【友達と】馴致/飼育【エッチ】 オナネタ専用エッチな体験談

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    【友達と】馴致/飼育【エッチ】


    おぼろな意識が、惑乱した理性が、私を支配していた。
    仄暗い自室の壁に、鏡写しとなったいやらしい裸体が映し出されていた。
    週末の夜。静かなマンションの室内に、妖しく声が響く。
    『これでもう、早紀ちゃんは絶対に、縄抜けなんかできないわ。注文どおり‥‥』
    『ん、ッッ』
    甘く、低く、ご主人様の声がねっとり耳朶をあやす。
    それだけで一糸まとわぬ私のカラダは波打ち、快楽の記憶に震え上がっていく。
    SMバー『hednism』での一夜。
    女性バーテンを利用して実際のリアルな緊縛を味わおうとした私は逆に罠にはまり、
    猥褻な調教風景をビデオに撮られてしまっていた。自縛マニアだと見抜かれ、一晩か
    けてじっくりステージの内外で嬲られ、一部始終すべてを記録されてしまったのだ。
    (あなた‥‥本当はご主人様なんていないわよね?)
    むろん私は否定しているし、女性バーテンにしてもあくまで推測しているにすぎない。
    けれど、しかし‥‥
    録画されたこの映像だけは、逆らいようのない絶対的な弱みだった。

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    しがないOLである以上、自分の生活を守る為にも、私はあの人に逆らえないのだ。
    微笑みかけてきたバーテンの、いとおしげな瞳。
    『子猫ちゃん』とあの人に呼ばれ、かわいがられ、虐めされて。
    あれから十日あまり。今ではすっかり、私はこの苛烈な被虐の味に馴らされていた。
    もう、普通の自縛では、ただのセルフボンテージでは足らないのだ。
    「んぁ‥‥ん、ンフ」
    バーテンの鮮やかな縄掛けを目にしつつ、私はボールギャグの奥から吐息をもらした。
    あの晩と同じ革マスクが顔の下半分を覆い、喘ぎも悲鳴も吸収してしまう。シンクロ
    するかのように湧きあがった甘い感覚を噛みしめた私は、拘束する準備がととのった
    自らの裸身を見下ろす。
    ぺたんとベットに座った私は、折りたたんだ左右の足それぞれに形状記憶合金で施錠
    される特殊な足枷を食い込ませていた。くるぶしとお尻がぴったり密着するほど膝を
    たたんだこの姿では膝立ちがやっと。お湯に漬けないと外せない足枷は、自縛後の私
    が両手の自由を取り戻さぬかぎり、高さ50センチのベットを断崖絶壁の牢獄に変えて
    しまうのだ。
    『気持ちイイでしょう? 我慢しないで。好きなだけ啼いて、私に喘ぎ声を聞かせて』
    『くぅ‥‥ぅぅぅ』
    愛情深い言葉責めをうけ、巧緻な緊縛を施される裸体が、鏡の向こうで火照っていた。
    ふたたび目の当たりにする私自身の淫らがましさ。
    あの感触、あのわななき、自力ではなにもできず、自由を奪われていく虜の感覚。
    革の拘束着にきつく絞り出されたウェストや乳房がひりひり爛れだす。
    2つの乳首をつなぐニップルチェーンがジャラリと揺れ、とたん、とめどない疼痛が
    バイブを咥えこんだクレヴァスをつぅんと突き抜けていった。
    「ふぐ、ンンンゥグ」
    まだ自縛も完成しないのに、待ちかねていた淫靡な疼痛が躯の芯を灼いていた。あの
    晩以来、このカラダはあの人好みに作り変えられつつある‥‥
    んっと喘ぎを飲み下し、きたるべき絶望の愉悦に焦がれながら手首から拘束していく。
    「‥‥」
    肩に背負うのは、ハンガースタンドから外した軽いアルミ製ポール。卑猥に上半身を
    喰い締める拘束着の革ストラップが、ポールがゆるまないようしっかりと両肩に固定
    していた。
    ピンと広げた両手は、肘の上下と手首の3箇所にそれぞれ革手枷を嵌められ、さらに
    ミトンの革手袋が手首をすっぽり覆って指の自由さえ奪っていた。
    肩のポールに取りつけた金具に手枷・肘枷のナスカン(連結器具)をつないで手枷を
    施錠すれば、広げた腕は一本の棒となり、悩ましいセルフボンテージの仕上がりだ。
    解錠のためのカギはニップルチェーンの中央から垂れ下がり、重みで今も私の乳首を
    虐めつづけている。
    つまりこれは責め絵などで見かける、肩に背負った棒に両手を縛りつける緊縛だった。
    「ンッ」
    カチリ、カチリとナスカンを軋ませ、みずから両肘をポールに括りつけていく。
    あとは残された手枷から下がる錠前をポールに押しつけ、連結して施錠すれば残酷な
    自縛奴隷のオブジェが誕生するばかりだった。
    両腕を磔にされた苦しい姿勢のまま、錠前の開いた手枷をポールの金具に押し当てる。
    「ン‥‥ンフ、かふっ‥‥」
    ほんの一押し。
    けれど、理性のかけらが私をすくませ、ためらわせていた。
    いつものように、最後の最後で躊躇と陶酔がわきあがる。ゾクゾク背筋の引き攣れる
    気持ちよさ、これが私をやみつきにさせ、セルフボンテージの虜にしているのだから。
    絶体絶命の恐怖が、自由を剥奪される慄きが、私を惨めにあおりたてていく。
    特に今回襲いかかったわななきは激しく苛烈だった。
    今回のセルフボンテージはろくに準備もせず、ほどくための手順さえ検討していない。
    ここで施錠してしまったら、私のカラダは取り返しのつかない緊縛を施されてしまう。
    分かっている、絶対にやめるべきなのだ。
    ためしに、寸前までトライするだけの予定だったのだから‥‥
    これ以上してはいけないのだ‥‥
    踏みとどまろうとする理性を、じくじく欲情に溺れた躯が拒み、甘く背を押していた。
    爛れきったクレヴァスを犯すバイブの律動が気持ちイイ。
    こんなに感じてるのに、こんなにイイのに、ここで寸止めなんて、逆に惨めすぎて。
    もどかしくて、意識がおかしくなってしまう‥‥
    そう‥‥ほんのちょっとだけ‥‥この刹那の、めくるめく愉悦のために‥‥

    カキン——
    チャリッ——
    はっと我に返ったときには、すべてが終わっていた。

    無意識に押しつけていたU字錠が連結し、磔の形をとらされた手首が食いこんでいた。
    左右の手枷が施錠された、冷たく無情な音。
    「‥‥ぃうン!!」
    唐突に全身を逆立てるほどの焦燥感に突き上げられた私は、ポールを背負った不自由
    な裸身を激しくうねりよじらせていた。
    狂乱の勢いで暴れまわった両手は、しかし、肩からビィンと一直線に固定されたまま。
    のたうちまわる上体は重く窮屈に囚われていて、そら恐ろしいほどの痙攣が私を興奮
    させていく。
    (ウ、ウソ、まさか‥‥縛っちゃった、どうしよう‥‥)
    ドクンドクン波打ってあふれだす戦慄と恐怖とせっぱつまった焦りと‥‥絶望と‥‥
    やってしまった‥‥
    後先考えず、快楽だけを欲して愚かにも‥‥
    両手の手首も、肘も、ポールにへばりついて根が生えたようにぴくりとも動かない。
    「んぐぅぅぅ!! んっふ、はぅぅぅ!!」
    カーテンを開け放った窓に、卑猥な自縛姿の女性が映りこむ。
    膝を曲げて固定された両足をしどけなく女座りの形でよじらせ、長い棒を背に抱いて
    やじろべえのように腰を揺すり、そのたびに弾むニップルチェーンに甘く激しく乳首
    を噛みつぶされて、ギクリと硬直する下半身をいやおうなくバイブで犯し貫かれ‥‥
    口腔をふさぐボールギャグと、顔を覆うマスクに表情さえ殺されて、ただひたすらに
    うるんだ哀願のまなざしをむけるしかない裸身。
    『よし、これで完成』
    『ファ‥‥ンッ、んンンン!!』 
    『どう? “絶対縄抜けできない”緊縛が、ご主人様のオーダーだったわよね』 
    ゾクリ、ゾクリと奔騰するカラダに注ぎ込まれるバーテンの残酷な台詞。
    ビデオと現実の縄掛けは、自由を奪われてよがりまう躯は、シンクロしきっていた。
    完全な拘束の完成。
    もはや、私のカラダは私のモノではなかった。
    どこの誰とも知れぬマスターに遠隔調教され、堕とされて発情したマゾ奴隷の裸身。
    自ら縛りあげたカラダを痙攣させ、虜の身から逃れる術を知らず悶え続けるしかない
    発情した肉の塊でしかないのだ。
    ミトンの内側で、ギュウと指先が突っ張っていく。
    ほとんど衝動的な愚かしさ‥‥
    バーテンから渡されたビデオを見ているうち、こみあげた疼きに耐えかねて‥‥
    刹那的に実行してしまった自縛から、いったいどうやって抜け出せばいいというのか。
    それにそもそも‥‥この状況から、縄抜けすることが可能なのだろうか?
    本当のところ、私はなにを期待していたのだろう。
    ——確実に失敗するだろう自縛の結末を、絶望の味を、欲していたのか。
    全身をかけめぐった快楽の大波は、忌まわしい自縛の失敗、禁忌を犯した瞬間のダイ
    ナミズムに果てしなく近くて、目くるめく絶頂が幾重にも幾重にも胎内に積み重なり、
    膨れ上がっていって‥‥
    (すごい、どうしようもなく感じている、ベトベトにアソコが濡れそぼって、そんな、
    気持ちイイ‥‥良すぎて、狂って、狂っちゃ‥‥イク‥‥ッッ‥‥!!)
    「ん、ひぅン、く、んんンンン‥‥ッッ」
    まさに、一瞬のうちに。
    壁のスクリーンに映しだされたあの晩の私自身の痴態を見せつけられながら、ビデオ
    に映った調教の一部始終の、その甘美なる絶望の調べに己が自縛姿をだぶらせ、重ね
    あわせながら‥‥
    絶頂の、エクスタシーのはるか彼方にのせあげられ、私の意識は真っ白に消えていた。

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    「さて。早紀ちゃん、だったわね。私から提案があるのだけど‥‥‥‥」
    あの日、あの時。
    青ざめた私を見やってバーテンは口を開いた。
    「普通、こうなったらその後、子猫ちゃんがどうされるか、想像つくかしら」
    「‥‥私の、ご主人さまが、黙っていませんよ」
    「あらぁ」
    パンと手を打ち、はなやいだ仕草でバーテンは声を上げた。
    「ぜひお会いしたいわ。こんな可愛い娘を手なづけるご主人さま。気が合いそう」
    「‥‥」
    「いいのよ、言いつけて。仕返し結構。さぁ、どうする?」
    あくまで意地悪くバーテンはにやつく。しかも、悔しいことに私は反論できないのだ。
    ただ黙って気おされないようにジト目で睨む。
    「まぁまぁ、そう毛を逆立てないの」
    「よしてください。ペットみたいにそういう表現」
    「ふふ。前にも言ったけど、私は無理矢理とか脅迫で奴隷をモノにするのは嫌いなの。
    SMは信頼関係だから、お互いに信頼と愛情がないとダメ。そうよね」
    「‥‥はい」
    「そこで提案。あなた、一日私の奴隷をやってみなさい」
    「え‥‥?」
    「つまり体験奴隷になるってこと。私と早紀ちゃん、お互いの相性がどれだけ良いか、
    実際に肌で試すの。それで最後にどうするか選ばせてあげる。拒否するか、一生私の
    奴隷になって可愛がられてすごすか。二択をね」
    バーテンの台詞は、硬直していた私の身体に電気を通したようなものだった。
    一日体験奴隷‥‥
    私にも、選択の余地が‥‥
    せっぱ詰まった心に響く、福音のような救いの手。
    それは、拒みようのない誘惑だった。私の心はまだ見ぬ本来のマスターと、目の前の
    小悪魔的な女性との間で揺れ動いている。この人をもう一度ご主人様と呼び、調教を
    受けることができる‥‥しかも最後には、自分で選択までできるというのだ。
    「その‥‥もし、その後でやっぱり私が拒否したら」
    「そうね。残念だけど、それ以上要求はしない。写真もビデオのマスターも返す」
    「!」
    「その代わり」
    顔を明るくした私の瞳を覗きこんで、バーテンは嗜虐的な表情をただよわせた。
    「調教師としての誇りにかけて、私は絶対あなたを堕としてみせるから」

                 ‥‥‥‥‥‥‥‥

    ゆるゆる重力を失った絶頂。エクスタシーの波間から意識をとりもどす。
    女性バーテンの提案した期日は刻々と迫っていた。
    その日、私がどのように責められ、どう変わってしまうのか。ただ一晩であれほど私
    を狂わせた彼女から徹底的に調教された時、はたして私はセルフボンテージマニアと
    しての矜持を押し通せるのだろうか。
    あの人なしでは耐えられぬ、淫らなマゾ奴隷に変貌してしまうのではないだろうか?
    飛びついた承諾は、今では悪魔の刻限と化して心を苛み、うろたえさせていた。
    今夜もそう。
    あの晩の事を思い返すうち手は自然と彼女に渡されたビデオへ伸び、壁のスクリーン
    に私自身の調教風景を映し出しているうち、いつか疚しい疼きが肌を覆いだして‥‥
    そうだ、私は‥‥
    あれ、なにをして‥‥躯が、ギチギチ軋んでる‥‥?
    ビリビリ、よがり狂ってるみたいに‥‥すごいの、グチャグチャに私、感じて‥‥
    のろのろ瞳を開け、浮上してきた意識をはっきりさせようと首を振る。

    金属音を奏でた首輪がぎっと緊まり。
    目に映るのは丸出しのオッパイと、勃起した乳首を摘むニップルチェーンの鋭い痛み。
    何もかもがなまなましく女を匂いたたせ‥‥
    部屋の中央に活けられた自縛奴隷のオブジェは、緩む気配もみせずひくひくと痙攣を
    くりかえしていた。

    「ほごっ、ン、んんンンーーーーーーっっ!?」
    あふれかえった絶叫は、しかし、すべて緘口具に吸収され、かすれて宙を漂っていた。
    一片のためらいも容赦も慈悲もなく、すみからすみまで拘束しつくされて。
    目覚めた私は、完璧な奴隷そのものだった。
    はしたなく玩具に嬲られて発情しきり、無力な自縛姿をあまさず空気に晒しつくして。
    嬉しげにニチニチとバイブを咥え、股間をべっとり愛液まみれにしてベット上に放置
    されたまま、男を誘うように飾りつけられていた。
    「ふぅ、ふぅぅっ、ひぅぅぅ」
    ぶるりぶるりと裸身の震えがとまらない。
    自縛していたのだと、自由を奪われた緊縛姿だったのだと、目覚めて気づくこの瞬間
    に心を飲みこむ戦慄と恐慌は何度あじわってもなれることがない。ショックで心臓が
    止まりかけ、次の瞬間、貯めこまれていた快感がどっと流れ入ってドロドロに裸身を
    蹂躙し、最後に凍えるような絶望が肌を総毛立たせるのだ。
    「うっ、ぐ、くぅぅ」
    私にできるのは全身を突っ張らせ、口枷を噛みしめ、狂おしい波をやり過ごす事のみ。
    どうしようどうしよう解けない縛られてる‥‥理性も思考もグチャグチャに潰されて、
    ガクガクとイキっぱなしになってしまうのだ。
    いつのまにか、マンションの部屋にはうっすら朝日がさしかかっていた。
    どうやらイったきり、前屈みの窮屈な姿でうとうとしていたらしい。拘束されてから
    すでに数時間。全身がだるいのもうなずける。
    おそらくはうつらうつら気を失っている間もセルフボンテージの施された肢体は自動
    的にイカされ続けているのだろう。わずかに腰を動かしただけでゾブリと深い凌辱の
    男根が下腹部を芯まで貫き、クレヴァスを裏側からめくりかえす勢いで律動しだす。
    たった一本のバイブに、ここまで追いつめられてしまうなんて。
    奴隷としての認識はまたもカラダに火を点け、あっという間に理性を溶かしだす。
    違うのだ、それではいけない‥‥
    悩ましく眉をひそめ、ギリギリと快楽を意識から締めだそうとした。
    足の指でギュウとシーツをつかみ、未練たっぷりにボールギャグを歯の裏で咥えこむ。
    後から後からわきだす被虐の情感に身をよじり、うるむ目で私自身を仔細に見下ろす。
    「‥‥」
    たっぷり一分近くののち、頭が真っ白になっていた。
    ウソよ、信じたくない‥‥
    こんな‥‥本当に、今度ばかりは脱出の手が思い浮かばない‥‥
    肩に背負うアルミ製のポールに磔の形で拘束されてしまった両手。肩・肘に2箇所と
    手首、さらには首輪までもがポールに縛りつけられ、しかも鎖でなくナスカンで直接
    連結されているため、ポールと腕とがぴったり密着している。
    単純に引っかけて嵌める構造のナスカンも、指が使えない今、外せるはずもない。
    それは両手を広げきった先の手枷とておなじこと。
    この姿は、躯のどこにも手が届かない、きわめて巧緻な拘束なのだ。
    そして私自身を解放する唯一のカギは不自由な手の届かぬ乳房の間、ニップルチェー
    ンの中央にナスカンで連結され、ぶらぶらと揺れている‥‥
    (どうしよう、どうすれば‥‥)
    焦りはもどかしい刺激となり、ヒリヒリと全身に熱を帯びさせていく。
    仮にポールの端まで手枷と留め具をずらしていったとしても、ポールの両端についた
    丸い飾り玉が邪魔をしてポールから抜き取ることはできそうにない。
    ポールそのものは軽く細い。
    けれど女の力ではどうしようもない、強靭な磔の横木となって私を拘束しているのだ。
    この手枷を外せなければ、私は一生このままだ‥‥
    「ひふっっ、つぅッッ」
    たぷんとアソコが蠕動し、みちりと淫音をこぼしてオツユがあふれだす。
    桃源郷の境をさまよって、私のカラダはすっかりドロドロの汁まみれだった。全身の
    拘束着にしみこむ汗。革マスクの下であふれる唾液。根元までバイブを飲み込んで、
    浅ましいオツユ垂れ流しのクレヴァス。
    こんなので‥‥
    いや、この恐怖こそが私をこの極限まで煽りたて、グズグズに感じさせてしまう‥‥
    もっとも深い無意識の底で望んでいた絶望の形がコレだった。
    自分の姿に目を落とし、いとおしく噛みしめる奴隷の証‥‥口腔一杯にふくらみ舌を
    押しひしぐ惨めなボールギャグの縁に歯を立ててくぅんと爛れた吐息をまき散らす。
    あまりにも無残で、縄抜けの不可能な姿だった。
    もはや何一つ自由の残されていない四肢。ただただ言いなりになるしかないマゾの形。
    そもそもセルフボンテージは、コントロールする過程に達成感と快楽があったはずな
    のだ。無謀にひとしい自縛でも、必死にもがき、悶え、快楽にのたうって苦しみ‥‥
    それらすべてをコントロールして、最後には自由を取りもどす。
    それが、自縛のカイカンだったはずなのに。
    「‥‥」
    ふ、クッ‥‥むせぶ熱い吐息をボールギャグの穴から吐きだすと、ヨダレがしぶきと
    なって惨めに飛び散った。
    空白になった頭は、しとどな官能に蕩けた頭は縄抜けの手段さえ思いつかずに無様な
    自縛の舞ばかりをカラダに命じている。こうしてブルブルと、ひくひくと、どんなに
    裸身を弾ませ、くねりよじらせたところで、金属の枷が外れる可能性などないのに。
    これはセルフボンテージではない。
    ただよがり狂うだけの、主のいない調教記録そのものだ‥‥
    『奴隷市場で競りにかけちゃおうかしら。あなた、絶対売れ残らないからおしまいね。
    普通の生活、捨ててみる?』
    「ん、ク!?」
    唐突に耳に届いた女性バーテンの声が、私をぶるっと震わせた。
    パニックに塗りこめられ、忘れていた。
    未だに、ビデオは延々と壁に映像を映しだし、連続再生を続けているのだ。
    残酷な響きをこめ、バーテンの嬲り台詞が続いていく。
    『戸籍も失って、一生快楽をむさぼるだけの人生。短命らしいわね、専属奴隷って』
    ウソ‥‥
    そんな、そんなのイヤ‥‥
    でも、私、抵抗できないのに‥‥このままじゃ‥‥
    あの時、あの瞬間感じていたおののき。
    けれど、それはまさに今の私自身に重なってしまうのではないだろうか。
    そもそも自縛の予定など立てていなかった私は、いつもと違って玄関のカギを閉めた
    まま。この猿轡では悲鳴さえどこにも届かず、仮にどうにかベットから降りられたと
    しても膝立ちの、両手を磔の、この姿では狭い玄関にさえ入ることができない‥‥
    「ひぅぅぅ、んぶ、ンォ、いぁぁぁァァ‥‥!!」
    どろりとあふれだす絶望の調べ。
    連綿とくりひろげられる私自身の調教の記録と、何の変わりがあるというのか。
    今の私はどこにも行けず、なにもできず、ただ機械的にイカされながら衰弱していく
    ほかない、快楽をもさぼるだけの人形なのだ‥‥
    はしたないその光景に目を奪われ、同じようにギシギシと身を軋ませつつ、ふたたび
    鼻先へ突きぬけるような苦しく激しいエクスタシーに飲まれた拘束姿の裸身は、わき
    腹を波打たせ、懸命に快楽反応を噛みしめながら軽々と絶頂へ昇りつめていく。
    「ン~~~~~~~~~~ッッッ!!!」
    拘束された両手が動かせず、アクメの衝撃が受け止めきれずにカラダの中を暴れ狂う。
    声にならない絶頂の悲鳴とともに、ドプリとしとどな淫ら汁が、股間の革ベルトから
    洩れだした‥‥
    週明けの朝、更衣室で出会った中野さんと私は目を合わせる事ができなかった。SM
    バーで肩を並べたステージ調教はほんの2日前。まだ、あまりに生々しかったのだ。
    そそくさと挨拶して自分のロッカーに行きかけたところで、背中から声をかけられる。
    「早紀先輩、一昨日の夜、会いましたよね」
    「‥‥え?」
    文字通り、ビクン、と背が跳ねた。ぎこちなくなる手足を押さえ込む。
    カマをかけられている‥‥
    あの時の奴隷が私だと、疑われているのだ‥‥
    さりげなさを装ってふりむくと、いつもおっとりした顔の彼女が、はっきり疑惑の色
    を浮かべて私を凝視していた。
    「アレ、痛くありませんでした? 私、お股がひりひりしちゃって」
    「ンーっと、ん、なに? 一昨日?」
    「‥‥」
    「‥‥‥‥」
    「‥‥‥‥違うの、かな? ホントに?」
    「あの、中野さん。いいかな。もう着替えないと」
    「あ、はい、えっと‥‥ええ」
    粘りつく視線を振りきり、私はその場を立ち去った。ロッカーが彼女と対角線にある
    のが、これほど嬉しかったことはなかったと思う。
    なぜって‥‥
    その時、私の肌には調教でつけられた縄目の痕がまだ鮮やかに残っていたのだから。

