本の事務所を後にしました。家に着き、やりきれない思い出寝室に入ると、間もなく外に車の止まる音がしました。寝室の出窓から外を見ると、栗本の車でした。ライトを消した状態で、5分程止まっていた車から妻が降りると、車は躊躇することなく走り出した。ベットに横たわり妻が入ってくるのを待っていると、ドアが開き妻が足取りも重く寝室に入ってきました。

    私「早かったな、栗本と外で何を話してた。」
    妻「何も。」
    私「何も話さない訳が無いだろ。」
    妻「はい、ただもう二人で会うのは止めようって。」
    私「もっと早くそうするべきだったな。」
    妻「すみません、ごめんなさい。」
    私「お前は、この家のことをどう思ってたんだ、
      子供達をどうするつもりだったんだ。」
    妻「ごめんなさい、何でもします。」
    私「栗本と同じ事を言うのは止めろ。」
    妻「ごめんなさい、許して下さい。」
    私「許せる訳が無いだろ。」

    その言葉を最後に沈黙が続き、妻は子供部屋に行き、私は一睡もすることなく朝を迎えました。


    翌朝食事も取らず会社に出た私は、誰も居ない事務所で今日の夜起こるであろう修羅場を想像しながら、自分の席に座っていました。突然肩を揺すられ目が覚めました、いつの間にか眠ってしまったようです。
    目を開けると、そこには後輩が心配そうに私を覗き込んでいます。

    後輩「先輩どうしたんですか。昨日泊ったんですか。」
    私「おはよう、いやちょっと寝てしまった。」
    後輩「何か有ったんですか?」
    私「別に何も無いよ。」
    後輩「なら良いですけど、顔色が悪いですよ。」

    普通の徹夜明けならそうでもないのでしょうが、流石に昨日のような状況下での不眠は、精神面が顔に出るようです。

    私「ありがとう、大丈夫だから。ただの寝不足だから。」
    後輩「それにしても、普通じゃないですよ、顔色が悪過ぎますよ、休んだ方が良いんじゃないですか。今月の予定も達成していることだし。」

    本心では、今日は仕事にならないだろうと思っていました。私は後輩の言葉に甘えることにしました。

    私「確かに気分も少し悪いし、お言葉に甘えるかな。」
    後輩「何時も頑張っているから、少し疲れたんじゃないですか。社長には、代休ということで、私から言っておきます。」
    私「ありがとう、それじゃ頼むか。」

    後輩を残し、他の社員が出社する前に会社を後にしました。考えを纏める為、私は港にまた車を止めていました。精神の不安定さに加え、睡眠不足が手伝い、考えが纏まる訳もありませんでした。結局家へ帰ることにし、家に着いたのは昼ちょっと前でした。家の駐車場に車を止めたとき、義父の作業用の軽トラックが止まっていたので、昼飯でも食べているのかと思い、玄関を開け居間に顔を出した私はびっくりしました。そこには、居るはずの無い妻と祖父母が三人で神妙な顔でこちらを見ているではないですか。状況は直ぐに飲み込めましたが、私からは言葉が出ません。ちょっと気まずい雰囲気の中、着替えてきますと私が言うと、義父が口を開きました。

    義父「着替えたらで良いから、ちょっと話を聞いてくれないか。」
    私「・・・解りました、とにかく着替えてきます。」

    詳細は別として、妻の今回の件に関しての話であることはいうまでも無いでしょう。
    どの様な方向に進むのか、私自身も不安で答えの出ていない状況でした。
    着替えを済ませ、タバコを一本吸うと一階の居間に行きました。

    私「お待たせしました。」
    義父「今日は早かったね。」
    私「え、まぁ」
    義父「話というのは、麻美のことなんだが。」
    私「はい。」
    義父「○○君、麻美のことを許してはもらえないか。」
    私「・・・」
    義父「○○君の気持ちは良くわかる、遣ってしまった事は取り返しのつかないことかもしれない、そこをあえて、お願いする。」
    私「・・・」

    私は本当に言葉を持ち合わせていませんでした。
    今後どうしたら良いのか、誰かに聞きたいくらいだったと思います。
    ただその時自分が持っていたものとすれば、男としての見栄、寝取られ裏切られた男の嫉妬と怒りそれしかなかったように思います。

    義父「子供達のことも有るし、何とかお願いできないか、頼む。」
    私「これからの事は、私にもまだ解りません、でも夫婦としては遣っていけないと思います。」
    義父「それじゃ、麻美を離縁するのか。」
    私「・・・」
    義父「年寄りが頭を下げているんだ、何とか考え直してくれ。」
    私「子供のことは、私もこれから考えて行きます、しかし今の俺には麻美とやり直す自信は・・・」
    義父「君がもし、この家から居なくなったら、孫達も住む家がなくなってしまう、この通りだ、穏便に頼む。」