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    またしても意識を失い、浅い夢を見ていたらしい。
    ふっと上半身を起こしかけ、カラダ中の筋肉がぴくりとも動かせないことに気づく。
    あぁ‥‥そうだった。今の私は、人でさえないのだ。
    最下層まで貶められた発情期のケモノ。
    シーツの上で悶える機能しかない、発情中の、裸の置物に過ぎない‥‥
    目覚めとともにたちまち苦しく浅ましいセルフボンテージの愉悦が汗みずくの肌身に
    しみわたっていく。サディストの私自身によってデザインされた自縛の味は、Mであ
    る私自身のツボを完璧につき、あらがう間もなく絶頂まで昂ぶらされてしまうのだ。
    みずからの手で選びぬいた調教を奴隷の身に施されていくこの悩ましさ。
    軽く身悶えただけで下腹部がにちりと淫音をしたたらせ、ゾクゾク責めあげられて。
    自分好みのカラダへと躾け直され、無力に堕とされた躯を犯し貫かれる快感ときたら。
    くぅ‥‥ンッ、ンン‥‥気持ちイイ‥‥
    イイ、よぅ‥‥
    「あフ、はぐぅぅ」
    本気のよがり声、これさえかすれて声にもならないのだ。
    助けを求めたくても、私の唇になじみきったボールギャグが愛情深く口内に食い入り
    ストラップが頬をくびれさせるほど引き絞られていて、悲鳴さえくぐもった喘ぎ声に
    変換してしまう。興奮しきっていた昨夜の私自身の手で施された拘束の硬さを、どれ
    ほど恨めしく思いかえすことか。
    完璧に口腔を埋めつくす口枷をわざと音高くぎしぎしっと咥えこみ、吐きだせないか、
    せめて緩まないかときりきり空しく口の中で転がしてみる。
    舌の根元をみっちり圧しひしぎ、歯の裏にへばりつく悩ましいスポンジボールギャグ。
    小さな口元を限界まで開かせっぱなしのボールギャグは完璧に収まっていて、だるい
    顎がひりひり疼き、残酷な圧迫感がつややかに官能を揺さぶりたててくる。
    「くふっ、はぁンン、カハァ‥‥」
    喘ぐ快感。声を奪われる快感。人としてのコミニュケーションを奪われる快感。
    必死になって喘げば喘ぐほど、私のカラダはふるふると熱く淫らに茹だってしまう。
    後頭部のストラップを解かないと声を取り戻せない。そんなことは分かっているはず
    なのに。ムダだと、無意味なあがきだと、身をもって知っているのに。
    なのに、煩悶はとめられず、体力ばかり消耗してしまう。
    なんて愚かしく哀れなんだろう‥‥その思いがまた奴隷の躯をそそりたてるのだから。
    堂々巡りの快感の輪廻。
    ただしく、救いようがないマゾの業とでもいえるだろうか。
    幸い、たっぷり水を含ませておいた猿轡は鼻を覆う革マスクに密閉され、喉の渇きは
    心配なさそうだ。
    けれど、そのせいで口の中はパンパンに膨れあがっていた。汗とヨダレで顔に張りつ
    く革マスクの表面にボールギャグの輪郭がうっすら浮かびあがる光景は淫靡そのもの。
    無残な縛めの身である私に可能なのは、ねっとり涎にまみれて唇と一体化した口枷を
    ただ恨めしく見下ろすことばかりなのだ。
    「‥‥‥‥ンっ」
    首をふりたくっていた私は、やがてがくりと肩を落とした。
    やはり、こんな手段では到底吐きだせそうもない。助けを求めるのは不可能だ‥‥
    自虐的で悩ましい抵抗にズクリと全身が疼く。
    爛れた粘膜をめくり返していくような、たまらない悦びと怖れの深み。
    キュウキュウ蠕動するクレヴァスが、引きちぎりそうな勢いでバイブを飲みつくす。
    そう。
    まさしく、はしたないことに、狂おしいことに。
    今の私はこんな行為にさえ感じきって悦びを極めさせられてしまう、マゾ奴隷なのだ。
    つぅんと体内をつきあげる、得体のしれないおののきにあらがいきれずに‥‥
    凄いっ、グジャグジャになってる、躯の中で暴れてる‥‥ぅ‥‥
    「‥‥‥‥ッッ!!!!」
    達してしまう瞬間、背筋がひきつれ、カクンと前のめりに崩れた私はきりりとボール
    ギャグを噛み縛っていた。あふれかえる刺激の波の大きさにこらえきれず、絶望と被
    虐の象徴に歯を立てたままブルブル全身をつっぱらせていく。
    ボールギャグから水音があふれ、革マスクの内側をべっとり汚していった。

    窓の外では、すでに日が高く昇りはじめていた。
    週末にはまだ早い金曜日。体調不良だと中野さんを通して会社に伝えたのは昨夜だ。
    日頃まじめで通っている私の欠勤理由が疑われることはないだろう。
    OLたちが仕事をしているこの同じ瞬間、まさか熱に浮かされたセルフボンテージで
    自由を剥奪され、絶望的な凌辱の渦に巻きこまれているとは、思わない‥‥はず‥‥
    「きひッ‥‥ン、ひぅぅ、ふ、カフッ、ぃうンンン」
    またっ、またイカされちゃう‥‥ッッ!!
    止まら‥‥ない‥‥誰か‥‥
    とぎれなく襲いかかってくるハードなリズムに、灼けついた神経が痛みで爛れていた。
    腰がビクビクよじれ、たてつづけに昇天させられてしまう。イッた直後の裸身を容赦
    なく責めあげるバイブの律動を、馴染みきったカラダはすぐ受け入れてしまう。
    もうダメ‥‥
    狂う‥‥狂っちゃう‥‥
    完璧に痙攣しっぱなしの手足が動かせないだけで、どれほど苦しいものか。
    例えばジェットコースターで急降下する瞬間、バーを掴むことができないとしたら。
    高いところから足を踏みはずすあの一瞬が、永遠に終わらないとしたら。
    身じろぎさえ許されない何重もの革拘束に責められながらのエクスタシーは、快楽の
    波濤に乗せ上げられて降りることもリズムをとることもできない、コントロール不能
    な凌辱の恐怖そのものなのだ。
    「ひぐっ、ひぐぅぅぅ」
    ただひたすらに上半身をグラインドさせ、甘い波に身を任せようとする。
    けれどそれは、ニップルチェーンで連結された乳首をいたずらにかきむしるのと同じ。
    身じろぎにあわせ、乳首に噛み付いた金属の金具が激しく揺れる。
    過敏な先端をびりびりっと食いちぎる苦悩の衝撃は全身をすくませ、やがてじんわり
    した疼痛となって乳房全体に広がり、腫れあがっていく。
    我慢できない苦痛が、むずむず感が広がっていく。
    それを嫌って上半身を硬直させていれば、今度は逆にヴァギナをえぐりこむ官能の渦
    がたえがたいくらい沈殿していって昂ぶらされてしまう。
    結局、どのような形にしても不自由なカラダは快楽反応の二律背反に板ばさみとなり、
    むさぼらされるアクメにやがて意識を遠のかせてしまうのだ。
    本当に凄い‥‥いくらでもイケる‥‥
    止まんない、絶対、ダメ‥‥
    このまま楽しんでいたら、溺れていたら、私は終わりだ‥‥
    ギュッと瞳をつぶり、マゾヒスティックな楽しみを断ちきるようにして身を起こす。
    ぐっとお腹に力が入り、下腹部のベルトが急激に股間に喰いこんだ。にぢりと肉割れ
    が裂け、二分させられた恥丘を盛りあげながらさらにバイブが深く抉りこまれていく。
    止まる気配もないバイブが、いやらしく唸りを上げる。
    「ぅぅグ、んぁぅぅぅ」
    すでに半日近くみっちり犯されつづけた私の躯は熟れきっていて、わずかなバイブの
    角度の変化でさえ、爛れて敏感になった媚肉が喰らいついてくるのだ。
    無神経な玩具に嬲られつつ、けだるい全身に残った力をかき集めてカラダを起こす。
    セルフボンテージのお約束があってこそ、快楽は快楽でいられるのだ。
    だからこそ。
    金属と革の硬い縛めから、逃れなければ。
    まだ余力があるうちに、気力が快感に溶かされてしまう前に、縄抜けしなければ。
    胸の谷間で揺れる手枷のカギを、チェーンから外すのだ。
    どうすれば外せるか。どうすれば、自由が手に入るのか。必死になって頭を働かせる。
    単純にナスカンで留められているだけなのに、完璧な磔の身では手も届かず、顔半分
    をすっぽり覆う革マスクとボールギャグのせいで歯を使うこともできない。
    鼻先にぶら下がっているのに決して届かない、絶望の餌。
    なら、ならば、緊縛姿の私に残された手は‥‥
    ‥‥行うべき行為に思い当たったとたん、想像だけでくらりと甘美な眩暈が走った。
    はしたない行為。
    まるで快楽をむさぼる子猫のような情けない行為。
    それでも、何もしないわけにはいかない‥‥
    覚悟を決めた私は、はしたなく喘ぎながら上半身をリズミカルにゆっくり振りだした。
    最初は小刻みに、しだいに、大きく旋転させるように。
    着慣れた革の拘束衣によってくびりだされていた大きな乳房が、たぷたぷと弾みだす。
    2つの胸を繋ぐニップルチェーンを振りまわし、反動で手枷のカギを外そうとする。
    「ンッ、んぎィ!」
    ズキンと乳首に痛みがはしり、顔がのけぞっていた。
    鮮烈でダイレクトな疼痛。金属のクリップに噛みつかれた乳首がじぃんと痺れ、痛々
    しく充血して尖りきっている。かきむしりたいような狂おしさが乳房全体に広がって
    いくのだ。
    髪の毛がさかだちそうな刺激を我慢して必死に上体を弾ませる。
    ギィンと遠心力でつっぱったチェーンが弧を描いて胸の谷間に叩きつけられる。その
    衝撃と苦しさと、一瞬楽になった乳首に走る電撃めいたひりつきと。
    磔になった両手がミトンの中で痙攣し、無意味にあがく。
    ほとんど運任せで縄抜けとさえいえない稚拙な手段。それでも運良くこれでナスカン
    が外れてくれたなら、すべてが終われるのだ。
    この苦しい疼痛も、惨めでいやらしい卑猥な胸振りダンスも‥‥
    ダメだ、そうじゃない、エッチなことを考えちゃいけないんだ‥‥またおかしく‥‥
    絶望の味がこんなに気持ちイイのに、また感じ出したら‥‥止まらなく‥‥
    不意に、ぶるぶるっと裸身がわなないた。
    体の奥深くで大きくうねる官能のささやきに、躯がどろりと崩れだす。
    いけない‥‥また‥‥私‥‥
    あふれる刺激をこらえようとねじった顔が壁際の鏡を見つめ‥‥それが終わりだった。
    悩ましく瞳をゆがめ、快楽の熱をむさぼりつくす奴隷の姿。
    ‥‥どうして抗えるのだろう。
    これが、私の最高の望みだったのだから。
    ひとしれずイキ続け、決してほどけない拘束の中で無情にのたうつのが‥‥
    本当に、なんて情けない姿。哀れで、綺麗で、蕩けそう‥‥
    千切れそうな痛みが、膨れあがった乳首の掻痒感が、とめどなく肌を灼きはじめる。
    どうしようもない不自由さ、もどかしさが、マゾの疚しさにすりかわって甘く激しく
    カラダを苛みだすのだ。
    ふぅふぅと息を吐く頬が、じわじわと快楽の波に火照りだし、耳まで染まっていく。
    違う、私はこんな刺激なんか求めていないのに。
    この無限ループから抜け出したいのに、残酷な拘束はゆるむ気配も見せなくて。
    自由を剥奪された事実そのものが、絶望的に身を揺すりたてるだけの行為そのものが、
    めくるめく快感を裸身に注ぎ込んでくるから‥‥
    ふたたび下腹部がよじれ、バイブを振りたてて深く深く収縮と蠕動をくりかえしだす。
    嫌だ、もう、こんな形はイヤなのに。
    こんな、このままじゃ、また私、イかされちゃ‥‥‥‥ッッ‥‥‥‥
    「‥‥‥‥!!!!」
    刹那、意識を走った火花はまさに真っ白く脳裏をアクメでぬりつぶして。
    圧力だけで壊してしまいそうなほどに、みちみちとお股のバイブを喰い緊めたままで。
    ガクガクッと絶息し、ふるふる肩を震わせる私のお腹には依然として冷たいチェーン
    のとカギが、空しい努力をあざ笑うかのように押し当てられたままだった。
    ふぅ、ふぅぅと爛れた喘ぎが絶頂の苦しさを物語る。
    終わらない。
    終われない‥‥何度イかされても‥‥抜け出せない‥‥自縛の罠から‥‥

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    放心‥‥して、いたのだろうか。
    気づいた時、私は天井をながめ、シーツの上に身を横たえていた。
    横たわるといっても、頑丈な革の足枷に折りたたまれた下半身は立てた膝を伸ばせず
    苦しい姿勢のまま。ポールに括りつけられた磔の両手はベットからはみだし、手首が
    宙に垂れている。肩の下に固定された棒のせいで肩甲骨が浮き上がり、背中が反り返
    ってしまうのも終わりのない自縛の辛さを強調するのだ。
    ねっとりと、みちみちと、身じろぎに応じて革鳴りが響き裸身が緊めつけられる。
    たえまないアクメの連続でふわふわカラダが地につかないような、非現実めいた陶酔
    が全身をむしばんでいる。
    けだるく甘い絶望の果実、そればかりを味あわされて。
    想像以上に四肢は憔悴しきり、ぐったりと気力を失って弛緩しっぱなしだった。
    無理もない。
    ろくに食事もとらず、ひたすらに絶頂を極めさせられて、体力が消耗するのは当たり
    前なのだ。こうして時間がたてばたつほど症状はひどくなり、セルフボンテージから
    の脱出をさらに困難にしていく。
    悔しさでじわっと涙が滲み、拭くこともできずにつぅと頬をしたたっていく。
    天井にのびた陽射しが、徐々に影を濃く伸ばしだしていた。壁のTVもいつのまにか
    消え、静かな室内にこだまするのは浅く鼻にかかったマゾの嬌声ばかり。
    「‥‥」
    キュッとボールギャグを噛みしめ、この悪夢が現実だということを再確認する。
    ‥‥運良く、誰か部屋にこないだろうか。
    そう。例えば、隣の水谷君が異常に気づいて入ってきてくれたら。
    現実逃避の妄想さえ浮かべてしまうほど、私の理性は疲弊しきっていた。
    当然、都合のいい展開が転がってくるはずもなく、革の拘束具は手足を阻んだままだ。
    芋虫のようにいざり、のたうち、よがりまわって。
    どうしたらいいの、私は‥‥?
    身の内を引っかきむしるような鋭い焦りが、冷汗が、全身をびっしょり濡らしていた。
    絶望したら、希望を失ったらそこで終わってしまう。
    せめて‥‥そう、せめて私をセルフボンテージに導いたご主人様に、間違って拘束具
    の小包を送ってきた見知らぬマスターに出会うまでは、諦めるわけにいかないのだ。
    シーツの上で七転八倒し、ようやくのことで上半身をおこす。
    たったこれだけで、もう私はぜいぜいと息を切らしていた。その事実にぞっとする。
    体力が、余力があとわずかしか残されていない。
    「くぅッ」
    閉じられない歯を食いしばり、女座りの姿勢から転倒に気をつけて静かにうつぶせる。
    たわわに充血し、ビリビリしびれる乳房が体重で押しつぶされ、悲鳴をあげていた。
    カラダの下でニップルチェーンが引き攣れ、麻痺しかけていた神経に、新たな疼痛の
    芽が乱暴な勢いで塗りこめられていく。
    「ん、んくぅ‥‥ふぉォォン!」
    たえがたい痛みに惨めにも反応させられ、バクンと弾んだ裸身はお尻を高々と掲げた
    ぶざまな姿勢で凍っていた。磔の横木が背に食い入り、断頭台のようにシーツに頭を
    うずめさせた。口枷を食いしばり、やっとの思いで顔をねじって呼吸を確保する。
    なんて淫らな光景なんだろう‥‥
    イメージするだけでどろりとカラダが達しかけてしまう。
    これは、オシオキを待ちわび、マゾの悦びにオツユをしたたらせる服従のポーズだ。
    バックから犯されるときのケモノの姿勢。違う、だから、カギを外すことだけ考えて
    ‥‥疚しい邪念を払いのけ、ゆっくり腰を前後に振りはじめる。
    カラダの下敷きになったチェーンはねじれ、ナスカンにも体重がかかっていた。この
    ままチェーンをシーツに擦りつけてやれば、あるいは外れるかもしれない。そういう
    読みなのだ。
    チェーンそのものをナスカンに押しつけようと、カラダをくねらせて調整していく。
    「くッ‥‥んんぅフ、ヒクッ」
    しかし、上下動を繰りかえしだしたとたん、全身が狂ったように跳ね蠢いた。
    気違いめいた衝撃と、意識を遠のかせる快感の波。
    チェーンよりも先に揉みくちゃにされた乳首から量りがたい刺激の奔流がだくだくと
    流れこみ、甘い悲鳴が自然と絞り出されてしまうのだ。
    下腹部に突き立ったバイブまでが拘束衣の軋みにつれてズリズリ蠢いて、まるで本当
    にバックから犯されているみたいな、妖しい気分になってしまう‥‥
    「ンンッッッッ」
    チリン、ちゃりっと金具のぶつかる音が響きつつも、のぞきこむ胸の谷間から一向に
    ナスカンが外れようとしない。体重をかけ、ナスカンの可動部にチェーンを押しつけ
    ようとしても、柔らかいシーツに埋もれたナスカンはすぐに滑ってずれてしまう。
    なによ‥‥どうして、うまく‥‥いかないの‥‥
    考えてみれば、その時すでに私は呆けきっていたのだ。
    手も使えないのに、どうして柔らかいシーツに押しつけただけでナスカンが外れると
    思い込んでしまったのだろう。これこそ不可能に近いというのに。
    もっと有効な手はあったはず。
    膝の間にはさんでナスカンを外すなり、自由な足の指を使う方法を考えるなりすべき
    だったのだ。けれど、もちろんそうしたアイデアが浮かびかけた時にはすべてが手遅
    れで。
    「あぁン、ふぁぁぁン、ンンーー!」
    いつのまにか。
    まさにいつのまにか、痛みにむしばまれるこの儀式は本来の目的を見失いつつあった。
    ピンと括りつけられた両腕が、ギシリギシリと革にあらがって淫らな軋みを奏でだす。
    痛くて痺れて感覚さえおぼろになりかけて、なのに、腰の反復運動だけが奇妙にイイ。
    気持ちイイ感覚に流されて、とめられずに暴走しだすのだ。
    イケない、まただ‥‥
    私、また‥‥うぅ、どうしよう‥‥
    また、また‥‥最後までイきたく‥‥イかされたく、なっちゃってる‥‥
    ビクビクッと裸身が突っ張り、激痛とただれきった痺れがオッパイをじぃんと激しく
    包み込んでいく。すごい、本当に感じてる。ご主人様の手でグチャグチャに嬲られて、
    思いきり揉みしだかれているみたいな、そんな気分に、なってる‥‥
    ‥‥理性だけは失うまいと踏みとどまるのも、儚い抵抗で。
    ねじれきったニップルチェーンの鎖が、クリップにはさまれて充血した乳首を痛烈に
    ひしゃげさせた次の瞬間、私は声をあげて思いきり絶頂を迎えてしまっていた。


                 ‥‥‥‥‥‥‥‥

    窓の外が、昏くなりかけている。
    夜が、不自由なままで迎える夜が、やってきた‥‥
    いじましさ、焦り、消耗、すべてが渾然一体となり、私をけだるく束縛していた。
    硬い革拘束の残忍さだけではない。ことごとく思いついた脱出の方法が失敗に終わり、
    疲弊した肉体はもう縄抜けをしようと決意する気力さえ奪われてしまっているのだ。
    どうしようもない、自縛の、終わり。
    あっけないものだと思いかえす情けなささえ希薄で、ただひたすらに全身を震わせる
    凌辱の悦びに私は痙攣を続けるばかりなのだ。
    まさに、ベットの上に置き去りにされたインテリアのように、震えるだけの存在‥‥
    「みゃーー」
    聞きなれた声が私を現実に引きもどした。シーツに爪をかけ、よじのぼってくる子猫。
    テトラにエサを与えるのを忘れていたんだっけ、私。そっか‥‥
    ‥‥
    ‥‥‥‥
    そうだ、テトラなら!
    天啓がパァッと連鎖的に閃いていった。
    テトラ。私の飼っている子猫。人なつこく、好奇心おうせいで、活発な子猫。そして
    引っかきグセのある・・・・・・・・・子猫だ。
    バーテンの罠から私を救ってくれたのもこの子だったのではなかったか。あの時も、
    外しようがなくのたうちまわっていた私のコートのボタンを引っかきまわし、いとも
    器用に外してしまったのだから。
    なら、この子になら、テトラなら、ニップルチェーンから伸びるナスカンだって‥‥
    「ンッ、くぅんンン」
    不自由な猿轡の下からつとめて喉声をあげ、テトラの気を引こうとする。もっとも、
    愛想をふりまかなくても腹ペコの子猫は私に注意を向けてくれたようだった。
    とことことやってきて、そこで私の興奮具合に気づいたのだろう。ブルブルっと躯を
    揺すりたて、なぁーと甘い声で擦り寄ってくる。
    不自由な奴隷のカラダで子猫を待ちわびるドキドキと緊張感は限界まで高まっていた。
    心臓の鼓動が壊れそうなぐらい。無理もない、この一瞬を逃したら、私は二度と自縛
    から逃れられないのだ。
    太ももにぴっちり吸いついた革の足枷にじゃれかかるテトラを、必死になって乳房の
    方に集中させようとする。上半身を弾ませ、キラキラとニップルチェーンを光らせる。
    テトラ、こっちだよ、こっちこっち‥‥
    足枷なんかどうでもいいから、ホラ、このチェーンをいじって‥‥
    チェーンの、ね、中央の、ナスカンを引っかいて外すの‥‥
    声を出せぬ口の中で必死に呼びかけ、子猫の機嫌をとろうとしている。どうしようも
    なくいじましい、緊縛奴隷と移り気なペットの駆け引きだ。私にはいっさいの自由が
    残されていないのだから、ただ子猫のきまぐれに身を任せるしかない‥‥
    無力な裸身がビュクビュク疼く。
    ニップルチェーンを振りまわす乳首はギリギリ疼痛に変形し、浅ましさでカァァッと
    カラダは火照りだす。
    なんて惨めで、卑猥で、いやらしいんだろう。
    被虐の悩ましさを体感させられ、とぷりとぷりと蠢くクレヴァスが蜜を吐きだす。
    子猫のほうに絶対的な主導権がある以上、私はそっと促すしかないのだ。
    やがて‥‥
    「みゃ」
    一声あげたテトラは、唐突にジャンプしてニップルチェーンにぶら下がった。
    鮮烈な痛みが、激痛が、もっとも敏感な先端をつらぬく。
    「ヒゥゥッッ!」
    こみあがった悲鳴はまぎれもなく恐怖と痛みによるものだった。
    思わず上体をたわませて後ろに逃れかけ、そのカラダが不自然にガクンと硬直する。
    飛びつき、ぶら下がった子猫のがニップルチェーンにそってずるずる滑り落ち、中央
    に下がったナスカンに思い切り体重を預けたのだ。
    「ピギャア!」
    びっくりしのか威嚇の唸りをあげ、子猫がぎゅむっとナスカンにしがみつく。両足を
    つっぱらせた不自然な立ち姿で、子猫は私のニップルチェーンを‥‥そしてその先の
    乳房を、異様な勢いで変形させていくのだ。
    信じがたいほど鋭角にV字に張りつめたニップルチェーンが、歪に乳首を引き伸ばす。
    その痛みが、たえがたいむず痒さが、私を恐慌に突き落として。
    千切れちゃう、痛いっ‥‥
    お願いだからテトラ、ヤメッ‥‥‥‥‥‥ッッッ!!
    「‥‥‥‥ンム、んぅぅ‥‥」
    「ピニャァァ!」
    威嚇の声をあげて子猫がぴゃっとベットの端まで飛びのく。
    ちょろちょろっと私の股間から溢れたのは、言うも恥ずかしい‥‥生理的欲求だった。
    湯気をあげるおしっこが、あまりの痛みにせきを切って洩れだしたのだ。
    「‥‥!!」
    誰も見ていないというのに、顔が真っ赤に火照っていく。
    自縛プレイの真っ最中に飼い猫に責められ、あろうことか失禁してしまうなんて‥‥
    子猫にお漏らしさせられてしまったのだ。
    あらかじめ何重にも敷いてあった防水シートとタオルの上に、おしっこがしみていく。
    呆然と、拘束された躯をヒクヒク揺すりあげてありえない痴態を眺めながら、解放感
    と恥辱の羞恥に意識をさいなまれ、ふたたび私はマゾの愉悦をむさぼらされていた。
    ゾクンゾクンと跳ねる腰が、渦を巻く頂上の遥かな高みへ裸身をつきあげていく。
    こんな、こんなことでまたイカされてしまう‥‥
    さらに消耗した私は、無力な自縛姿で延々と、自動人形のようにイキ続けるのだ‥‥
    「くぅぅぅゥッッ!」
    絶頂の苦しさに背がのけぞり、大きくおなかを波打たせて深呼吸しようとする。
    嫌だだった。
    こんなので、こんな恥ずかしい形では、イキたく、ないのに。
    ぶるりと腰が震え、おしっこの最後の一滴が、ちょろっ、と解放されて。
    「‥‥‥‥」
    恥辱のあまりギュッと瞳を閉じたまま、私はエクスタシーにつきあげられていた。
    びっしょり汗にまみれたカラダを室内にさらして、たちのぼる臭気から逃れることも
    できず。
    でも、でも‥‥
    視線の先、そこにはナスカンの外れたカギが転がっていた。
    ポールに括りつけられた両手を解放しうる唯一のカギ。唯一の、最後の希望。
    ミトンを嵌められたこの手で扱うのは難しい、けれど少なくともこれで、カギは私の
    手に入ったのだ。
    「んっ、んっクッ」
    喉を鳴らし、ようやく絶頂のリズムにカラダを馴らして愛しい子猫を見やる。
    彼女は眉の間をしかめ、鼻をくっつけるようにカギのにおいをかいでいた。
    そして。
    テトラは、不機嫌そうな猫パンチで、手枷のカギを弾いたのだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
    完全に凍りついた私の前で、ようやく外れた手枷のカギが転々と転がりだしていた。
    シーツの上を弾み、埋もれる小さなカギ。それが気に入ったのか、しきりにテトラが
    前足で転がし、そして、次第にベットの端の方に追いやっていくのだ。
    「んんンッ、んふぅぅぅゥーーーーッッ」
    喉の奥で声も吐息にもならぬ絶叫をあげ、慌ててテトラを押さえつけようとして‥‥
    わが身の浅ましい現実に愕然となる。
    みっしりと革の手枷足枷に塗り固められた彫像そのものの裸身。
    今の私は、テトラをつまみあげることさえできない、どころか声を荒げて叱りつける
    ことさえできない、文字通りの無力な状況におかれていたのだ。
    それでも、被虐の官能に浸かりきって力なく折りたたまれた下半身を悶えさせ、深く
    シーツに沈みながらも無意味にあがきまわって子猫に近づこうとする。たぷんたぷん
    乳房をふりまわし、はたから見たらさぞ扇情的だろう煩悶も、エクスタシーの苦しい
    痙攣を押し殺す私にとってはこれが最後のチャンスなのだ。
    とにかく、カギさえ手に入れれば、あとはこの辛い一人遊びから解放されるのだから。
    一度に5センチずつ、10センチずつ、じりじりと子猫ににじりよっていく。
    駄目よテトラ、違うの‥‥
    それは、あなたのオモチャじゃないの‥‥やめなさい‥‥!!
    本当に‥‥怒る、から‥‥だから‥‥
    「はグぅぅ!」
    ぐらりとよろめいて踏んばった瞬間、鮮烈な快感が衝撃となってカラダを貫いていた。
    ニップルチェーンが足枷の紐にからまり、私は私自身の全体重で爛れきった乳房を、
    すでに虐めぬかれてジンジン痺れている乳首を、円錐形に引き伸ばしてしまったのだ。
    純粋な、まじりっけなしの痛みに涙があふれだす。
    ひどい、こんなの‥‥カラダ、壊れちゃう‥‥
    つんのめった躯が、頭からひっくりかえりそうになる。
    あわてて体を支えかけた手はしかし革の枷に引き戻され、今度は逆に自分の漏らした
    おしっこの痕に顔からつっこみかけていた。焦って弾ませたカラダは反動でずるりと
    滑り、かせいだ距離をあっというまもなく引き戻されてしまう。
    まったくの無駄。手を休めた子猫までのほんの1メートルが、はるかに遠すぎるのだ。
    「ン、はぅ‥‥ンンッ」
    乳首の痛みに上体を折ってよじったカラダを、つぅんとマゾの愉悦がつきぬけていく。
    不思議そうに首を傾げるテトラにさえ、子猫にさえ弄ばれ叶わないこの現実ときたら。
    あまりに、あまりにいじましくて、私をおかしくさせていく。
    本当に‥‥どうして、私はこんなに惨めな目にあわされているんだろう‥‥
    ひどすぎる‥‥こんなので、もう、感じちゃっている‥‥
    ゾクゾクッと悦びに口の端から涎があふれ、下腹部でジュブブとバイブが蠢き、甘い
    甘い悦楽がびっしょりと全身にしみわたっていく。もはや、裸身を嬲りつくす情欲に
    あらがうのがやっとの私は、這いずることさえ満足にできないのだ。
    「みャ、み?」
    私をじっと凝視していたテトラが、ふたたび興味を失ったのかカギに向きなおった。
    焦燥と恐怖にかられ、大きく瞳を開いて口枷から嗚咽をもらす。
    駄目、お願い、テトラ‥‥それだけは‥‥
    許して‥‥
    「くぅ、んん、ンンンッッ」
    「ミ゛ャン!」
    叩きつけた前足に弾かれたカギは、放物線を描いてベットのふちを飛びこえて。
    そのまま、あっけなく、視界から消え去った。

    時が、止まった、ような気がした。
    チン、チリンとフローリングの床に金属音がこだまし、そして静寂が戻ってくる。
    手枷のカギを、拘束を外す唯一の手段を、失った。
    薄ら寒い事実が、状況が、認識が、紙のようにうすっぺらく頭の中を上滑りしていく。
    脱出の手を奪いとられ、イかされ続けたカラダは消耗しすぎていて。
    もう‥‥
    私は、二度と‥‥
    この拘束から、死ぬまで‥‥脱出、できない、の、だろうか‥‥‥‥?
    ‥‥
    ‥‥‥‥
    転がり落ちたカギを、さっきまでカギがあったはずの場所を、私は呆然と見つめ‥‥
    刹那、発狂せんばかりの桃源郷が、快楽の深淵が、怒涛をあげて殺到してきた刺激の
    濁流が、緊縛され発情した汗みずくの裸身をのみこんでいた。
    イったばかりのカラダがたちまちよがり始め、昇天へのカウントダウンを刻んでいく。
    未だに止まらぬバイブに犯され続けて、せわしなく弾む四肢は私の意志をうらぎって
    ひくひく蠢き、縛めの残酷さを嫌というばかりこの躯に味あわせてくるのだ。限界を
    知らぬアクメの途方もない刺激が、ひらすらに神経を灼きつくしていって。
    「ひィィ‥‥グッ、うブッ」
    あまりの快美感に息さえ詰まりかけ、ボールギャグの中で激しくむせこんでしまう。
    辛い、苦しい‥‥
    極まった快楽の頂上が、こんなにも、痛みにさえ、近いなんて。
    酸素不足で意識が白く染まっていく感覚さえ、ただ果てしなくとめどなく快楽衝動を
    あきあがらせて。ビュクビュクンと、男性みたいに悶え汁をクレヴァスのほとりから
    垂れながし、なす術もなく躯を革の枷に預けきったまま、上気しきった裸身で被虐的
    な絶望の調べをどこまでも奏でさせられて。
    ただ、私は無力に、拘束された肢体をしどけなく突っ張らせ、のたうつしかなかった。
    嫌というほど味あわされた、エクスタシーの頂点めがけて意識が遠のいていく。

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    「あ、お早うございます、佐藤さん」
    「お早う、水谷君。今日もずいぶん早いのね」
    扉を閉めたところで耳にするのは聞きなれた爽やかな声。ちょっと胸を弾ませつつ、
    私もとっておきの笑顔で答える。
    「部活の方で集まりがあって‥‥駅まで一緒に行ってもいいですか?」
    「いいわよ。せっかくだし、腕でも組んでいきましょうか」
    「は、はは‥‥もう、参るなぁ、早紀さんには」
    年下の男の子をからかうのがこんなに楽しいなんて。
    今朝もまた、彼を異性として意識する自分を再発見して、新鮮な気持ちになれるる。
    アパートの隣の住人、水谷碌郎(ろくろう)君は最近越してきた大学生で、はにかみ
    気味の笑顔がかわいらしい好青年だった。
    何度か宅配便を預かってもらったのがきっかけで仲良くなり、最近はバーに誘われる
    こともある。まだ男女の関係ではない、けれど、お互いに強く意識し、惹かれあって
    いるのはまぎれもない事実だった。
    OLと大学生、本来なら生活時間もずいぶんズレそうなものだが、お隣同士の私たち
    はたいてい毎朝マンションの廊下で顔をあわせることになる。
    「じゃ、行きましょうか」
    「そうですね」
    並んで歩きだすのがごく自然に思えるほど、私は彼を身近に感じるようになっている。
    かわいい年下の子。
    それだけでないミステリアスな部分も、彼は持っていた。
    セルフボンテージを始めるようになったきっかけ。
    危うく他の人に見つかりかけて、何も知るはずのない彼に救われたこと。
    およそ出来すぎなほど、彼は私の自縛プレイに知らず知らず関わってきている。
    それゆえ、私は疑ってもいた。
    実は水谷君が、佐藤志乃さんのご主人様だったのではないのだろうか‥‥
    彼こそが、私に拘束具を送りつけ、自縛マニアに調教してのけた、まだ姿の見えない
    ご主人さまその人ではないのだろうか‥‥

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    「う‥‥」
    つらい、つらい意識の浮上。
    酸素が欲しいのに水面がはるか上にあって、泳げば泳ぐほど沈んでいく‥‥
    「‥‥ッ、あむ、んんンッ」
    目覚めると同時に口腔いっぱいに食まされた口枷が軋み、歯を立ててむさぼるように
    ボールギャグを噛み絞っていた。たまった涎を苦しい思いでふたたび飲み干していく。
    ひどく空腹で、ひどく気だるく、そして、喉が渇いていた。
    あれほど濡れそぼっていたボールギャグも、かなり乾いてきてしまっているのだ。
    しずみかけた残照が、室内を照らしている。
    顔を傾けて日の残り具合を確認しようとすると、ベランダをしきる窓ガラスに私自身
    の完璧な拘束姿が鏡写しにあぶりだされていた。もう、それほどに夜が近いのだ。
    ‥‥時間の流れに、なんの意味があるのだろう。
    縄抜けの、セルフボンテージからの脱出に、私はしくじったのだから。
    ただの一度。そして、致命的なミス。
    TVが消えていたのは、お腹をすかせたテトラの仕業だったのだなと今にして思う。
    その子猫も、彼女が弾き飛ばしたカギも、どこにも見当たらない。
    「‥‥」
    もう、おしまいなのだろうか。
    完膚なき絶望しか、残されていないのか。
    縛りつけられた手首に目をやる。硬い革のミトンに指の自由を奪われた手。仮にあの
    カギを手にできていたしても、この手ではカギをつかむこともひねることもできない。
    まして、その手首を縛りつける手枷の鍵穴にカギをさすなど、物理的に不可能なのだ。
    最初から穴だらけの杜撰な計画で。
    とにかく早く気持ちよくなりたくて、いい加減なセルフボンテージを施してしまって。
    「うぅ、うぅぅ‥‥」
    涙があふれた。悔しさと、情けなさと、自嘲がグチャグチャになっていた。
    こんな躯で感じまくって、本当にもう何度イかされたか数えることさえできないほど
    よがり狂わされて、これが、この貪欲で意地汚い姿が、奴隷としての私なのだ。
    だって‥‥
    こうして悶えているのさえ、気持ちよくて、死にそうなんだから‥‥
    ジュブ、ジュブブッと、淫らな律動が下半身で響いている。喰い緊める秘裂の内側で
    粘膜をかきみだすバイブの振動。かなり弱くなってきたリズムに合わせて、今だって
    腰がグラインドして、止まらないんだから。
    恥ずかしい‥‥バカみたいで、このままいくらでも飛べそう‥‥
    「‥‥」
    長く息を吐き、じょじょに、ゆっくり躯を起こしていく。
    このままで良いはずがない。まだ、なにかあるはずなのだ。忘れていた何かが‥‥
    その時、ようやく呆けた頭が引っかかっていたことを思いだした。
    ひどくのろのろと上体を起こしていく。
    キシリ、キシリと上半身を何度もうねらせ、窓ガラスに映った自分を確認する。
    自分の背丈より長い金属のポールを背負わされ、両手をみっちり括られて前屈みの姿。
    ゾクゾク背を嬲るマゾの妖美さにあてられぬよう、脱出方法をふたたび検討していく。
    たしか、最初の自縛後‥‥
    理性を取りもどした時に頭をよぎった可能性は2つあったはずなのだ。
    一つは手枷のカギをニップルチェーンからはずし、ミトンをかぶされた手でどうにか
    手枷を自由にすること。すでに失敗した手だ。
    そして、もう一つ。
    背負った磔柱から飾り玉を外し、手枷を固定する金具そのものをポールから抜き取る
    こと。それがができれば、カギなどなくても自由を取り戻せる。
    きっちり両端に嵌まった飾り玉を、ポールのネジ溝に沿って回転させ、外す‥‥
    でも、どうやって。
    肘も手首も固く締めつけられていて、裏返すことのできぬ緊縛姿では、飾り玉を手で
    回転させることが不可能なのだ。仮に手枷がゆるんだとしても、なめらかな飾り玉の
    表面は、革のミトンではつかめず回転させられないのではないか。
    「‥‥」
    実際に手首をひねり、懸命に飾り玉をつかんで回そうと試みる。
    革手袋の表面が飾り玉の球面でつるつる滑り、どうやっても、どんなに力を込めても、
    この不自由な体勢では回転する気配もない。ミトンの表面で飾り玉を磨いているよう
    なもので、逆にどんどん手がかりを失い、回せなくなってしまうのだ。
    どうしよう‥‥
    深い、絶望の暗闇が足元に口をあけて待っている。
    もはや背中合わせの感覚。ううん、すでに、私はこの虚無に飲まれているのかもしれ
    ない。縄抜け不可能だと、この拘束は残酷なのだと、身にしみて感じているのだから。
    今度は、腕をベットにすりつけてみる。
    飾り玉を回転させるように、背負った磔柱の端をこするようにして弧を描く。うねる
    シーツになるべく均等に力を加え、少しでも嵌まったネジ溝がゆるむようにと期待を
    かけてじりじりした作業をくりかえすのだ。
    何度も、何度も。
    長い金属ポールを背負っての作業はひどく疲れるものだった。もどかしい作業のせい
    で躯が焦れ、消耗がそのまま疚しい不自由な快楽に、マゾの官能にすり変わっていき
    そうになる。乳首の疼痛を、下腹部のうねりを、ぐっと噛み殺して悶え続けるのだ。
    「ふグ、んむぁぅ」
    いらだった声が甘く乱れ、ギョッとしてさらに腕をこめていく。
    感じてしまってはいけない。それだけははっきりしている。
    しかし‥‥
    ピクピクンと背筋が引き攣り、自らの行為の惨めさに、その望みのあまりの薄さに、
    裸身が痺れはじめていた。こんな非効率的な作業に意味があるのだろうか。ここまで
    完璧に私自身の手で施された自縛が、この身を陶酔させるほど無残に食い入る拘束が、
    今さらあっさりほどけるとでも思っているのだろうか。
    だとしたら、あまりにご都合主義で、いい加減な妄想じゃないだろうか‥‥
    やがて息が切れ、ようやく作業を中断する。
    柔らかいベットに擦り付けたところで手ごたえなどない。けれど、ひょっとしたら、
    少しでも緩みだしているかもしれないのだ。
    おそるおそる手首をひねった私は飾り玉に触れ、力を加えて緩んでないかたしかめる。

    左右の端についた飾り玉は、溶接されたかのようにびくともしなかった。

    「うぅン、ハァ、ンンンッッ」
    こらえきれずに倒錯した喜悦の喘ぎがあふれだす。
    幾度となく、手を返し品を返し、くりかえし肌にすりこまれていく無慈悲な絶望の味。
    わかりきっていたことだった。当然、あの時の私はこんな単純に外れるような仕掛け
    を用意して、自分にセルフボンテージを施すはずがないのだから。
    何よりも私自身の発想を知り尽くしている、もう一人の、サディストの私自身の罠。
    どうやったって、逃れようがない‥‥
    「あぁ、ぃあぁァァ」
    ぶるぶるっと、魂の奥底から揺さぶりかけるような被虐の波が覆いかぶさってきて‥
    アクメへの階段を駆け上がりながら、くるんと意識が暗転した。

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    あの朝も、いつものように水谷君は照れた笑みを浮かべていた。
    「週末のこと、なんですけど‥‥どこが、いいですか」
    「‥‥」
    爽やかな笑み。嬉しげな表情。その彼を、私はきちんと見ることができない。その朝
    が、バーテンに脅されて調教の約束をさせられた次の日の朝だったからだ。
    「実は、ちょっと変わったバーを見つけて」
    「‥‥」
    「バイト代も入ってきたので、良かったら俺にもおごらせて下さい」
    すごく嬉しかった。同時に、期待もしている。
    SMにのめりこんでいるとはいっても、私もまだ普通の恋愛を捜し求めているところ
    はあって、ようやく積極的になってきた年下の彼が発するサインは分かりすぎるほど
    感じ取ってしまう。
    ここしばらく恋をしていない。最近、久しぶりに、そうなりかけているのを感じる。
    だから‥‥なのに‥‥ううん、だからこそ‥‥
    「ゴメンなさい」
    「え」
    「急なことで悪いのだけど、用事が入ってしまったの。だから、その」
    「キャンセルですね。分かりました」
    傷ついたような目を伏せ、さとられまいと水谷君はかえって明るい声を上げていた。
    答えてあげたいのに。
    本当は、彼にリードされても良いかなって、思いだしているのに。
    今の私は、彼とつきあうわけにはいかないのだ。
    なぜって。
    その時、私はもう、私自身のカラダじゃなくなっているかもしれないから。
    バーテンとの約束の期日は2週間後。その後、私があの女性バーテンのモノになって
    いないと、あの人だけの奴隷に堕とされていないと、誰が断言できよう。
    拒絶するつもりでいる私でさえ、本気で迫られたら逃れられないと感じているのだ。
    だからこそ。
    彼を好きになれそうだからこそ、裏切るようなことはしたくない。
    だから‥‥