    その義父の言葉に、人間の本心を見たような気がしました。
    義父としてみればどんな娘であれ、血を分けた娘は可愛い、婿が居なくなれば家も手放さなければならないかも知れない、孫の為とは言っていたが、家を手放したくないだけではと、これは私の僻みかもしれないが。

    私「子供達の事や家のことは、これから考えて行こうと、・・・」
    義父「麻美、お前も謝れ、お前のした事だ。何ていうことをしてくれた、世間にどう言い訳する。」

    義父の本心が見えたような気がしました。やはり、家の事と世間体なのかと、話をしているうちに私のも少し興奮し始め、まだ決めてもいない事を口にし始めました。

    私「今日相手と話をします、これからの事はその後で考える事になると思います。」
    義母「パパ、麻美も反省しています。子供達の為にも何とかお願いします。」
    私「ですから、離婚するにしても子供の親権の問題も有りますし、家のローンのことも有りますし。」

    私の言葉に、義父は黙り込み、義母は泣き崩れました。ただ妻だけ覚悟を決めたように下を見たままでした。またその姿は、私にとっては開き直りにも見えました。思わず追い討ちを掛けるような言葉を私は続けてしまいました。

    私「話によっては、麻美が相手と再婚と言うこともありますし。そうなれば家のローンも問題なくなります、ただ子供は私も手放したくないですから・・・」

    この言葉を聴いた麻美は突然私にしがみ付き、物凄い形相で許しを乞い始めました。

    妻「私は栗本とはもう会いません、私が馬鹿でした、貴方を二度と裏切ることはしません、栗本と再婚なんて言わないで下さい、本気じゃ無かったんです、子供とは離れて暮したくない、貴方離婚しないで、お願いします、許して下さい。」
    私「とにかく、今日の話が済んでからにしようよ。」
    妻「そんな事言わないで、分かれないと言ってくださいお願いします。」
    私「お前も今はそう言ってても、これから俺と一緒に居るより、栗本と一緒になった方が幸せかも知れない。俺との生活の不満を埋めてくれた奴だし。」

    泣きすがる妻をなだめる様に、私は静かに言葉を掛けました。本当は心の中で、もっと思い知れば良いと思っていたはずです、自分の陰湿な性格の部分がこの時目覚めたのでしょう。


    多少妻に対しての恨みを吐き出し、その場を離れて寝室に戻った私は、今晩のことを考え始めました。
    栗本はどう出てくるだろう、どう対処したら良いだろうか。
    栗本の出方次第で状況はかなり変わってきます。
    色々シュミレーションをして見ますが、どれもこれもいい結果は導き出せません。
    嫉妬とプライド、妥協点などある訳がありませんでした。

    子供部屋から声が聞こえました、子供達が帰って来たようです、寝室を出た私は子供部屋のドアを開けました。
    そこには子供達と妻が居ました、子供達は私の顔を見るなり駆け寄ってきます、両足に絡まりつく幼子達は、あまりにも無防備で頼りない存在です。
    その姿は、私の中の母性とでも言うのでしょうか、一挙に気持ちを高めました。
    この子達を守らなければならない、そんな気持つの高まりは自然と子供達を抱き寄せる腕に力を増やさせていきます。長女がまた口火を切ります。

    長女「今日は、パパもママもお休みだったの。」
    私「そうなんだ、でもねこれから大事なお話があるから、お外で遊んでおいで。」

    少しいぶかしげにしながらも、弟の手を引いて近くの公園に遊びに行く長女を見送りました。
    その光景を見つめていた妻は、今までに無く大きな声で泣き出し、目からは大粒の涙がこぼれ落ちていました。

    私「あの子達の事は良く考えないといけないな。」
    妻「・・・はい。」
    私「お前と、醜い争いはしたくは無いが、私もあの子達を手放す気は無い。
      ただ、子供達を引き離す結果になることもあるかも知れない。」
      法律は、私の方にばかり味方してくれないだろう。
      もし私がこの家を出れば、事の始まりは別にして、お前の方が、子供達にとって生活し易い環境に見えるかもしれない。
      母親であり、仕事も持っていて祖父母も同居、ローンは残っているにしても持ち家。
      さらに再婚相手も居るとなれば、独身男の俺よりは格段に有利だ。」

    LastUpdate:2008年12月15日(月)9:20


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