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    「はっ、ハァァッ」
    ぶり返してきた淫虐の熱に浮かされ、私はギシリギシリと身をよじって悶えていた。
    唐突にあふれだす、尽きることのない甘い果実。被虐の陶酔にかられ、火照った肌は
    いくらでも刺激を受け入れてしまうかのようだ。
    腰を浮かし、振りたててみる。
    とたんにビチッと濡れた音がつぶれ、強烈な痛みと狂おしい愉悦が神経に流れこんで
    くる。みっちり股間をクレヴァスを左右に裂き、バイブの底だけを残して長い全体を
    みっちり肉洞に埋め込ませている張本人‥‥拘束衣の革ベルトが、みじろぎに合わせ
    クリトリスを揉みつぶしながらギクギク前後に擦れてしまうのだ。
    こんもり左右にくびれ盛り上がった恥丘の谷間で、真っ赤に爛れているだろう肉の芽
    が、クレヴァスからのぞく淫核が、たえまなく甘い高熱を発して私を煽り立てるのだ。
    「‥‥ッ、ムフゥッッッゥ、くぅ、んブ、オブッ」
    息もつかせぬ連鎖的な絶頂と昇天。
    跳ねる腰がとどまることなくアクメを導き、びっしょり濡れそぼって繊細な毛を張り
    つかせるみだらな潤滑液が、この期に及んでさらに私をいくらでもイかせようとする。
    悩ましく惨めな愉悦によって奴隷ならではの快楽を与えられ、躾けられて‥‥
    従属させられた私は抵抗もできず、強制的にイかされるばかり‥‥
    ガクガクンと裸身が跳ねた瞬間、腰が抜けそうなほどに深く渦を巻いてアソコが収縮
    しはじめた。みちみちと粘膜をまきつかせ、絡みつき、ざわざわとバイブを引き込む
    ように蠢く。
    セルフボンテージの、残忍な緊縛がもたらす快楽の極致。
    ほうけた意識はしだいに現実とその他の境目を失いつつあるようだった。
    ひっきりなしにテトラが耳ざわりな鳴き声をあげている。お腹がすき、この娘も不機
    嫌になってしまっているのだ。せめてこの声に、この異変に誰かが気づいたら‥‥
    しかし、それが甘い期待だということは理解できていた。
    ペットOKなマンションは防音もきっちりしていることが多い。つまり、ここでどれ
    ほど暴れよがり狂っても、異常は外に伝わらないということだ。
    時折、人や車の音が届いてくる。多くの人々が普通にウィークエンドの夜をすごして
    いるのだ。マンションの廊下を歩く靴音さえ響いてくる。
    ‥‥彼らは、扉一枚へだてた向こうで絶望にのたうち、脱出不可能な自縛に苛まれて
    助けの手を求めるOLがいることなど気づかないのだ。
    閉ざされ、カギをかけたドアでは、どのみち誰も入ってくることなどできない。水谷
    君が運良く気づいてくれたとしても、そのときには、私はもう‥‥
    「!!」
    はっと瞳を押し開き、私は逸る可能性を冷静に検討しようとしだしていた。
    部屋の間取りがこうなっていて、ドアの向きがこっち側、ということは、つまり‥‥
    ドクンと胸が波打ち、苦労して鼓動を刻んだ。
    間違いない。
    今横たわるベットの、頭を向けた壁の向こうが、水谷君の部屋だったのだ。とすれば。
    この時間、あるいは彼が大学から帰ってきているのかもしれない。
    もどかしく腰をズリ上げるようにしてカラダを起こした私は、背中を壁に押しつけて、
    ドンドンと金属のポールを壁に叩きつけはじめた。
    届くだろうか‥‥
    運良く、かって宅配が来た時そうだったように、彼が居てくれないだろうか‥‥
    私に、私のSOSに気づいて、ご主人さまがやってきてくれたなら‥‥
    ドン、ドンドン。
    背をこじって壁をノックする音の弱々しさが、あらためて私の消耗を示していた。
    息切れで目が眩み、必死に酸素をとりこもうと胸をあえがせる。
    乱れきった呼吸に上半身がよじれ、それでも括りつけられた両手を壁に打ちつける。
    ぞわりぞわりとバイブにからみつく下腹部のぬれそぼった粘膜の蠕動。微細な肉ヒダ
    は休むことを知らず、別の生き物のようにソレをむさぼりつくす感触にとめどなく、
    この瞬間でさえふぅふぅと追い上げられ、いいようによがらされてしまうのだ。
    イきたくないのに、アソコは、いくらでも感じちゃうんだ‥‥
    おっぱいだって、ヒリヒリ痺れて敏感になっちゃって‥‥
    ここまで調教されきった今の私を見たら、ご主人様は、どう思って下さるだろう。
    喜んで、私を褒めてくれるだろうか。
    いっぱいごほうびをくれて、佐藤志乃さんにそうしたように、私のことも奴隷として
    可愛がってくださるのだろうか。
    「‥‥」
    意識が錯乱しているなと、ぼんやり、思う。
    何をイメージしているんだろう。
    ご主人様が、まるで、隣の彼であるかのように思いこんで。
    水谷君がご主人さまだなんて、なんの証拠も根拠もないくせに。私に都合の良い結末
    を勝手に思い描いているだけなのに。
    そんな、うまく行くはずが‥‥ない‥‥‥‥
    いつのまにか動きは止まり、私は壁にぐったりもたれかかっていた。
    壁の向こうから反応はない。
    しんと静まりかえった室内が、徒労であったことを告げている。
    やっぱり、無駄だったのだ。
    最後の、唯一の可能性さえ失った私は、果てしなく絶望の縁に落下していく。
    終わらない、とどまることのない凌辱の多幸感。
    クレヴァスが真っ赤に充血して、クリトリスが革のベルトに揉みつぶされて、一つ一
    つの刺激が鮮明に、クリアにカラダを灼きつくして、ビチビチッと音立ててきしむ磔
    の両手に、淫獄の拘束に希望を奪われた私は、薄れかかった意識を悦虐の奈落に沈ま
    せてゆく‥‥

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    縛られたカラダだけが、熱い疼きを主張していた。
    バーテンの脅迫を受け入れ、自棄になってしまったのか。たまたま悪酔いしていたか。
    あるいは‥‥他の女性客にまじってふたたび後ろ手に縄掛けを施され、被虐の境地に
    酔ってしまったのか。
    「だからね、あなたの自縛はどうも危なっかしいような気がするのよねぇ」
    私の意見になど耳をかさず、女性バーテンは首をひねっていた。
    「また引っかけですか。違います。私にはご主人さまが」
    「ええ。分かってるわ。だからこれは仮の話。もし、あなたがSM好きの自縛マニア
    だったら。そういう『もしも』の話よ」
    「ふぅん、そうですか。もちろん、その仮定は間違っていますけれど」
    私のセルフボンテージは素人めいて危なっかしいと彼女はいうのだ。私自身そんな事
    を言われて引き下がるわけにいかなくなっていた。
    不自由な体を乗りだし、バーテンの瞳を挑戦的に覗きこむ。
    「‥‥もし、もしもバーテンさんの言うとおり私が自縛マニアだったら、なにがどう
    危なっかしいというんですか。プロの視点とやらで教えてくださいよ」
    「うふふ」
    そーきたか、そーきましたねと二度笑い、バーテンはカウンターの向こうに動いた。
    別の客にカクテルを出し、再び戻ってくる。
    何もかも見透かすような、少しだけ意地の悪い女性バーテンの笑み。
    変わらぬ笑みをたたえて彼女が告げる。
    「早紀ちゃんの場合、気持ちだけが先走りすぎているような気がするの。技術や冷静
    な判断がついてきてない感じ。いつか、手ひどい失敗をしそうで‥‥それが心配だわ」
    「‥‥」
    「ムチャしないでね、お願いだから」
    顔を上げた彼女は、本気で不安そうに、まるで今にも私を抱きしめたそうに、そんな
    瞳でこちらを見つめている。
    だからだったのか。
    「ふぅん。じゃあ、私がそんな窮地に追い込まれたら、助けて下さいますか?」
    「ええ、すぐにでも行くわ。だから呼んでね」
    彼女の返事は即答だった。

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    バーテンの姿が目の境を浮かんだり消えたりしている。
    あれ、今のはなんだったんだろう。
    幻視? 記憶の、混乱? 夢‥‥
    なんだかよくわからない。
    拘束され続けているせいか、カラダに現実感がないのだ。
    ぼんやりと、遠い高みで意識が自分を見下ろしている、そんな多幸感。
    ふわふわ浮き上がったエクスタシーの悦楽は、まるで自分のことをひとごとのように
    意識させて現実逃避をさせている。天井を顔をむけたまま、ぐったり疲弊しきった私
    はベットに倒れこんでいた。
    充分タオルやシーツを敷きつめていたにもかかわらず、股間の辺りがムズムズ気持ち
    悪い。愛液とおもらしがしみこんで、嫌な濡れた肌触りなのだ。
    両手は、相変わらずビィンと棒にそって伸びきり、拘束されたまま微動もできない。
    首の下に横たえられた金属のポールの頑丈さをあらためてカラダで思いしる。
    何時なのか、どのくらい経ったのか。
    もはやそんな問いかけに意味はない。夜らしいという漠然とした体感ばかり。
    太ももにへばりついて乾いた愛液に新たなオツユがしたたりおち、ぬらついていく。
    かろうじて気力を振り起こし、首を傾ければ、窓ガラスに映ったあでやかな拘束姿に
    いやでも瞳は吸い寄せられてしまうのだ。
    一点の迷いも妥協もない、完膚なき自縛の完成形。
    決して、二度と、自力では抜けだせない『嵌まり』のセルフボンテージ。
    この思いを味わうのは、何度目だったのか‥‥
    案外多いような気がして、われしらず心の中で苦笑する。
    だとすれば、女性バーテンは正しかったのだ。いつも紙一重の幸運に助けられただけ
    で、私自身は技術も冷静さもない、未熟なマゾの予備軍だったのだと。
    絶対に脱出不可能な自縛。
    マゾの愉悦にむしばまれ、自力では何一つ身悶えも許されずに衰弱していくほかない、
    快楽反応に痙攣するだけの愛玩用のドールに自らを仕立て上げてしまう。
    決してやってはならないとされる禁断の自縛。
    けれど本気で破滅を望み二度と戻れないほどの絶頂を望むなら、実に簡単だったのだ。
    文字通り最後の最後までイキ続ける、そんな極限の自縛なんて‥‥
    「んぉ‥‥ん、ンフ」
    身をもって思い知るこの衰弱、この消耗、このおののき。
    これはセルフボンテージなどではない。
    自殺志願者が、自らのあがきを完璧に封じこめる為に施す緊縛にほかならなかった。
    あるいはそれは、奴隷に堕とされたい、一方的に無抵抗に身を投げだしてご主人様に
    すべてをゆだねて可愛がられたい、そうした痛切な被虐の疼きが歪んだ末のものなの
    かもしれない。
    あの女性バーテンに出会って、抑圧してきた奴隷願望が加速したのかもしれない。
    私の中でふくらむ破滅願望。
    今、ここに完成しているのだ。
    自縛したOLは自分自身の仕掛けた陥穽に嵌まりこみ、終わらぬ恥辱に弄ばれていく。
    そして‥‥
    それも、じきに終わる‥‥
    「‥‥」
    気づけば、甘い鳴き声をあげる力さえ残されていないような感じだった。
    浅い息を吸うたび、胸がひくひくと上下してニップルチェーンをさらさらと揺らす。
    じきに、衰弱しきった私のカラダは快楽衝動にさえ反応できなくなるだろう。
    誰も、誰一人私の存在に気づくこともない。
    もはや完全に脱出の望みをうしなった私はすべてを諦め、このいとおしい被虐の情欲
    に、慣れ親しんだマゾの快楽に、緊縛の肌触りにゆったりと身を沈めていく。
    両手をギッチリと縛りつける革拘束の感触が、最高に気持ち良かった。
    恥ずかしい姿で、惨めな自縛の最期を迎えて、おそらくは止めることのできぬバイブ
    に犯され続けて‥‥それが、私の、すべて。
    もう、二度と私が浮上してくることはないだろう。
    二度と。
    決して‥‥‥‥‥‥
    このまま、悩ましい縛めに悶え苦しみ、取り返しのつかぬ無力感に溺れながら‥‥‥
    激しい音をたて、
    鞭が
    カラダに‥‥振り下ろされてくる。
    逃げようと、
    かわそうと、
    身をよじる動きを知り尽くすかのように、鋭い痛みが肌のあちこちで弾けていく。
    あれ‥‥
    どこ、だっけ‥‥
    『何やっているの、早紀は!』
    「ふグ、んぅぅ」
    びっくりしてふりむく私の前で、あの女性バーテンが私を睨んでいた。
    ビシリ。弾む痛みでカラダをわななかす。後ろ手の、懐かしい緊縛。気持ちイイ‥‥
    どこも動かせない。やっぱり、感じちゃうんだ。
    私、マゾだから‥‥
    胸が、叩かれすぎて、ピリピリして、裂けちゃいそう‥‥
    バーテンがふたたび鞭を振りあげる。
    『駄目な子ね、あれだけ言っていたのに』
    何を‥‥?
    『だから素直になりなさいって、いったでしょう』
    え、私、ご主人様の言うとおりに‥‥
    『セルフボンテージなんかしないって、ウソをついていたんでしょう? 違う?』
    あぁ‥‥
    そうか、そうだったっけ‥‥
    猿轡をかみしめ、答えられずにいる私をビシリびしりと鞭が襲う。
    痛い。痛くて、ヒリヒリして、叩かれた痕がむずがゆく紅く腫れあがって‥‥
    たまらない。
    私はもう、どうしようもないから。
    お願い、お願いです。もっと‥‥
    もっと私を虐めて、お仕置きを、ごほうびのお仕置きを下さい‥‥
    ひざまずこうとするカラダがギュッとムリヤリに折り畳まれて。
    暗い室内に私は、いつのまにか座っている。
    膝を抱えるようにして。両手をピンとそろえて、なんか大きな棒に括りつけられて。
    頭がもうろうとして分からない。急に寂しくなる。
    ごしゅじん‥‥さま‥‥ 

    夜が、落ちてきた。
    ぐわんと頭が振られて、それではっと意識を取りもどす。
    私‥‥なにを‥‥
    意識がどろどろで、動かそうとして手も足もまるで神経が通ってないみたいに反応
    する気配もなく、焦って悶えて。
    あぁ、いつものことだ、私、縛られてる。
    両手を広げて、硬い柱に縛りつけられて‥‥すごい‥‥グチャグチャの緊縛だ。
    縄‥‥じゃない。革の拘束具と、金属の錠で、これ以上ないくらいハードな拘束を
    みっちり施されて‥‥身動きもままならないくらい、かっちり囚われちゃっている。
    カギも見当たらないし、ボールギャグが口いっぱいになるまで頬張らされていて。
    下半身だって、あそこにみっちり根元まで太いバイブを飲み込まされて‥‥
    これじゃ抜けそうもない。ずっと犯されっぱなし‥‥
    ヤダ、私、感じてるんだ‥‥べちゃべちゃに濡れそぼってる‥‥よね‥‥?
    あれ?
    ‥‥でも、変だ。
    だったら私は、誰に縛られちゃっているの‥‥
    だって、これがセルフボンテージだったら、絶対ほどけない‥‥
    ふぅ、ふぅぅと浅く息を吸う。
    なんだか空気が薄くって、頭がちゃんと働いてくれてないみたいだ。

    『やっぱり早紀さん、マゾなんですよ』
    今度は中野さんの声だ。
    おっとりした普段の彼女じゃない。まるで、夜の営みをリードする、女王様のよう。
    甘く鈍く私のカラダをくすぐりはじめる。気持ちよくて、悶えてしまうのが楽しい
    のか、くすくすくすくす笑いながら、中野さんが、私のカラダを、
    『ほどけないセルフボンテージなんて、そんなの実行しちゃうの本物のマゾですよ』
    凄い勢いで、甘く意地悪くなぶりはじめてきた。
    子猫が‥‥名前、なんだっけ‥‥子猫が、猛烈にミャアミャア鳴きたてている。
    羨ましいの?

    びっくりして目がさめる。
    なんだったんだろう‥‥中野さん、酔っていた‥‥?
    うすぼんやりした、まぶたがくっつきそうな眠気の中で世界を見つめて。
    見覚えのある室内に、見覚えのある家具に、
    見覚えのある、
    窓ガラスに映った、私自身のエッチな、姿。

    『それがキャンセルの理由なんてひどいな。俺、すねちゃいますよ』
    「‥‥ん、ンクゥ」
    『一日中家の中にこもって、何してるかと思ったら、一人エッチだなんて‥‥』
    喉を鳴らして、甘えるように謝ってみせる。でも、誰かは分からない。
    私のご主人さま?
    あぁ、違う、いや、同じなのかな、水谷君だ。
    背中から私を抱き寄せてカラダをいじっている、みたいな、気が、する。
    ふわふわと、
    ふわふわ‥‥と‥‥
    『‥‥だろ? だから、‥‥も』

    「‥‥、よく、躾けたんだね、君自身を」
    「!」
    誰かが、いた。
    私の背後に。
    しんと静まりかえった、真夜中近い、私のアパートの一室に。
    聞き取れぬほどの低い小さい囁き。男らしい‥‥としか判断できない、わざと声を
    分かりにくくしている感じの声だ。
    ふりむこうとして、今度は、まぎれもなくしっかり頭をおさえつけられ、ふたたび
    前を向かされた。緊縛された裸身では、男性の力にかなうはずもない。そしてそれ
    以上に、頭をなでた男の優しい仕草が、まるで、ずっと前に知っていた者のような
    気がさせられて、逆らいたくなかったのだ。
    優しく、男が腰を抱き寄せる。
    腰だけじゃない。つぅっと、手の先から肘、二の腕、肩、首のあたりからずーっと
    下へ‥‥淫靡な、犯そうという手つきじゃなくて診察するものの手つきで指が私を
    なぞっていって。
    最後に、男は私の乳房をたゆんとすくいあげ、その上を何度も指でなぞりだした。
    くすぐったい、恥ずかしい感触。
    なんだかワケが分からぬまま悶え続けて、でも、それはエッチな気分を昂ぶらせる
    ためのものじゃなくて、そのうち‥‥
    そう、
    それが指文字らしいことに気がついて。

    エッチな
    マゾの
    子猫
    みつけ

    「‥‥んむっむっムッゥゥ」
    顔がパァァッと真っ赤に染まっていくのが分かった。
    なんだろう、この人は。怖いはずなのに、いきなりの侵入者なのに、こうして緊縛
    された裸の女性がいるというのに、優しく優しく私を扱おうとしているようなのだ。
    伝わったことが分かったのだろう。
    ぽんと肩を叩かれ、ふたたび男性の指が背中でくねりだす。
    ゆっくりと、同じ台詞をくりかえし、くりかえし‥‥










    ‥‥
    ‥‥‥‥
    ‥‥‥‥‥‥
    ぶるりと
    背筋が、愉悦の前兆にも似て、大きく弓なりにのけぞりかかった。

    ‥‥君を‥‥

    ‥‥飼って‥‥‥‥あげる‥‥ね‥‥‥‥

    そう、か‥‥
    私は、もう人じゃないんだ。
    自由をみずから放棄して、奴隷でありたいと望んでいたはしたないペットなのか。
    だから、この男性に囚われて、飼われてしまったとしても‥‥
    ボールギャグを咥えこみ、全身を拘束されたこの状況では、なす術もなく彼に身を
    預けるしか、選択肢がないのだ‥‥
    私、飼われて‥‥
    人であることを、やめて‥‥しま‥‥
    意味が。
    戦慄の内容が脳裏にとどくより早く、私は激しくおののきに震え上がっていた。
    彼が誰なのか、たしかめようとした瞳に目隠しの布を巻きつけられ。
    抵抗する手段もなく、無防備な下半身にいまだバイブをくわえ込んだままで。
    背をのたうたせ、ギクギクッと‥‥
    狂おしく、股間をオツユまみれにして、イッてしまっていた‥‥
    ぐるぐると、乳房になすりつけられたその単語だけが、頭の中で渦を巻いていた。
    飼ってあげるよ‥‥
    飼って‥‥飼われて‥‥しまう‥‥
    私は、飼われるのだ‥‥
    この不自由なカラダで‥‥首輪つきのまま‥‥
    とびきり発情した、いやらしいマゾのペットととして、調教されてしまうんだ‥‥
    喉の渇きも。
    冷えきった汗みずくのカラダを、さらにぬらぬらとべとつかせる新たな汗も。
    ひくひくと収斂をくりかえす、下腹部の鈍いうずきも。
    『人』としての尊厳を失い完全なオブジェと化して侵入者を楽しませるだけの存在に
    成り下がった、この私自身の、わいせつなる緊縛の裸身も。
    すべてが花開き、すみずみまで肉を犯しつくす被虐の調べを奏ではじめてしまう。
    誰とも知れぬ異性がもたらした、たった一言の睦言。
    『飼って、あげるよ‥‥』
    それは奴隷志願の私の心をたやすくわしづかみにする、なまめかしい誘いそのもの。
    いや‥‥拒否できない私にとって、この誘いは命令と変わりない。
    おしつけられた指文字の感触がまだ乳房に残っていて、ジンジンと恥ずかしいほどに
    カラダを火照らせ、乱れさせ、女の芯をどぷどぷと潤ませてしまっている。
    なにをされても、抵抗のそぶりすらかなわぬ肢体。
    私自身の望み通り、もはやこのセルフボンテージを自力で解くことは不可能だった。
    抜けだす希望をすべて潰す、悩ましくも巧緻に編み上げられた縛めの数々。磔の身を
    ひたすら悶えさせる絶望的な籠女の檻の中で、すでに私自身、嫌というほどこの拘束
    のいらやしさを味わい、焦り、理性を失い、よがりくるってしまったのだ。
    自分の状態を熟知しつくしているからこその恐怖。
    犯されようと傷つけられようと、殺されようと、ボールギャグをしみじみ噛みしめる
    このカラダで‥‥目隠しの拘束姿で、いったい何ができると言うのだろう。悲鳴一つ
    口にできない現実はあまりに残酷で決定的だった。
    「‥‥」
    息が浅く細くなり、目隠しの下でまぶたがひくひくひきつっている。
    恐怖と、被虐の期待と、身のよじれるような悪寒が、ぐちゃぐちゃに裸身をかき乱す。
    怖かった。
    マゾだから、奴隷だから、誰でもいいなんて思うはずがない。
    むしろ、逆。
    マゾだからこそ、いっぱい虐められたいからこそ‥‥
    安心して、信頼できる相手にしか、カラダをゆだねたくないのだ。
    なのに、厚い目隠しはすべての情報をさえぎっている。
    目の前にいるだろう男性が誰なのか。
    泥棒や暴漢とは思えなかった。何も知らない侵入者なら意地悪い台詞で煽ったりせず、
    すぐに私を犯すだろう。とっくに最悪な目にあわされているに違いない、と思うのだ。
    そして‥‥解放者でもありえない。
    ひょっとしたらという淡い期待はとっくに裏切られていた。拘束を解こうともせず、
    悶える私はさっきから視姦され、嬲られつづけているのだ。
    水谷くんだとしたら‥‥
    彼だったら、彼にだったら、もちろん後で私は怒りくるうと思うけど、このカラダを
    任せてもいい。少しぐらい意地悪されてもいい。見も知らぬ、好意もない男性に好き
    勝手されるくらいなら、まだ、その方がいい。
    だけど、あんなに隣の部屋との壁を叩いたのに、水谷君から反応がなかった。あの時
    外出していたのなら、今になって彼が都合よく私の部屋に来るわけがないのだ。
    それ以外の可能性。
    残されたたった一つの可能性は、身勝手にすぎるような気がした。
    この部屋の合鍵をもっている人物。
    すでに引っ越した『佐藤志乃』さんあてに拘束具を送ってくる、彼女のご主人さま。
    しらずしらず私をセルフボンテージマニアに調教し、したてあげた‥‥
    まだ見ぬ、私自身の、ご主人さま。
    そうなのだろう、か。
    この人が、時に夢にまで見た相手なのだろうか。
    いつか恨み言を言おうと、ちょっとした手違いが一人の女をどれほど変えたのか見せ
    つけたいと‥‥調教され開発された私自身がどれほど貴方に会うのを待ちわびていた
    か、身をもって味わって欲しいと‥‥
    そう思っていた、ご主人さまなのだろう‥‥か‥‥?
    「ング。くぅ、くふゥゥ」
    喉がゴクリとなる。
    ヨダレがボールギャグのふちからあふれ、はっきり呼吸が荒くなりはじめていた。
    恥ずかしいほどの妄想。
    いつかご主人様に出会うため、すっかり従順に、緊縛の味に馴らされた私。
    甘やかな妄想さえ凌駕する、筋肉がひりつくほど厳しく、淫蕩な拘束を施された裸身。
    エクスタシーに昂ぶったままの余韻が、イった直後のカラダをまたも責め嬲っていく。
    恐怖と絶望とがあっけなく究極の快感へと反転し。甘美な隷属への期待でお股の奥が
    トロトロしたたりだすのだ。
    私は、どうなってしまうんだろう‥‥
    怖いはずなのに、おののいているはずなのに、なのに、私は‥‥
    バクン、バクンと乱れきった動悸が止まらない。
    翻弄された全身はひきつけを起こし、衝撃の波をかぶった手足がぷるぷる突っ張って
    舐めあげる快楽の舌先に踊らされつづけているのだ。自ら止められぬ絶頂は、もはや
    それ自体がはしたない奴隷を惨く躾けなおす調教行為そのもの‥‥
    「うぅ、ふぐぅゥゥ」
    ゾクリゾクリと快楽のほとばしった拘束の身はぶざまに跳ね踊ってしまう。
    この男‥‥
    私のもがくさまを、悶える姿をみて、黙って一人楽しんでいるんだ‥‥
    怖い‥‥さからえそうもない‥‥
    ギッとベットを軋ませ、ふたたび相手が近寄ってくる気配がする。身体は思わず跳ね、
    意味もなく距離をとろうといざってしまう。無意味だと分かっているのに止まらない
    カラダを不意に横抱きにされ、耳もとに顔が近づく気配がして。
    「志乃と同じだね、キミも」
    「‥‥!」
    耳朶の奥へ、男のささやきがしみわたっていった。
    志乃さんのご主人様と私しか知りえない名前を、彼ははっきりと口にしたのだ。
    ならば。前に住んでいた佐藤志乃さんを知っているこの人こそが、この男性こそが。
    たゆんとすくい上げられたオッパイを、こねまわす動きで指文字がくねっていく。
    『かわいいよ』
    『よく、ここまで、自分を調教したね』
    『あとは、たっぷり虐めぬいて、俺の奴隷に、してあげるから』
    ‥‥
    ‥‥
    ‥‥‥‥
    歓喜。
    あふれだす、背筋を舐めるように這い上がる、悦虐の、凌辱の期待。
    カラダ中の毛穴からしみだし、上気した裸身をひたしていく激しい衝撃の波。
    一瞬にして、消耗しきっていた私のカラダは大きく前のめりになり、突き上げてきた
    マゾの悦びに飲み込まれてしまっていた。磔の身がギイギイとかしぎ、脱力したまま
    括りつけられていた両手が、ピィンと固く突っ張ってしまう。
    ニップルチェーンがさらさら残酷に痛みを囁いて。
    深く深く下腹部に咥えこまされたバイブが、拘束衣のお股と擦れ合ってなしくずしに
    私を内側から抉り、受け身の快楽でゾクゾクとのぼせあがっていってしまう。
    この男性に‥‥ずっと会いたかった、私のご主人様に。
    おそらくは、私は嬲られ、躾けられ、過酷な調教を施されて、しまうのだ。
    心の奥深く、どこかで求め狂っていたように。
    彼の思いどおり自由をもてあそばれる奴隷として。虜の裸身をハァハァといやらしく
    波打たせる肉人形にしたてあげられていく‥‥のだろう‥‥きっと‥‥
    セルフボンテージとは違って‥‥私の意志にかかわらず、特にムリヤリ躾けられて。
    強制的に、被虐の快楽を塗りこまれ、後戻りできぬマゾのペットとして。
    肉洞の底まで、濡れたヒダ一枚一枚まで触られ、しゃぶられ、無抵抗に貫かれて‥‥
    いっぱい、可愛がられるんだ‥‥
    ガクガクと震える裸身を、柔らかくしっかりとご主人様の手が支えてくれて。
    その手にすべて委ねて、ピクピクとよがってしまうのが気持ちよくて。
    まだ怖くて、慣れないからご主人様の手が這いまわるとドキリとおののいて、でも。
    うん。
    こんなに優しく抱きしめてくれるご主人様に調教され、奴隷になれと命じられたら。
    最後まで抵抗する気力なんか、私にはない‥‥
    「いいんだよ、力を抜いて」
    「く、うぅン」
    「我慢しない。イって。さぁ」
    耳もとでふたたび。
    低く柔らかく、たしなめるような声が囁く。
    一瞬で真っ赤に頬が火照り、茹でダコのようにカァァッとのぼせあがってしまった。
    怯えつつなぜか期待してしまう、どうしようもないマゾの心理を見透かすような口調。
    否応のない響きが心をグズグズに溶かす。
    私はこういう声を知っていた。どういう人が、どういう時に出す声かを。その効果を。
    あの、女性バーテンの声と同じもの。
    絶対的な断定口調は、奴隷に対するご主人様の命令そのもの‥‥それが、嬉しいのだ。
    ご主人様の調教はもう始まっている。
    今、私はご主人さま好みの奴隷になるために、少しづつ躾けられているんだ‥‥
    「躾けがいがあるよ。君みたいにエッチなペットは」
    「くぅぅンン」
    その一言で決壊が甘く崩れ、全身を大きく弓なりにそりかえらせて、私はイっていた。
    ペット‥‥私は、ペットなんだから‥‥
    ゾクリゾクリと裸身をねぶる波のくるおしさ、幾度となく頂上に押し上げられ、男の
    手に支えられて底なしの谷間へ落下していく。ジュブジュブと淫猥な音をクレヴァス
    からしたたらせ、目隠しとボールギャグで覆いつくされた顔を真っ赤に染めあげて。
    「ふふ」
    嬉しげな男の笑い声で、私もホッとする。
    良かった、私、ご主人様の望みどおりのカラダに自分を開発してたみたいだ‥‥
    最後にニップルチェーンを軽くはじかれ、突然の甘いおののきに短い悲鳴をあげた私
    は、戦慄と痛みがエクスタシーとなって全身にしみわたっていくのを感じていた。
    他人から与えられる刺激。予想外の刺激。
    おののきは、さらなる凌辱を調教をもとめ、かえって肌を敏感にさせてしまう。
    調教されるというのはこういうこと‥‥
    「くぅ、ンン‥‥」
    知らず知らず喉声ですりよっていた私の頭を、男が優しくなでた。よしよし、とでも
    言わんばかりに、小動物をあやし落ち着かせる手つきで何度もなでる。
    震えるカラダをあやしつつ、そっと口元に手をあてがいボールギャグを外していく。
    溜まった涎の臭気がむわっと鼻をつき、ぴっちり顔半分を覆っていた革マスクが、次
    に唇からはみ出していたボールギャグが、実に1日半ぶりに外された。
    締まりをうしなった唇からボダボダッと涎が流れおちる。
    恥ずかしい‥‥
    そむけかけた顔に、ひんやり濡れたタオルがおしあてられた。
    丁寧に、優しい手つきが顔の汚れをぬぐいとっていく。涎にまみれてかぶれかけた顔
    をぬぐっていくのだ。気持ち悪かった顔まわりが、すっきりと元に戻っていく。
    「あ、ぁ‥‥」
    何か話しかけないと、と焦ったが、麻痺した口は呂律など回らず、変な呻きばかり。
    男の手がそっと唇に手をあてた。喋るな、といいたいらしい。
    離れていく男の気配を感じながら、私はゆるゆると全身の力を抜いていった。
    セルフボンテージとはまるで違う感覚。
    他人に支配され、他人の思うがままにされ、すべてを受け入れるしかない。つい最近
    SMバーで味わった感覚と似ているようで、けれど、決定的に違う。
    この調教には、閉店時間などないのだ。
    ご主人さまが満足するまで私は拘束されつづけ、嬲られつづけ、調教は続くのだろう。
    間違いなく、身も心も私がご主人様のモノになるまで、ご主人様は満足しない‥‥
    ゾクリ、ゾクリと甘やかな戦慄でカラダがうねってしまう。
    気持ちイイ‥‥すごく、イイ‥‥よぅ‥‥
    縛られて、自由を剥奪されて、どんな風に虐められるか妄想するだけで私、おかしく
    なっちゃってるんだ‥‥
    「んぁ、ン、ふぅぅぅ‥‥はぁぁ」
    かすれ、ひりひりした喉から低く息をはきだす。
    全身の自由を奪われた上に視覚までさえぎられ、どうしようもなく私は敏感になって
    しまっていた。肌の細胞一つ一つがみずみずしく跳ねている感じ。いま触られたら、
    それだけで感じてしまいそうなほど。
    「‥‥ひゃァ!!」
    急に背負った金属のポールごと腕をつかまれ、舌足らずな悲鳴をあげて私は真っ赤に
    なってしまう。怯えるも何も、もう私は、ご主人様のモノでしかないのだ。この人に
    カラダを預けきっているのも同じなのだから‥‥
    ツンツンと唇をつつかれ、おずおず開いた唇にストローのようなものが差し込まれる。
    「飲んで」
    言われるままストローをすすると、渇ききった口の中を跳ねるように鮮烈なミネラル
    ウォーターが流れこんできた。その一口が流れ下ってはじめて、どれだけ喉が渇いて
    いたのかを思いしる。
    むさぼるようにして、私はゴクンゴクンと飲み干していた。たちまち中身が空になり、
    ストローが離れてからようやく、大事なことに思い当たる。
    私は、この人のおかげで助かったのだ。
    たしかにまだ拘束されたまま、後で犯されるかもしれない。でも。ご主人さまが来な
    かったら、私はきっと脱水症状かなにかで倒れていたと思う‥‥
    「あ、あのぉ」
    潤った唇を開いてしゃべりかけたとき、ぐぅとお腹が音を立てた。
    沈黙。
    じわじわと、赤面。
    目隠しされていなければ、きっと、目のふちまで真っ赤に染まった顔を見られていた。
    懐かしさを感じるクスクス笑いが聞こえ、ふわっと頭をなでられる。
    「よしよし」
    ご主人さまがキッチンの方に移動して料理を始めるのを耳にしながら、私は今までで
    一番の羞恥に‥‥身もふたもない羞恥にたえかねて火照った裸身をよじっていた。
    分かってる。生理的なものだと。
    まる一日半、何も食べてないのだから、そうなるのも分かる、理解できる‥‥けれど。
    エッチな姿を、イかされる様子を見られている方がまだ良かった‥‥
    こんなの、何倍も恥ずかしい‥‥

    聞き取れぬほどの呟きが、密着した息声となって耳に届く。
    「口をあけて」
    「あーん」
    ほどよく温まったお粥を、ひとすくいごとにご主人様に食べさせてもらう。まるで、
    愛しあうカップルのようだと思った。私が拘束姿でなく、目隠しもされていなければ。
    「はい」
    「あー‥‥ンッ、ァンッ」
    本当は違う。
    セルフボンテージ姿のまま、私は発情した裸身を甘くまさぐられ、電池を取り換えた
    バイブでぬぷぬぷと秘裂を犯され貫かれながら食事を与えられているのだ。背中から
    抱きすくめられ、乳房をいじられたり敏感な部分に吐息を吹きかけられて思わず首を
    のけぞらせたりしながら‥‥
    快感をすりこまれながらの餌付けをされているのだ。
    食欲と性欲がぐちゃぐちゃに入り交じり、口の中でおかゆを咀嚼しながら下の口では
    ギチギチと濡れそぼったヒダで太いシャフトをくわえこみつつ蠢いてしまっている。
    ぬるぬると這い上がってくる被虐の疼き。
    何より悩ましいのは、この身を縛る革拘束が私の施したセルフボンテージということ。
    こうして悪戯されるのも、エッチな手で嬲られるのも、すべて自業自得なのだ‥‥
    「ンッ、イヤァァ‥‥ぁッ、ン」
    「嫌ならやめる?」
    低い低い声で、ご主人さまが囁く。
    とたんピタリとカラダが止まり、私は悔しいながらも逃れようとしたご主人様の手に
    ふたたび自分のオッパイをすべりこませ、密着させるほかない。
    みしりと、重みを持って乳房をいじりまわす指先に、イヤイヤながらも鼻をならす。
    どうしようもない空腹感は、まして食事を始めてしまった以上は、もう我慢できない。
    だから、ご主人様にさえるがまま、私は食事をねだらないといけないのだ。
    「お、お願いです‥‥食事を、ください」
    返事の代わりに耳たぶを軽く甘噛みされ、ゾクゾクッと感じてしまった唇にスプーン
    があてがわれる。
    そうして、私はふたたびカラダを這いまわる手に啼かされながら食事を再開するのだ。
    お股に埋もれた革ベルトごしにつぷつぷ濡れた肉芽を擦りあげられ、こらえきれずに
    男の肩に顔をうずめて弱く低くすすり泣きながら。おかゆを食べたその同じ唇で下の
    お口からあふれだすしずくを舐めさせられ、あまりの良さに感極まって声も出せない
    ほどよがりながら。
    予想もできぬ刺激におびえ、いっそうギクギクと腰を揺すりたてて。
    革の枷を食い込ませ、ご主人様に抱きつくこともできぬもどかしさに身を捩じらせて。
    鋭敏な肌をさいなむ被虐の旋律に裸身を奏でられながら。
    ぼんやりと蕩けた頭のどこかが、これが何度も続けばきっと食事を与えられるだけで
    感じるようになるんだろうなぁと思う。
    パブロフの犬のように条件付けされ、調教されていくに違いないのだ。
    でも‥‥
    私は、快感におぼれた今の私は、ご主人様に逆らう気なんておきないらしい‥‥

                   ‥‥‥‥‥‥‥‥

    空腹と渇きという深刻だった欲求がみたされて、薄らいでいた理性が戻りつつあった。
    変わらず不自由なカラダ。下腹部で食い締めるバイブの快楽。目隠しによって過敏に
    刺激を受け入れてしまう裸身。セルフボンテージの時と状況は変わっていないのだ。
    食器を片付け、戻ってきた男がベットの脇にギシリと座る気配がした。
    このあと、どうなるのだろう‥‥
    分からないけれど、でも、彼に求められても、私は拒めないだろうと思った。この人
    は私を助けてくれた、それ以上に、ずっと会いたい相手だった‥‥
    目隠しがもどかしい。顔をみたい。
    今の私以上にセルフボンテージに習熟していた佐藤志乃さん。あの人をあれほど調教
    したご主人様は、どんな顔なのだろう‥‥?
    ご主人様の手が何度か頬をさすっている。感じさせる手つきではなく確かめるように。
    考えてみたら、この人は、私のことを前から知っていたのだろうか。
    だってそうだ。
    今まで考えたこともなかったけれど、佐藤志乃さんはとっくの昔に引っ越している。
    なのについ最近まで、ご主人様は私のところへ、危うい拘束具を送りつけてきていた。
    もしかして‥‥
    「ご、ごしゅ」
    言いかけて、なれない言葉に詰まってうろたえる。
    いいんだ、実際そうなんだから、私はずっと前からこの人を慕っていたんだから‥‥
    「ご主人様は、その‥‥私のことを、ご存知でしたか」
    「‥‥」
    黙っていたが、頷く気配をはっきりと感じた。
    「じゃ、じゃあ‥‥今日は、どうして、こんな、偶然私が、危なかったときに」
    「咥えて」
    うまくまとまらない私の言葉をさえぎり、彼がちいさく呟く。
    同時に、さっきまで口にほおばっていたボールギャグが、私の唇にあてがわれて。
    「俺に飼われたいのなら、自分で咥えるんだ」
    「え?」
    「‥‥‥‥」
    鼓動が大きく乱れた。
    ドクンと胸が激しく動悸を打ち、カラダがぎしりときしんでしまう。
    「いやなら、俺は帰る」
    「‥‥」
    「‥‥‥‥」
    分からない。分からなかった。
    口をついた言葉さえ、自分のものであるかどうかさえ分からないほどに混乱していて。
    でも‥‥だからこそ無意識の真実を‥‥
    私は口走っていた。
    「な、なります‥‥奴隷に、してください。でも、その」
    「‥‥‥‥」
    「私、ご主人様の言うことを聞きますから。だから、猿轡は、しないで‥‥」
    私はこの人の事が知りたいから。
    ご主人様ともっと話をしたいから、顔も見たいから、もっと近くなりたいから‥‥
    返事はない。ただ、じっと唇に、なじみぶかいボールギャグが押しつけられたままだ。
    時間だけが、じりじりと、過ぎていく。
    「‥‥」
    「ど、どうしても‥‥ですか、ぁ‥‥」
    「‥‥‥‥」
    震える声で問いかける私には答えず、静かに唇の上をボールギャグがくすぐっている。
    ドロリとした粘着質の震えが、全身を伝って這い降りていく。
    ご主人様の返事ははっきりしていた。
    う、うぅ‥‥ぁぁ‥‥
    ゾク、ゾクッと、いいようのない感触が、私の背をくすぐっている。
    どうあっても、彼は私に口枷を噛ませ、言葉を喋る自由を奪うつもりなのだ。しかも
    力づくでなく、私が自分から猿轡を咥えるのをずっと待ちつづけている。
    それが、私が調教してもらうための条件。
    ムリヤリ調教されるわけではない。むしろ反対に、私が、ご主人様に調教をおねだり
    しないといけないのだ。
    どうしようもなく惨めで、浅ましい選択肢だった。
    ずっと憧れていたご主人様に助けられて、その人に選択肢を選ばされたとして。
    こんな状況におかれて、どうして逆らえるだろう。
    「わ、分かり‥‥ました‥‥」
    「‥‥」
    「お、お願いします‥‥私を、虐めてください」
    あぁ‥‥
    わけもない震えが、吐息となってこぼれていく。
    本当にそれでいいのか。
    自分から望んで調教されたくて、それが本心なのか。
    分からない。
    分からないけれど、でも、私は。
    この人と、まだ、一緒にいたいから‥‥
    沈黙の重さに心を締めつけられて、私はおずおずと口を大きく開いていく。
    一度洗浄したらしく、新鮮な水気を含んだスポンジの玉が優しく口腔を圧迫していく。
    しっかりとストラップを引き絞られ、ふたたび私は、ボールギャグを咥えこむ格好に
    させられた。さっきと同じ奴隷の姿、なのに、なぜだかカラダがビクビクしてしまう。
    そうか‥‥
    自分から望んで、私は、この人の支配を受け入れたんだ‥‥
    だからこんなにも‥‥カラダが、疼く‥‥
    『支配』と『服従』の構図。それがはっきり形となって、私の心をあおりたてていた。
    少しづつ馴らされ、従順なペットに仕立て上げられていく。
    それがいいことなのか、マズイことなのか。
    私には判断できないまま、ふたたび、理性にぼんやりとした膜がかかっていくのだ。
    横たえられたカラダから慎重に拘束具が外されていく。
    長いあいだ同じ姿勢をとらされ、硬直してうまく曲がらない手足を、ご主人様の手が
    ほぐしはじめる。少しづつ血行の戻っていく関節に、カラダに、じぃんとした痺れを
    感じながら、ようやく弛緩しはじめた四肢を力強くマッサージされて気持ちよく身を
    まかせつつ、うつらうつらと、私はゆるやかな睡魔に引き込まれていった。
    まどろみからの目覚めはごくゆるやかなものだった。
    ぽうっとした意識がけだるく昂ぶっている。
    耳に届くのは、ゴウンゴウンという振動に、なにか爆ぜる音。
    目を開け、朝のはずなのに真っ暗な世界につかのま混乱する。顔に触れようとした手
    がギッと固い感触に引き戻され、そこでようやく、昨夜のことを思いだした。
    ——私は、ご主人様の奴隷になったのだ。
    ——私自身の望みどおりに——
    ほんのり頬が赤らむのが自分でも分かる。
    しっかり押し込まれたボールギャグが、言葉を剥奪する口枷が、実際おかれた立場を
    いやでも意識させてしまう。
    人としてでなく、調教され、可愛がられるだけの奴隷としてむかえる最初の朝だった。
    ふつふつ悩ましく火照る裸身をシーツの上でくねらせる。
    セルフボンテージで『嵌まって』から一日半。ずっと同じ姿勢で拘束されていた手足
    の関節も今はほぐれ、普通に動かせるようだ。
    私自身も、簡単な拘束を施されただけで、ゆったりと寝かされている。目隠しは相変
    わらずながら、手首を緊めつける革の手枷は左右の太ももと手首同士を繋いでいて、
    無防備な拘束姿とはいえぐっすり眠れたらしい。
    気がつけば、寝ているシーツまでがいつのまにか清潔なものに取りかえられていた。
    ということは、あの振動はつまり、お漏らしをしたシーツを洗っている洗濯機の音。
    何から何まで、かいがいしいばかりにお世話をして頂いて。
    私のご主人様は、本当に‥‥
    どうしようもなく、思うだけで溶けてしまいそうなほど、優しい人らしかった。
    「ンッ、ンフゥゥ」
    つくんつくんと下腹部を蕩けさせる秘めやかな振動にギクギクと背が突っ張る。
    こんなところは‥‥ンッ、やっぱり、いじられっぱなしで‥‥
    ほんの少し、朝からの刺激を恨めしく思いつつも、下腹部を責めっぱなしの器具から
    しみわたった被虐的な刺激に身をゆだねていく。みっしりクレヴァスを爛れさせる
    バイブの重みが消え、代わりに小さなローターらしき振動が女の合わせ目のつけねで
    もっとも敏感な肉芽をじわじわ炙りたてていた。
    「ンッ、ふぅぅぅン、はぅッ!」
    意識したとたん、快楽の奔流がゾクゾクッと一気に背筋をうねってほとばしりだす。
    もどかしいばかりの弱々しい振動だから、かえって敏感に下半身をよじらせちゃって
    腰の動きがとまらない。そこばかり意識が集中しちゃって、ほかへの注意がすっかり
    おろそかになってしまうのだ。
    恥ずかしさも忘れ、腰を浮かして感じやすい場所を探していく。
    うん、この角度‥‥ちょうどクリトリス全体がピリピリって痺れて、気持ちイイ‥‥
    「おはよう」
    「!!」
    足音も前触れもなく男性のカラダが覆いかぶさってきて、本気でおののく裸身がピク
    ピクンとあゆのようにベットの上で跳ね踊ってしまった。
    「ンッ、ンフッ」
    「!」
    力強くからみつく腕に抱きしめられる。
    チュっと、くすぐるようにして暖かい唇が頬をくすぐり、顔を覆う革マスクの上から
    ボールギャグのふくらみにそって唇が這っていく。
    目隠しの下でゾクゾクあおられている私を誘うように、柔らかな感触はゆるゆる首元
    まで這いおり、そこでいきなり、鎖骨の下あたりをちゅるりと舐めあげる。
    敏感すぎる肌が激しい反応をおこして‥‥
    「ヒッ!! ンッ、くぁ‥‥あぅぅぅぅぅン、いぅぅ」
    のけぞったカラダを、濡れた下半身を、後先も考えずご主人様にこすりつけた私は、
    心の準備もできぬまま絶頂の悦びを極めさせさせられてしまっていた。
    嬲る指先に肌をすりつけ、しとどな喘ぎ声をもらす。
    おはようございますの返事のかわりに、声を奪われた唇から本気の喘ぎ声をこぼして。
    とろーっと内股をつたう私自身のオツユが、いっそう事態を悩ましいものにする。
    うぁ、あぁ‥‥ン‥‥
    恥ずかしい‥‥目覚めのキスで、私、イかされちゃった‥‥


    磔の横木から解放され、よつんばいの姿勢で獣の拘束具を装着させられた。
    ご主人様の手に導かれるままフローリングに肘と膝をつき、束縛の枷を施されていく。
    生まれたままの裸身が、毛を逆立ててぷるぷる震えている。きっとはた目には、期待
    と興奮で紅潮し、発情期の獣に似つかわしい桜色にゆだっているのだろう。
    首輪のリードをつながれ、惨めさに裸身が引き攣れた。
    ご主人様は、私をマゾのペットとして調教し、仕立て上げるつもりなんだ——
    「う、うぐ」
    気づいた瞬間、信じられないほどの快感が電撃となって裸身を流れくだってゆく。
    人以下の存在として、惨めに扱われて燃え上がってしまうカラダ。
    セルフボンテージを重ねるうち無意識に誘導され、今やこの裸身はそら恐ろしいほど
    ご主人様好みに仕上がってしまっているようだ。
    おずおずと目隠しのまま顔を振る私に、今日始めてご主人さまが囁きかけてくる。
    「おはよう、早紀。似合ってるよ」
    「う、あふぅぅ」
    思わずくねったお尻を撫でまわされ、双丘の谷間に指が入りこむ。ふりふりと可愛い
    お尻をふらなくてもいいんだよ。そういわれた気がして、耳まで赤くなった。
    「よしよし。じゃ、朝食だ」
    ぐりぐり頭をなでられ、じぃんと深いところを甘い愉悦がみたす。ただ一言でこんな
    にも嬉しくなる。飼い主に裸身をすりつける私は、身も心も堕とされたペットだった。
    リードを曳かれ、おそるおそる4つ足で室内を歩かされる。
    お尻を振りたてる浅ましい歩行で怯えつつもいやおうなく感じてしまうのは、無意識
    に私が彼を信頼していられるからなのだろう。
    長い間‥‥
    このひとときを、セルフボンテージに魅入られたあの瞬間から待ちわびていた。
    本当のご主人様に躾けられ、調教され、服従の身を嬲られて。
    なまなましい部屋の空気さえドロリと私を愛撫し、エッチなオツユをしたたらせる。
    「おすわり」
    「ンッ」
    「口枷を外すけど、『ワン』以外言っちゃいけないよ。破ったらオシオキだ」
    「んんぅぅ!」
    「じゃあ朝食抜きかな? うちのペットは」
    思わず口を尖らせた私は足の甲でオッパイをたぷたぷされ、抵抗もむなしくたちまち
    甘い喉声を漏らしてしまう。ひどいコトをされているのに、たまらなくイイ‥‥
    おとなしく頷き、口枷と目隠しを外してもらった。
    目に映るのはリビングの床スレスレ、まさにペットの世界だ。正面の柱がテーブルの
    足らしく、そこにリードが短くまきつけられている。右隣に、ご主人様のぬくもり。
    そして、私の鼻先に‥‥
    「‥‥!?」
    ゾクゾクッと、背筋が波打った。
    正面、テーブル下の定位置にはキャットフードをペチャペチャむさぼるテトラがいて、
    その手前、私の鼻先に置かれた小皿には、スクランブルエッグとソーセージが私の分
    の餌として盛りつけてあったのだから。
    ペットと鼻つき合わせて四つん這いでの餌付け。
    飼っている子猫と一緒に、自分までペットとして不自由なカラダで食事を取らされる。
    どうしようもない浅ましさ、屈辱、くらりと眩暈。
    すべてが戦慄となり、私の心にひそむ、いやらしい女の芯を直撃していた。
    下半身で咥えっぱなしのバイブを、キュウウッと千切れんばかりに緊めつけてしまう。
    意地悪い‥‥こんな、あんまり‥‥
    情けなくて、そんなことに従ってる自分が、いとおしくて‥‥おかしくなる‥っ‥‥
    ご主人様は、黙ったままテーブルの上で朝食を始めているようだった。
    「あ、あの、ご主‥‥」
    「こら」
    身を起こし、顔をあげて訴えかけたとたんキュッと足で背中を踏みつけられた。
    ドキッと鼓動が乱れ、いやおうない圧力に顔を低くして伏せの姿勢をとってしまう。
    やはりご主人様は顔を見られたくないのだろうか。でも、それだって足でなんて‥‥
    絶対的な奴隷と主人の格差にすくみあがる。
    「ワン以外はお仕置きだよ、早紀。分かったら返事」
    「‥‥」
    「返事は?」
    低いささやきはからかうようで、ぐりぐりと足で体ごと押さえ込まれてしまって。
    反発もできず、辱められて声も出せずにいる私は奴隷なのだ。
    優しくない‥‥
    不意に、そんな思いが心をよぎった。
    私、調教だって、こんな本格的なのは始めてなのに、もう少し優しくたって‥‥
    いきなりこんなだと、私、くじけちゃう‥‥
    「‥‥わ、ワン」
    返事する声に、多分、少しだけ泣きべそが、嗚咽が交じっていたのだろう。ご主人様
    の足がどけられ、一度だけ、上から覆いかぶさるように屈んで腕を回してきたご主人
    様に、裸身を、乳房を、腰を、あやす手つきで抱きしめられた。
    震えをとりのぞくように這う繊細なタッチが官能をくすぐって、鼻声で鳴いてしまう。
    「ふぅン、ん、ンンッ」
    「可愛いペットだよ、早紀は」
    「ぅぅ‥‥」
    どうしてなのだろう。
    どうして、もう、私はご主人様の調教から、逆らえないでいるのだろう。
    調教行為の底を流れる、ご主人様の愛情にくるまれた気分になってしまうのだから。
    「ンッ」
    鼻をすすり、顔を小皿につっこんで食事をはじめる。手をつかうことなどできない。
    目の前で前足を舐めるテトラが鏡写しの自分のようで、つぶらな瞳にさらに煽りたて
    られて、それでも顔中をベタベタに汚して朝食をたいらげていく。
    いやらしい姿の私。
    子猫と一緒に犬食いを強いられ、そんなので下半身までグチョグチョにして、自分で
    も聞き取れるぐらいクチュクチュあふれるオツユで太ももを汚しちゃっている。
    んぐんぐと口だけでソーセージをほうばる格好。これだってメタファーそのもの‥‥
    「んっ、ひゃぁンン!!」
    かじりついたソーセージがぷちっと弾け、肉汁が顔にかかって私は悲鳴をあげていた。
    お尻を高くつきあげ、へっぴりごしになる‥‥その顔を、清潔なタオルを持った手が
    ぬぐってくれる。
    「んっ」
    口一杯にソーセージをほおばったまま、私は、わけもなくその手に頬ずりしていた。
    浅ましい奴隷にできる、精一杯の、これが、愛情表現で‥‥
    おねだり、なのだ。

                 ‥‥‥‥‥‥‥‥

    朝食を終えた私はふたたび目隠しと口枷を噛まされ、一匹の従順なペットに戻った。
    裸の上にまとう単純な後ろ手の手枷。縛めと枷は、私の心を奴隷へと作り変えていく。
    『してもらいたいこと、ある?』
    「んふ‥‥?」
    『ムチでも、蝋燭でも、緊縛でも。して欲しいこと』
    乳房をたわませ、ご主人さまが指文字で話しかけてくる。猿轡を噛ませておいて、私
    の反応をうかがうために、そして羞恥をあおるために、わざとそんな問いかけばかり
    してくるのだ。
    ベットに横たえられた私のカラダは、背中からしっかり抱擁されていた。
    密着感と甘い男性の息吹、睦みあう男女の体勢が心地よい。
    執拗に濡れたクレヴァスをまさぐられ、ボールギャグを噛みしめて顔を赤くさせる。
    秘めたこの場所を男性にいじられるのは本当に久しぶりで、繊細な手つきが背徳感を
    かきたてて、のびあがって逃げるカラダを抑えつけられるのが憐れで‥‥
    ふと、あることに気がついた。
    自分でも意識せずにムズムズと逃げてしまう私の下半身。エッチな昂ぶりとは違う、
    これは、いわゆる生理的欲求‥‥
    「ん、んーーーっっ」
    『どうしたの、早紀。やけに嫌がるね。もうやめるかい?』
    「くぅ、うふぅー」
    違う、違うったら、そんな変な焦らし方をされても、私‥‥
    しだいしだいにこみあげる尿意が、間断なく腰から下を震わせる。ご主人様の愛撫が
    なお尿意を加速させてしまうから、だから腰をいざらせてシーツにのめりこんで。
    知られたくない、我慢したい、けど、このままだと堰が切れて‥‥
    『‥‥トイレ、か』
    ビクッと震えた。
    おそるおそる、こくりとうなずく。
    このあと、どんな目に会うか‥‥私はじゅうぶん承知していた。
    ここで自由に解放してくれるようなご主人様ではない。きっと、さらに私を‥‥
    『トイレの躾も飼い主のつとめだったな。トイレに行こうか、早紀』
    追いつめようと、する。

    「んぐ、ふぅっ‥‥んくぅぅ」
    もがき、身をよじり、いやいやながら私はトイレまでひったてられた。
    自分でできるから、だから手枷を外して‥‥身振りで訴えたところでご主人様が満足
    するはずもない。あきらめ、不自由なカラダをご主人様の手にゆだねる。
    便座に座らされ、ドアを閉じて狭い個室にぎゅう詰めになった。
    じっと見下ろす視線の圧力をビリビリ感じる。おしっこ出さなきゃと思っても、見ら
    れる緊張で膀胱がきゅっと締まってしまい、すぐには出てきそうにないのだ。
    頬なんかピリピリ、痛いくらい紅潮している。
    目隠しも口枷も、赤面し、うろたえる私の表情を隠してはくれない。
    お願い、お願いですから私を見ないで‥‥
    「リラックスして」
    「!?」
    甘い吐息を耳もとに浴びせられ、私はなすすべもなく後ろ手のカラダを捩じらせた。
    近々とくっついてきたご主人さまが、妖しい手つきで愛撫を再開する。あろうことか
    緊張に震えているお股に指をさしこみ、同時に胸から指を滑らせていく。
    だっ、ダメ‥‥こんな時に、そ、そんな‥‥
    「ほらほら、出しちゃいなって」
    まるで子供のように無邪気な命令に激しくかぶりをふった瞬間、堰を決壊したそれが
    シャーッと激しい勢いで下腹部を駆け抜けた。
    や、ダメ‥‥
    あっと思う間もない。おしっこを見られる、その心の準備さえできぬうち、ゆるんだ
    尿道から勢いよく水音をあげて、おしっこがあふれだしていく。
    「‥‥」
    「ん、あぅ」
    ボールギャグを噛みしめ、頬をうつむけて視線に耐える。
    安っぽい煽り文句でないご主人様の沈黙が、かえって私の羞じらいと悩乱を深めた。
    見られてる、卑しい、はしたない排泄行為を、あまさず見られてる‥‥
    止まらない‥‥まだ、まだまだあふれてる‥‥
    出きったおしっこが湯気をあげ、ぽたぽたっと残りの雫がまとわりつく。トイレット
    ペーパーに手を伸ばしかけ、ぐっと手首に食いこむ手枷ではっと気がついた。
    「‥‥」
    「う、うぅぅ」
    「‥‥」
    「ン、くぅ」
    うらめしく、ご主人様をみあげる。まぶたの下まで火照ってしまうほどの惨めさだ。
    拘束されてるから、おしっこさえ自分でふくことができない‥‥
    「拭いてほしい?」
    囁かれ、コクコクと首を縦にふった。鼻を突くアンモニアの匂いがますます私を赤面
    させる。はしたない後始末までご主人様にしていただく‥‥ポッポッと顔が火を噴き、
    もうろうとして理性さえさだかではなかった。
    柔らかく拭くご主人様の手のぬくもりが、なおさら羞恥心を沸騰させるのだ。
    「どうせだから、こっちもしちゃいなよ」
    「‥‥くふぅぅ!!!」
    急にその手がお尻をくりくりっといじり、とたん、強く強く排泄の欲求を覚えていた。
    そうだ‥‥
    さっきの感覚は、ただ尿意だけじゃなかったんだ。
    ご主人様の前で緊張して、だから、ずっと我慢していた生理的欲求が‥‥
    「う、うぐぅぅぅ」
    「俺は気にしない。大丈夫だよ、早紀」
    「あふ、あ、っはぁぁ」
    猿轡から洩れる悩ましい喘ぎが呻きへ、そしてすすり泣きめいた諦めに変わっていく。
    お尻を、そん、そんなに激しくいじったら、虐められたら。
    ダメ、汚いの‥‥全部、出ちゃう‥‥
    私、もう限界で、だから、これ以上、む、無理、我慢なんか‥‥
    あ‥‥‥‥

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    「かわいかったよ、早紀。お尻をヒクヒクさせて」
    「くぅぅ」
    ご主人様のからかいに、やっとの思いで返事する声は消え入りそうな喘ぎだった。
    ぐったりした裸身を抱えられ、流したトイレからつれだされる。
    私‥‥なにもかも、見られてしまった‥‥
    何もかも、一番汚いとこまで見られて、うぅ‥‥恥ずかしい思いがおさまらない‥‥
    全身をうち震わせる恥辱のわななき。
    Hな小説で浣腸されたとたん従順になってしまうヒロインの気持ちが、いまほど、嫌
    というほど分かったことはなかった。
    この恥ずかしさ‥‥打ちのめされた感覚‥‥本当に、立ち直れそうにない。
    ご主人様と目を合わせることさえできない気分。目隠しをされてなお、おさえようの
    ない羞恥で顔を伏せてしまう。
    もっとも秘めておきたい部分を、もっとも憧れていた異性に見られてしまったのだ。
    エクスタシーを見られるより、恥ずかしい自縛の現場を取り押さえられるより、なお
    みっともない生理的欲求をあまさずみられてしまって。
    胸のうちにわきあがるのは、はかない諦めと、深い深い従属の心だった。ご主人様に
    逆らえない、あんな下の世話までされて、素直に調教されるほか、私には尽くすすべ
    がない‥‥
    ご主人さまが胸に指文字を描くのを、ぼんやりと意識する。
    『俺は少し出かけるけれど、君はどうする?』
    「え、あぅ‥‥う、ぁ」
    『どんな風に調教してもらいたい? どんな縛られ方をしていたいかな?』
    おっぱいをなぞる文字を理解して‥‥
    瞬間、怒涛のようなイメージが頭を駆け抜けていった。
    ご主人様に会ったら頼みたかったこと。して欲しかったこと。そんなもの、言われる
    までもない。本当に、数えきれないほどの願望があるのだから。
    猫のように一晩中かわいがられたい。
    屋外に連れ出されて、恥ずかしい晒し者にされてみたい。外でエッチなコトされたい。
    ムチの味を知りたい。吊るしぜめにされたい、逆海老に緊縛されてみたい。あの人と、
    ご主人様の前の彼女と‥‥
    佐藤志乃さんがされたのと同じ事を、全部私にして欲しい‥‥‥‥!!
    「‥‥ふふ」
    知らぬ間にひくひく跳ねていたのか、私の仕草に何かを感じたらしくご主人様は薄く
    微笑んだ。いとしいものを撫で回すように、私のカラダにすみずみまで指を這わす。
    「そうだな」
    ご主人さまが、私の心に刻み込むかのように、自分の声で呟いた。
    「早紀に、俺の縄の味を教えておくか」

    ギヂッ、ギュチィィ‥‥
    激しい縄鳴りをあげながら、熟れ爛れた女の柔肌を麻縄が喰い緊めていく。
    「うぐッ、あ、はぅ、はふぅぅ‥‥んなァァ」
    たえまない疼痛と疼きが灼りつく裸身を絞り上げ、情欲をそそりたててゆく。
    ただ一本の縄で自在にコントロールされ、悔しくも甘くよがり、むせび泣かされる。
    惨めに操られ、あらがうこともできず蛇のように腹をのたうたせ、指の関節にまで、
    縄をまきつけられて。
    そのいやらしい縄目の餌食となっているのが、私自身のカラダ‥‥
    火照る裸身はベットの上でうつぶせとなり、後ろ手の逆海老縛りで転がされていた。
    ひときわ引き絞った足首の縛めが後ろ手の結び目に短くつながれ、私は完全に自由を
    失ってしまう。
    『柔らかいね、早紀のカラダは』
    「ンッ」
    囁きつつの縄さばきと同時にご主人様の下半身が肌をこすり、私は真っ赤になった。
    ご主人様もこの姿に欲情してくださっているのだ‥‥
    見られる快感はひときわ恥ずかしく、暖かい。
    目隠しを外された私がご主人様の背中ごしに目にしたのは、私の視線にあわせて角度
    を変え、あますところなく灼りつく裸身を映しだす全身用の姿見だった。
    非日常的なSMバーとは違う、ほかならぬ私自身の家。OLとしての私の部屋。その
    生活の匂いさえしみこんだベット上に、被虐的に淫靡な湯気を立ちのぼらせる肉塊が
    コロンと無造作に転がされている。
    痛々しく発情しきったソレは、見る者の目を愉しませる扇情的な剥き身。
    乳房をくびられ、V字の首縄の重みに喘ぎ、ウェストを絞られて細身の柔肉をたわま
    せられ、後ろ手の手首にかっちり縄が噛みつく愛玩用のかなりきつめの緊縛だ。
    見栄えのする縄目と恐ろしいほどの拘束感が、ギジ、ギュチチと縄鳴りをあげて私の
    心をからめとっていく。
    『行ってくる。おとなしくお留守番をしているんだよ、早紀』
    「ン」
    かろうじてコクリと首を揺すり、私はうなずいた。
    見送りの挨拶をしようにも、歯の裏にしっかり咥えこむ口枷は、いつかのネコ耳つき
    の、あごの下まで押さえ込む酷いボールギャグに取り替えられている。私の代わりに
    みゃーとテトラが喉声をあげ、ご主人様は小さく肩を震わせてリビングを後にした。
    室内に、静寂と沈黙がもどってくる。
    かすかにカラダをゆらし、とたんアナルビーズに犯されて悲鳴をこぼす。
    ひっきりなしにひくつくお尻には、尻尾つきのアナルビーズが入れられている。連な
    った丸いつぶつぶが、腸壁をこそぎとっては汚辱の感触で私を啼かせてしまう。
    ご主人様を見送る妻‥‥とはとうてい行かない。
    見事なアーチを描く逆海老縛りで放置されたこの私の姿は、むしろテトラと変わらぬ
    もう一匹の、それも手のかかるペットだった。
    完全なセルフボンテージの失敗から、いつしか本当の調教へ。
    絶望から絶望へ‥‥
    ご主人様の縄掛けは、緊縛の手口はあまりに鮮やかで、これほど拘束を施されながら
    カラダにかかる負担はほとんどない。ギシリギシリ身悶えるたび、私の被虐のツボを
    押さえたかのように全身を圧迫感が緊めあげ、からみつき、できあがった肌を煽って
    まとわりつく。
    もし、これでご主人様の身になにかあったら。
    びっちり柔肌に吸いつく縄装束を施され、叫ぶことも逃げることも、ありとあらゆる
    生殺与奪の自由を奪われた私は、今度こそ‥‥助からないだろう。
    誰にも知られず、誰の助けもなく、一人、無力な裸身を波うたせてよがり狂いながら。
    この恥ずかしい姿で、最後を迎えることになる。
    「‥‥」
    ふふと、ひとりでに変な笑みがこぼれた。
    私は‥‥本当に、もうどうしようもないほど、根っこの部分はエッチな人間らしい。
    とめどない妄想ばかり思いついて、ゾクゾク自分自身を煽っているのだから。
    そんなことありえない。
    だって、私はすでに一度、危なかったところを助けられているのだから。
    (‥‥本当に?)
    絶えず疼き、ヒリヒリと、たえまなく甘い悦びの血脈がどくりどくりと皮下を流れて
    たゆたっていく。じわじわ裸身をむしばむ淫らな期待が意識をぼんやりさせ、現実を
    薄いベールにおおってしまっている。
    いうなれば、これは夢の世界。
    心を溶かす夢に魅入られて、私は従順に淫乱にしつけられていく。
    我慢することもない。好きなように、気持ちよく、調教を受け入れていればいい。
    「んっ、んふぅぅ」
    不自由な肢体は、なかば吊られたような状況になっている。
    足首と後ろ手を結ぶ縄が上から垂れる別の縄で作られた輪をくぐっているため、ほん
    のわずか躯が浮かされてしまう。重心を前にかけると輪が足首の方にずれ、後ろ側に
    体重をもどすと上体が少しだけ浮く。
    このかすかなアンバランスが、私の身悶えを縄のきしみにつなげ、縛られたままでの
    甘い悦楽をつくりだしていた。自ら悶えることで、好きなように全身を軋ませ、縄の
    味に酔いしれてしまうのだ。
    「あっ、あふぅぅ‥‥ふクッ」
    トクン・トクンと動悸を逸らせ、のぼせた意識でご主人様のことを思う。
    ご主人様‥‥私に佐藤志乃宛で拘束具を送りつけ、セルフボンテージの世界へと引き
    こんだ悪い人だ。昨日の話でも、この部屋に住むのが志乃さんじゃなく私だと知った
    上で、私を誘いこんだといっていた‥‥
    あれほどに待ちわびたご主人さま。
    なのに、どうしてか、彼は顔を見せず、声も聞かせてくれない‥‥
    話をする時でさえ、できるだけ声をきかせたくないようだった。短い会話のやりとり
    以外はすべて、乳房に指文字を書いて意志を伝えようとしている。
    なぜ、だろう‥‥
    顔を知られたくない‥‥ひょっとして、私の知り合い?
    分からない。それどころか、カラダがとろけて、思考さえろくにまとまらない。
    「はぁぁン、うァン」
    いきなりバランスを崩し、ぼふっと顔からシーツにのめった私は、深々とクレヴァス
    ・アナル両方の内壁を器具で同時にこそぎ取られ、しびれきっていた。
    たえまなくあふれかえる甘い愉悦の波。こんなのが、ご主人様が戻ってくるまで今日
    一日ずっと、ひたすらに続くのだ‥‥
    窓の外はまるで明るい。まだ昼でさえないぐらい、このまま、ずっと放置されて‥‥
    これは、夢なのだろうか。
    ふと思う。
    あるいは、もうろうとした意識がみせる最後の幻覚に溺れているだけで、本当の私は
    ずっと今も助けもなく、無残に拘束を施されたオブジェとなって安置されているまま
    ではないのだろうか?
    男性が、ご主人様が顔を隠すのは、本当は、そんな人がいないからじゃないだろうか。
    想像もつかないから、こういう形にされているのではないろうか‥‥
    分からない‥‥
    ただ、カラダが熱くて、とりとめがつかない‥‥
    どこか物足りないとでもいいたげに、私のクレヴァスはひくひくと熱く蠢いている。
    犯されるのは怖い。むりやりはイヤ。でも、私は、ずっとあの人を待ちわびていた私
    は、今では『ご主人様に抱かれたい』とまで思っている。それだけは、たしかで。
    奇妙な気持ちだった。
    自分から、まだ顔も知らぬご主人様の躯を求めてしまっている。
    私は、ご主人様に犯されたいのだろうか‥‥
    「あぁふ、ぃグ」
    涎をしたたらせ、ボールギャグに歯を立ててこみあげた快感をのみくだす。
    セルフボンテージで馴らされきった放置責め。
    その中で、ご主人様に施されたこの緊縛は、かぎりなく完璧に近かった。
    愛撫や揶揄の台詞で煽られ責め立てられ、なかばムリヤリ一足飛びに被虐のステップ
    を駆け上っていく、あの苦しいエクスタシーとはまた違っていた。
    湯舟に身を沈めたような、ゆるくたゆたう高揚感。
    どうせ、どうあがいて四肢を突っ張らせたところで、今の私は後ろ手の指先まで固く
    縛り合わされているのだ。
    蹂躙され、発情する裸身はまさしく緊縛のオブジェそのもの。
    目の前の姿見を見つめ、悶える様と現実の触覚を擦りあわせながら、さらに自発的に
    カラダを熱くグズグズに脱力させていく。
    私自身でなく、ご主人様の手によって徹底的に緊めあげられたこのカラダでは何一つ
    抵抗など叶わぬ身なのだ。ただひたすら、不自由な裸身を心ゆくまで悶えさせ、その
    惨めさに酔いしれて、被虐の波間をただよいつつ上気し、昂ぶらされ、のぼせていく。
    縄目が残酷であるがゆえに、束縛のリズムはむしろゆるやかに。
    鼓動の速さで一歩ずつ、着実に、禁断の甘い官能を搾りとっては蜜を喉へと流しこみ。
    無慈悲に縄打たれた奴隷の身で、煩悶の悦びを極めさせられてゆく。

                 ‥‥‥‥‥‥‥‥

    ふわふわと、手足が宙に浮き上がったようで感覚がまひしかけている。
    比喩ではない。長いこと縛られっぱなしの手足がしびれ、それが痛みではなく、心地
    よい陶酔となって全身をかけめぐっているのだ。
    イイ‥‥
    気持ちイイ‥‥酔って、縄の味に溺れて‥‥いつかのバーの一夜のように‥‥
    嬲りつくされた身は軽く波打たせるだけでギチチリッと幾重もの縄鳴りを呼び起こし
    合奏となって肌を食む。狂おしい快楽の調べばかりが、私をドロドロに中から溶かす。
    おま○こが、べちゃべちゃで、もう、たまらない‥‥
    いっぱい奥深くまで突き刺されて‥‥思いきりかき回されたい‥‥
    このまま、縄掛けされたままで、玩具のようにあしらわれて‥‥男性の強い手で‥‥
    『ちょっと、すぐそこまで買い物に行ってきたよ』
    「?」
    うつろな意識を引き戻すと、いつのまにかご主人さまがいた。
    出かける時と違って顔を隠そうともしない。サングラスに風邪用のマスク、いささか
    不審者じみているけど、見てとれる顔の輪郭は想像以上に若々しい男性のものだった。
    オッパイをなぞられた痕が、うるしでも塗られたように腫れあがる。
    ぱっつんぱっつんに爛れた乳房は、指文字だけでめくるめく快感をしみださせるのだ。
    すご‥‥すごすぎる‥‥
    ご主人さま、もっと、もっと私を、私を虐めて‥‥かわいがって‥‥
    会話なんか二の次で、自分からふりふりとくびりだされた胸を押しつけていく。
    苦笑しつつご主人さまがギュウっとオッパイを絞ると、頭の中で火花が弾けとんだ。
    先の方なんかビリビリってしびれてしまって‥‥
    イク‥‥気持ち、イイ、よすぎて、イっちゃう‥うぅぅ‥‥!!
    「んんぐ、む、っふ、うぅぅぅぅ‥‥」
    『買い物って言うのは早紀を調教するためのものでね』
    「はふっ、ンァァァァ‥‥!!」
    『すぐ近くのSMショップでね、早紀を責める道具をそろえてきたんだ』
    「‥‥っ、ひぅ!?」
    唐突に不自然な動悸が私をとらえていた。
    このマンションの近くにあるSMショップ。この町でそんな場所は一つきりだ。駅前
    の繁華街の雑居ビル4Fの『hednism』 。私の知っているもう一人のご主人様のお店。
    そもそも、発端はあれだった。
    屈服したら一生彼女のモノになる‥‥奴隷か、自由か‥‥
    私自身を賭けた調教で屈服し、丸一日彼女の奴隷となる約束を交わした私は、その時
    のことを思い返していて衝動に駆られ、絶望的なセルフボンテージを始めてしまった
    のだから。
    彼女との約束はまだ生きている。
    私はご主人様の奴隷だ。けれど、あの女性との約束だって、破るわけにいかない‥‥
    『さぁ、早紀もしたくを始めようか』
    「‥‥‥‥!?」
    甘い息の下、物思いにふけっていた私はご主人様の声でわれにかえった。
    厳重な縄を解かれ、どこか残念に思いつつ自由を取り戻す。
    何をされるのか分からぬまま、ご主人様に急かされてふたたび4つんばいのポーズを
    とらされた私は、今度はケモノの拘束具を嵌められていった。朝よりもずっと厳重に、
    革のロンググローブも、底厚の肘パッドも取りつけられる。
    浅ましいことに、自由になったばかりの私は期待と興奮で裸身を熱く昂ぶらせていた。
    両手、両足ともぎっちりベルトを絞られ、太ももと足首、手首と肩がくっつく拘束姿
    で、もはや肘と膝でよちよち歩きするほかないというのに。
    さっきよりずっと不自由な、完全な4つ足のケモノ‥‥
    このカラダで、私はどんな恥ずかしい調教を強いられるというのだろう。
    顔を上げる私は、きっとボールギャグと革マスク越しにもはっきりと嬉しげに見えた
    に違いない。
    頭をなでられ、首輪のリードをとらえられて、これで私は完璧にご主人様のモノだ。
    低く、深く、そして嬉しそうに‥‥ご主人様が呟いた。
    「さぁ、メス犬の夜のお散歩に行こうか、早紀」
    「?」
    「室内じゃない。マンションの外へ、その格好で公園まで歩いていくんだ、早紀は」
    思わず窓の外を見る。
    外は、まだ夕暮れにさえ程遠い、晴れ上がった午後だった。
    「さぁ、メス犬の夜のお散歩に行こうか、早紀」
    「?」
    呆けた顔で、私はご主人様を見上げていた。
    外はまだこんな明るいのに。会社帰り、学校帰りの住人が一番出入りする夕方なのに。
    今ここから出かけたら、絶対、他の住人に見られてしまう。
    冗談にもほどがあると思った。
    露出のリスクが高すぎて、あまりに危うくありえない調教なのだ。
    「信じてない目だね。でも、給湯器のリモコンは隠した。逆らってもムダだよ、早紀」
    「くぅ‥‥ン?」
    「俺がやらないと‥‥本気で思っているかい?」
    ご主人様の瞳が細まっていく。
    鼻を鳴らしかけ、ふと自分の姿に思いいたった。色づく唇の隙間から食みだすボール
    ギャグ。残酷な獣の拘束具を課せられて地に這いつくばり、胎内を抉るバイブに涎を
    ふきこぼすしかない、私自身に。
    肘と膝に当てられた厚いパットが、ご主人様の本気を示しているのではないだろうか。
    首輪を曳かれる私は、自分の望み通り、生殺与奪の一切を明け渡した牝犬だから‥‥
    そうだった‥‥
    拘束姿の従順なペット。お尻をふりたて、四つんばいで惨めに地を這うばかりの獣。
    「んっ、ンァッ!?」
    ゾクリと戦慄に捕らえられ、私はあわてて手足の拘束を凝視していた。
    おののき、取り乱して手首をあちこち眺めだす。
    絶望的なまでに閉じきった金属の輪。
    手首と肩口、足首と太ももの根元それぞれを束ねられ、本当にいまの私は肘と膝で必
    死によちよち歩くだけの‥‥あと、ご主人様に嬲られる以外の機能を剥奪された‥‥
    交尾を待ちわびるだけの、完膚なき達磨女なのだ。
    「分かったようだね。俺の許しがない限り、一生、早紀はそのまま暮らすんだ」
    「うっ、うぐっフ、ひぐぅゥゥ!!」
    「甘い期待ばかりで従うからこうなるんだよ。分かるかい、調教ということの本質が。
    何もかもが君ばかり中心に回って、快適な、それが調教だと思っていたかい?」
    「ひぅぅ、ンンンンンーーー!」
    「早紀の好きなことだけ紡いで楽しむわけにはいかないよ。それは、それこそご主人
    様をモノ扱いしている。最低の仕打ちだ。分かるね」
    ‥‥
    ご主人様の呟きが、耳をすり抜けていく。
    怖い怖い怖い怖い‥‥あんなに待ち焦がれていたのに、命令された途端、強制された
    途端、怖くて、できなくて、手足がひきつって‥‥
    グチャグチャにうるみっぱなしのアソコと裏腹に、全身を冷や汗がおおっていく。
    この姿では、たとえ何をしようと強制しようとご主人様の思うがまま。
    どころか逆らってひどい罰を与えられたとしても、身悶えさえままならないのだから。
    遠慮なく首を曳かれ、窒息の恐怖感を植えつけられて。
    すくみあがって抵抗もできない裸身ごと、ズルズルと玄関前まで引きずられていく。
    うそ、うそっ‥‥その扉の向こうは、絶対に‥‥
    怖くて、恥ずかしくて、もうこのアパートで生きていけなくなる‥‥
    あふれだす涙と嗚咽。醜く顔を歪ませて、必死にご主人様にすがりつくのだ。
    しばらくは無言だった。
    私も、彼も。
    どうすべきか、どうしたらいいのか、この人を信じたいのに、虐めてもらいたいのに。
    秒針の音さえ肌の柔らかい部分に突き刺さってくる。
    「‥‥俺の気持ち、こういうの‥‥どうにも、難しいな」
    「ンク、エグッッ」
    すすりあげつつ、頭をたれてご主人様の言葉を聞く。
    叱責とも独白ともつかぬ声もまた、どこかとまどい、迷いをふりきれない響きだった。
    「俺は君の道具じゃない。俺も、して欲しい。お前にさせたい。我慢が難しい」
    「‥‥!?」
    「つねにマグロじゃなく、そういう発想は、浮かばないのかな、早紀」
    俺もして欲しい‥‥
    台詞の弱々しさが、しゃくりあげる私の顔をはっとあげさせていた。
    SとM。
    当たり前の事。私が欲望をぶつけ、しゃにむに感じてしまうように、ご主人様だって
    男性の当たり前の欲望を感じないはずがないのだ。
    ずっと受け身で過ごしてきて当然だと思っていた。ご主人様が何でも与えてくれると。
    さっきも、その前も、ご主人様が行動を起こすのをずっと待っていたのだ。
    でもそればかりじゃ、2人の関係が正しく結べるはずがない。
    ご主人様だって、独占欲も、支配欲、調教の欲望も‥‥性欲だって、あるのだから。
    私は‥‥
    ご主人様を、好きになりたいから‥‥
    怖くても、信頼して、この人の立派な奴隷にして頂きたい‥‥
    こくりとうなずき、従順の表明にカラダをすりつけた私は上目づかいに彼を見上げた。
    ご主人様の欲望を、私が叶えてあげたいから。
    しゃがんだご主人様が手を伸ばし、ボールギャグのストラップに手をかける。
    「ンッ、ンフフフッ‥‥はい。私、ご主人様のためな‥‥ひゃぁ、あ、カハッ、ふク」
    「ふふ。牝犬にに声なんかいらないね。犬らしく鳴いてご覧」
    ボールギャグを外されたと思うのもつかのま、今度は強制フェラチオのための口枷を
    噛まされる。素直に開く唇いっぱいに太い鉄の環を押し込まれ、ほんのわずか言葉を
    交わすことさえ許してもらえないのだ。
    少しだけ恨めしげに、頑張ってリングギャグを深々とほおばりつつご主人様を睨む。
    「不満そうじゃないか」
    「ンー」
    「舐めてくれるね? 俺のものを」
    「ぁぅッ‥‥くぅン」
    甘ったれた喘ぎが出たのは気のせいだろうか。
    悪っぽく囁きかえすご主人様も、サングラスとマスクの下でどこか嬉しそうだった。

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    今度こそ、はっきりと眼にするご主人様の姿。朝は目隠しをされ、出かける時は背中
    だけだからなおさら見つめてしまう。
    どこか若々しさを残す男性、それが、私のご主人様だった。
    同い年か、あるいは下かもしれない。マスクとサングラスで隠れたその顔は、どこか
    凛々しく胸をときめかせる風貌のようだ。
    リングギャグの栓を外され、開口部から舌をつままれてペロペロしゃぶりつつ、私は
    ぽーっとうっとりした瞳でご主人様を見あげてしまう。
    恥ずかしい拘束に甘んじて、この人に好かれて、かわいがられなんて。
    喜びにときめいて、カラダがひくひく跳ねちゃう‥‥
    「さぁ。今度は俺がマグロだ」
    「むぅー」
    意趣返しをされてぷっと膨れる。リングギャグのせいで気づかれないだろうけど。
    私は迷わず、ご主人様の下半身に顔を寄せた。
    ベルトを外し、ぱっつんぱっつんに盛り上がったジーンズを脱がそうと悪戦苦闘する。
    「んっ、ンフッッ」
    唇には相変わらずリングギャグを噛まされたままだった。
    ご主人様のこの意地悪のせいで、歯をたてられない私はどうしてても前足を使わざる
    を得ず‥‥そうなると、バランスをとるため、あのポーズになってしまうのだ。
    「‥‥!!」
    ここにきてご主人様の意図を思い知り、私は耳の上端まで真っ赤になっていた。
    ワンちゃんの、チンチンのポーズ。
    膝立ちになってカラダを密着させ、拘束された前足の先を曲げてジーンズのふちごと
    ジッパーを下ろそうと悪戦苦闘する。その私の格好たるやご主人様にしなだれかかり、
    くにくに足に押しつけるオッパイから、バイブと肉裂れのすきまからおツユをこぼす
    アソコまで、カラダの全面が丸出しなのだ。
    屈辱的で、しかもそれを自覚させられるポーズだった。
    ご主人様の瞳がスケベな感じにニヤついている。観賞される奴隷の羞じらいが裸身を
    まだらに火照らせる。今にも胸を、お尻を揉まれそうで、でも見られてるだけなのが
    また切ない。
    ようやくジジッとジッパーが下がり、割け目から天を突く反りがあらわになっていた。
    ブリーフ越しの彼自身は充分以上に固く雄々しく反り返り、まるで媚薬のように発情
    中の私を駆りたててしまう。
    はふはふ言いながらブリーフに前足をかけたとたん、ご主人様が呻いた。
    「痛、いたた、腹をえぐるな」
    「あぅ!?」
    前足がめりこんでボディブローになったらしい。思わずしゅんとなり、頭をたれる。
    オシオキされても仕方ない粗相だ‥‥うなだれる頭を、意外にもご主人様の手が優し
    く撫でてくれた。
    「がっついたのは分かった、まぁ、許す」
    「うぅ」
    言葉でも辱められ、プレイでも辱められ‥‥
    真っ赤になりながらも私はいそいそと、ご主人様自らがブリーフを下げてむき出した
    太いソレに顔をかぶせた。そろりそろりと口枷のリングを通し、舌先で息づく分身を
    確かめて嬉しさに腰をよじらせる。
    ご主人様のオチ○チンが、私の口の中で、痛々しいほどビクビク震えてる‥‥
    ガチガチにこわばったそれを慰撫するように舌を絡め、滑らかに首を動かしてフェラ
    チオをはじめていく。あふれだす涎を頬のくぼみにため、舌にまぶしてからご主人様
    に塗りたくる。音を立て、頬を吸い、むせ匂いにまみれて熱心に顔を動かす。
    初めのろのろした首ふりは、少しづつ勢いをつけて口腔深くまでくわえ込んでいく。
    「ンッ、おふっ」
    たまらない恥じらいに、声を奪われた口枷の孔から嬌声がしたたった。
    チンチンの姿勢で前も後ろもバイブに蹂躙され、完全なメス犬に仕立て上げられて、
    そんな私が自発的にご主人様のものを咥え、美味しそうに奉仕を始めているのだから。
    頭でわかっていても、とめどない恥辱が頬を火照らせる。
    まぎれもないペットに成り下がった私を、ご主人様はどう思い、どう感じているのか。
    『俺にもして欲しい‥‥』
    あの弱々しさは、おののく私と同じように迷いあぐねてのことだったのだろうか。私
    のご主人様になるのかどうか。これからも私を調教しつづけるべきか悩んだ末の。
    だとしたら、ご主人様には遠慮なんかさせたくはない。
    SMプレイでは、きっと、ご主人様の方がずっと大変で、苦労のかかる立場なのだ。
    私への遠慮や躊躇が言わせた台詞なら‥‥
    「ンブッ、ふブっ、っくぅぅ」
    ぶちゅ、ぶちゅっとできるだけイヤらしく唾液を攪拌し、大きな音でしゃぶりつく。
    舌先でねっとりとしごくように‥‥ご主人様を楽しませるように‥‥
    男性がどんな風にコレを楽しむのかは知らない。
    だけど私は、本当に、ドロドロに下腹部を熱くしながらご奉仕を続けていた。昔の彼
    にだってしたことないくらい熱心に。敏感な舌先でなぞり描く肉のシャフトが、味覚
    と触感と、鼻を突く雄々しい匂いと、擬似的に犯されている視覚のいやらしさとで、
    これでもかと言わんばかりに私を責め嬲っている。
    ご主人様のが、苦みばしった味の先走りのしずくが、脈打つ固さがたまらないっ‥‥!
    「ングッ‥‥ふぅ、あうぅぅ」
    いい、イイよぅ‥‥変な気持ちがどんどんにじみ出てきて‥‥
    すごい犯されてるのが分かって、しゃぶるたび苦しそうに眉を歪めるさまがセクシー
    で、上目づかいの視線が絡むたび、コレが口の中で跳ねるのが嬉しくって。
    だから。
    ご主人様の、全部。全部を。苦しくなんかないから。
    一滴残さず、ビクビク波打ってるそのすべてを‥‥私に、下さい‥‥
    いっそう熱心に舐めしゃぶり、ひくひく開いたり閉じたりする先っちょの割れ目に舌
    を差しこむぐらいの勢いでとろとろと唾液をしたたらせて。
    「ぐ、くぅッ!」
    低い呻き声はセクシーだった。
    そして、そのあと、あまたたび、たっぷりとたわむ砲身から吐き出された白濁もまた。
    口蓋の裏を直撃して私をむせさせ、飲み干そうにも飲みきれず、濃いエグイ色をして
    で緘口具のふちからあふれた粘液をあびたまま、媚びた上目づかいを彼に向ける。
    半分は恨み言。酷いなぁって思ったから。
    もう半分は睦言。私の口でイッてくれたことが嬉しくて、なにか奴隷の矜持のようで。
    白濁まみれの舌先をギャグから出し、口枷の縁をねっとり舐めていく。
    ‥‥前の彼に教わった男殺しのテクニックとか、なんとやら。馬鹿馬鹿しいと思って
    いたこんな唇を舐める仕草が、ご主人様を喜ばすために役立つとは思わなかった。
    「‥‥エロイな、早紀は」
    責める口調と反対に、ご主人様のソレがみるみる硬度を取り戻していく。
    憤った分身をジーンズに押し込み、目元をゆるめてご主人様は私を見下ろした。
    「名残惜しいけど、今はここまでにしよう。良かったよ」
    「うン」
    「さぁ、メス犬のお散歩に行こうか、早紀」
    「‥‥‥‥」
    みたび、非情な命令。
    それを耳にして、私は、こくりと頷いていた。
    ちろりちろりと被虐の焔が、理性をあぶり焦がしていく。
    真実の意味で調教をされている。その自覚があった。
    ご主人様の満足のためだけに、あえてお披露目でもするかのように、私は一番危ない
    時間に連れだされようとしている。嫌がる行為を無理強いされている。
    毛並みをあやす手が、うなじを伝い、背筋からお尻へ、つぅっと官能的に撫でていく。
    白桃の裂け目からもぐりこみ、柔らかくほぎれたお尻に生えた尻尾へ。
    アナルビーズを食わえこむヒダのすぼまりをいじられ、掌がふわふわシッポを揺らす。
    「んっふッ、ふわぁぁァァ」
    ゾクゾクした愉悦に突き上げられ、喘ぎはとめどなかった。
    遠吠えする獣じみてお尻から弓なりに背をたわませ、キュプキュプと、胎内でアナル
    ビーズばかりにこすられて、いじましいぐらい粘液があふれてしまう。
    尻尾をあやされ、すっかり骨抜きにされ、拘束姿の、メス犬の私がお散歩へ向かう。
    こんな躯で‥‥精液処理の道具そのものの、淫靡な躯に仕立て上げられて。ご主人様
    どころか、誰にだって抵抗できない状況下で。
    行きたくないのに。怖いのに。震えが止まらないのに。
    隣人に出会ってしまったら、もう私はこのアパートに住むことさえできなくなるのに。
    頭上でノブが回り、玄関の扉を鼻面でおしあけ‥‥
    「ひゃンッッ」
    お尻の中をかきまわされ、刺激にもんどりうった私は肘と膝で飛びだしていた。
    アッと思う間もない。ねっとりした外気が毛穴をすくませ、取り返しのつかぬ動揺が
    裸身を覆いつくす。
    くらりと頭が傾ぐほどの眩暈に襲われ‥‥
    ただの一歩で、完全に、底の底まで、私の肉体はオーガズムの頂点をきわめていた。
    ぶるぶるっとよじれる秘裂が、排泄の孔が、バイブをギリギリ緊めあげる。佐藤早紀
    を捨てられるのか‥‥その、本気の覚悟をするゆとりさえ、与えられずに。
    完全に、後戻りできぬ裸身が、夕陽に染まっていた。
    背後で音高くドアが閉じる。
    リードを曳かれ、哀願することも逆らうことも叶わずに、四つんばいのまま歩きだす。
    野外調教は、始まったばかりだ。
                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    宵闇の迫るアパートの廊下に、音高くひづめの音がこだまする。
    肘と膝のパットに連結された金属のリング。たったそれだけの細工で、足音を殺して
    そろりそろりとおびえる私の仕草はすべて無意味にされていた。
    あまりにも辱められ、恥辱をなめつくして、自分がもう分からないのだ。
    リングギャグにぐっと歯をたて、閉じられない唇から、力の入らぬ口から息をこぼす。
    あぁ、だって‥‥
    信じられない‥‥すごい、足音が響いて‥‥誰に見られるか‥‥
    こんなヒドイ事されて、私ときたら、気も狂うばかりに感じちゃっているのだ。
    靴音でも、ヒールの音でもない。いびつな蹄を踏み鳴らして、外気にさらけだされた
    牝犬の裸がふらふらと亀のような歩みを続けていく。
    進まない。
    歩いても歩いても、踏み出す一歩がご主人様のスニーカーの幅にすら満たないのだ。
    目も眩むばかりの焦燥感が、焦りが、意識を白く灼きつくす。
    「‥‥」
    だいぶ時間がたったにも関わらず、しつこく残照の粘りつく廊下は赤く染まった花道
    だった。人の気配なんてそこかしこから感じとれる。なのに、私はまったき無防備で。
    「んくぅ‥‥ッ!」
    口枷を噛み絞り、快楽とともにわきあがる苦しい涎をコクンと飲み下す。
    感覚は、這いずりまわる芋虫のそれだった。歩く、ではない。チリチリとマゾの愉悦
    にただれきった肌をこすりつけ、その場でズリズリとのたくっては蠢くばかりなのだ。
    信じがたいほどの被虐の疼きがカラダをかけめぐる。
    なぜって、だって、今度こそ私は心から嫌がっている調教行為を強制させられている
    のだから。逆らえず、ご主人様の色に染められていくのだから。
    何もかもがか細く、頼るものさえなく。
    頻繁に、何度も、いくども、顔を持ちあげては遥か高みで人の世界を確認するご主人
    様の顔を‥‥横顔じゃなく下顔を‥‥上目づかいにのぞきみる。
    それ以外に私を守るものは、何一つない。
    震えつつも四肢をこわばらせつつも歩いていけるのは、ご主人様を信頼しているから。
    安全を確認して下さるこの方なしでは、私は自分の部屋にさえ戻れないのだから。
    「‥‥心配するな、早紀」
    一人言のように、でも間違いなく私に向けて呟き、ご主人様がリードを曳く。
    喉奥で哀しく喘ぎ、声と裏腹に耳たぶの先までのぼせあがって、私は曳かれていく。
    バイブのリズムにあわせて肘と膝を動かし、啼かされっぱなしのカラダを爛れさせて。
    行き先は‥‥
    これも信じがたい、ようやく宵闇に包まれたばかりの、近所の児童公園だ。

    深い深い泥の底を、黒い夢幻境をさまよう気分だった。
    断片的な世界を、熱に浮かされ、立て続けのエクスタシーの中、わけもわからず朦朧
    と這いずり回る。ようやく暗くなり始めた路地。アパートのエントランスから下りる
    階段数段の絶望的な高さ。揺れるオッパイが邪魔で、遠くを走る自転車や車が、魔物
    のように巨大に見えて、次第に拘束になじんできた躯が、肘と膝だけでもご主人様に
    負けないぐらい普通に歩けるようになってきて、意味もなく道路のシミを避けては足
    取りをふらつかせたり、よたよたと電信柱に隠れて通行人をやりすごしたり‥‥
    そうして、公園入口の車止めを見あげている。
    震えて力の抜けそうな肘と膝を必死につっぱらせ、四つんばいの姿勢でふらつく。
    「なんだ、濡れまくっているな」
    「あぉ、ン」
    下腹部をまさぐられ、羞じらって身を揺する。
    濡れたとばりをいじられて、バイブと一種にご主人様の手で虐められて‥‥感じない
    はずがないのだ。体中をくねらせて、ご主人様の足にすりついてしまうのだ。
    これが現実だなんて。
    バイブを咥えた全裸で児童遊園の前にいるなんて。
    ありえない‥‥そう思っていたのは、つい1時間前ではなかったのか。
    シーソーに砂場、ブランコ、トイレがあるきりの小さな公園も、靴の先をなめる視点
    からは茫洋として暗がりまで伸び、広がっていた。
    ご主人様の計画が緻密だからか、あるいは幸運か、ここまで誰にも会わず歩いてきた。
    だが‥‥この公園には人がいた。
    塾帰りらしい中学生ぐらいの少女たちが、携帯をいじりつつ、ベンチに座っている。
    見られちゃうから、イヤですよう‥‥言葉の代わりにカラダで気持ちを表現しつつ、
    私は手綱を引っぱった。伝わったのか、ご主人様が頭を下げ、私を見下ろす。
    慈愛に満ちた目。そう感じる。
    サングラス越しに愛情深く眺められ、カラダがひくひくとなった。
    「そうだな、早紀」
    「あ、ンン」
    思わず、殺していた喘ぎが大きくなってしまう。良かった、分かってくれた‥‥
    手綱をにぎりなおし、ご主人様は続けた。
    「よしよし。まずは一人で中に入って、四隅を一周してきなさい、早紀」
    驚愕に瞳が、瞳孔が開いてしまう。
    ‥‥ご主人様は、本気だった。
    囁きには、反論を許さぬ威圧感がこもっていた。その意志に私は震えあがってしまう。
    宵闇の迫る児童遊園に一人で入っていかないといけない。
    それはすなわち、ご主人様の庇護を失い、無防備な全裸をさらけだすということだ。
    自由を剥奪され、凌辱を待つばかりのこの躯では、3歳の子供にだって抵抗できない。
    まして公園内には中学生ぐらいの女の子が2人もいる。もし何かイタズラされたら、
    あるいはケータイで警察でも呼ばれたら。
    それ以前に、この格好は、私だけじゃなく彼女たちにもトラウマを与えかねない‥‥
    「嫌か。なら、さらにきつい命令だ」
    「くぅ、ンン」
    「あの子たちに、このニップルチェーンで乳首を繋いでもらえ。その後、公園の四隅
    を一周して、そこで伏せて待つんだ。俺は近くのコンビニまで行ってくる。戻るまで
    に、すませておきなさい」
    「うぅッ‥‥!!」
    ご主人様はニップルチェーンを口枷に押しこんで咥えさせ、すたすた早足で歩きだす。
    あわてて追いかけようにもこの手足で追いつくはずもなく、角を曲がったご主人様は
    すぐに消え、私はひとり取り残されるのだ。
    「ンムぅぅ‥‥ぅ」
    ぞわわっと全身の毛穴が開くのが分かった。
    ウソ。こんな、本当に‥‥私、一人ぼっちで、命令だけされたままで‥‥
    火照りつつ全身の血の気が引いていく、異様な感覚。びっしょりと冷や汗にまみれ、
    完膚なきまで施錠されつくした牝犬の姿で、私は公園前に取り残されてしまったのだ。
    火のついたように下腹部が疼き、ネトネトの肉ヒダが灼けただれて‥‥
    女の孔すべてをみっちりと埋め尽くされ、激烈な羞恥の予感で躯が燃え盛っていく。
    仕方がなかった。
    あのときの私に、他に、どんな選択肢が残されていたというのだろう。

                   ‥‥‥‥‥‥‥‥

    あらためて‥‥
    薄闇の中で自分自身を観賞し、凶々しい凌辱のエロティシズムに私は震え上がった。
    淡い街灯を受けて、汗まみれの裸体が濡れ光っている。
    きつく折り畳まれた肘と膝。ハァハァと開口部の鉄の環から舌をつきだすばかりの口。
    際限なくポタポタとだらしない蜜を滴らせる下の唇と、アヌスに深く穿たれた尻尾。
    指先から上腕までを包むレザーグローブは汗で完全に肌と同化し、厚いパットで接地
    する肘と膝は、正しく犬の四肢そのもの。
    顔はすっぴんで、梳くこともできぬ前髪がべったり額にへばりついているのだ。
    この惨めな裸身を、思春期の少女の前にさらすのだから。
    私一人ならけっして選ぶはずのない選択肢。それが、ご主人様の、絶対の命令なのだ。
    行きたくない。けれど、ご主人様の調教に従うのが、奴隷の務めだから‥‥
    のぼせあがった顔を伏せ、舌先でニップルチェーンを落とさぬよう押さえこんで、私
    は車止めの脇から、のろのろと公園内に歩みいった。
    前足が柔らかい土にめりこみ、すんでのところで転倒しかかる。それでも声は出さず、
    のろのろと植え込みにそって先に公園のふちを歩いていく。顔はうなだれたまま。
    できる限り、少女たちとかかわりたくなかったのだ。
    見られたくない‥‥知られたくない‥‥
    誤解しようもない、完璧に躾けられ調教された獣の拘束姿では。それが本心だった。
    お仕置きされてもかまわない。せめて、2つの命令のうち一つはすませておきたい。
    その足がもつれ、私はガサッと植え込みにつっこんだ。
    突然の物音に驚いたのか、キャッ‥‥とも、ヤダ、ともつかぬ小さな悲鳴が上がる。
    思わずその場で凍りつく。お願い、気づかないで‥‥
    「な、なんか、いるよぅ?」
    「‥‥‥‥」
    「な、なに、あれ‥‥人? ヤダァァ」
    見られた‥‥!!
    ぎゅうっとカラダ中の筋肉が収縮した。
    ご主人様だけじゃなく、赤の他人にまで浅ましい格好をさらしてしまった‥‥
    おののきと好奇心の混ざった視線で裸身に舐めまわされ、恥辱を堪えて歩きつづける。
    目を細め、拘束された指先をきつく握りしめて、気づかないふりをするのだ。すぐに
    気持ち悪がってどこかに行ってしまうに違いない。
    沈黙と静寂が続く。
    視線ばかりが灼りつく肌に痛かった。
    見られる恥ずかしさで何度もよろめき、大胆な弧を描いて濡れたお尻で誘ってしまう。
    さぞかし煽りがいの、虐めがいのある奴隷だろう。おののきが心を掴むのだ。
    「うぅ」
    たえがたい羞恥に呻き、リングギャグを噛みしめた私はのたうち、その場で四つ足を
    踏ん張った。公園の土は決して清潔じゃない。丸出しでオツユまみれのアソコを地面
    につけたくない。
    少女たちの気配が動く。良かった。立ち去ってくれるのだろうか。
    だが‥‥
    ひたひたと重なる少女たちの足音が、こともあろうに近づいてきた。
    遠巻きに囲まれ、私は園内の隅に追い込まれてしまう。
    「こ、この人‥‥変なカッコしてる、お姉ちゃん」
    「ヘンタイよ、絶対。こんな姿で、私たちのこと、怖がってるみたいだもの」
    姉妹の会話が耳に刺さった。
    ヘンタイ‥‥そう思われても、何の反論もできない。こんな姿で、まぢかで破廉恥な
    ポーズを凝視されているというのに、胎内がカッカと熱く照り映えているのだ。
    じくじくと音をたて、抜けそうなバイブを深くきつく緊めつける。
    「ひゃっ、キタナイ‥‥汗でべったべたァ」
    「やめなよ、触っちゃダメ! 病気移されちゃうよ!!」
    しゃがみこんだ妹を、姉らしい少女がすぐに叱った。目線の高さを合わせられ、顔を
    のぞかれて、真っ赤になってうなだれてしまう。こんな子供たちに言葉で煽られて、
    嬲られている。ご主人様の命令で、自分のはしたなさを嫌というほど痛感させられて。
    どうして疼きがとまらないの。なんで快感がにじみだしてくるの。
    惨めであればあるほど、カラダが盛ってしまうなんて。
    マゾ奴隷は調教を受け、きっと、こうして社会のルールからはみだしていくのだ。
    「お姉ちゃん、あれ」
    「なんか口に咥えてるね、このヘンタイ。なんだろ」
    触るなといったばかりの少女が大胆にも手を突き出す。反射的に私は後じさっていた。
    この子にはどこか無邪気な悪意を感じる。ニップルチェーンを取られてしまったら、
    乳首どころかもっとヒドイことをされてしまう‥‥直感的にそう思ったのだ。
    だけど、私の仕草は姉を怒らせたようだった。
    「何よ! そんなカッコで逆らうつもり!」
    「ひぅ‥‥」
    逃げるゆとりもない。なだめる言葉さえ、私は封じられている。
    肩を怒らせた彼女が片足を上げた。ヒールのようなものを履いたその足を、私に‥‥
    「何をしている」
    男性の叱責が闇から飛んできた。
    低い一声で少女たちがひっと立ち上がり、その場から逃げだしていく。
    ぎょっとしてふりむくと、街頭に照らされてシルエットになった人影がやってきた。
    警官‥‥通りすがりの男性‥‥?
    脳裏をよぎる恐怖は、ご主人様だと確認した瞬間に消えていた。パァッと顔をほころ
    ばせて駆けよりかけ、そこで彼の命令を果たせなかったことを思いだす。お仕置きを
    されるだろうか‥‥のろのろと歩み、私はうなだれた。
    私を見下ろし、ご主人様は口を開いた。
    「大丈夫か? ケガ、させられなかっただろうね」
    「ん、ン」
    第一声は、私を気遣う、真摯な声。
    心がぽっと暖かくなり、私はご主人様の足元にすりよった。ご主人様が肩を揺らして
    いる。その姿は、まるでホッとした飼い主がもらす安堵の笑いのようだった。もしか
    したら、最初から隠れたふりだけして、私を見守っていてくれたのかもしれない。
    ご主人様に守られている‥‥助けてもらった‥‥
    無防備に愛される喜び。屈服し、庇護される喜び。それは、圧倒的に私を満たした。
    野外での露出調教を施されていく現実。
    とどめようもなく、思慕の思いと、マゾの血がじわじわ目覚めていく。
    「命令を守れなかったね」
    「ンーー」
    「まぁいい。早紀が無事でよかった。せっかくだから、ここにマーキングしていこう」
    マーキング? 犬の、マーキング‥‥
    意味を把握し、とたん顔がバラ色に上気していく、
    「意外に今日は外の温度も低いし、実は今すぐしたいんじゃないのか?」
    「‥‥」
    言われて初めて、おしっこの欲求に気づく。
    ご主人様は、サングラスとマスクの下でニヤニヤしているようだった。ベンチに腰を
    下ろし、楽しそうに私をからかいつつ見つめている。
    恥ずかしい‥‥
    けれど、この恥ずかしさは、さっきとは違う、暖かい恥ずかしさだ。ご主人様に要求
    され、何もかもさらけだすことが私の悦びになってしまっているようなのだから。
    ご主人様を悦ばせたい。かわいがってもらいたい。
    その一心から、のぼせた頭で片足を上げ、寒気を感じる下半身をぶるぶる揺すった。
    なにか、とどめようのないものが、もう、すぐに、あふれてくる。
    イヤらしいバイブの振動に、さらにあおられて‥‥
    シャァァっ‥‥
    ほとばしる水音は恥知らずな勢いだった。
    掲げた足の間から、おしっこが湯気を上げ、アーチを描いて木の根元にかかっていく。
    全裸で‥‥
    フェイスギャグを噛まされて‥‥
    自力では一生外せない形状記憶合金の枷を嵌められたメス犬として‥‥
    情けない四つんばいの姿で、公園の片隅にマーキングを、おしっこを垂れ流していく。
    「溜め込んでいたなぁ、早紀。念入りにマーキングしておけよ」
    「くぅぅ」
    真っ赤になりながらも、私はたしかに‥‥
    後戻り不能なマゾの悦虐を、堕ちていく者の悦びを、躯に刻み込まれていたのだった。
    人の尊厳、羞じらいを代償とした解放感が裸身にしみわたっていく。
    2つのバイブにイかされ、緊縛に身をゆだねながら、こんな破廉恥なことまでできる
    ぐらい、ご主人様好みのの奴隷に躾けられていくのだ‥‥
    トリハダだつ毛穴の奥まで、ヒダの一枚づつまで、調教の蜜の味を刷り込まれていく。
    最後の、最後の一滴までポタポタっと出しきった私は、しゃがみこんだご主人様の手
    でにワレメを丁寧にぬぐわれ、ティッシュの感触にさえ煽られて、感極まった喜悦の
    喘ぎを、透明なものを、上からも下からもたてつづけにあふれさせていた。

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    私のカギを使い、ご主人様が玄関ドアを開け放つ。
    ケモノの拘束具を着せられたまま、リードでうながされた私はよちよちと自分の家に
    あがりこんだ。背後でご主人様が扉を閉める。まさにペットとしての扱いそのものだ。
    お尻をピシャピシャと平手で叩かれ、追い上げられていく。
    恥ずかしい‥‥嬉しい‥‥気持ちイイ‥‥
    さまざまな相反する要素が私の心の中でせめぎあっていた。
    お風呂場に連れこまれ、わかしたてのお湯で形状記憶合金の枷を外してもらう。
    疲労でこわばったカラダから革の拘束具を脱がされてゆくうち、不意に恥ずかしさが
    こみあげた。もう何度となく全裸を見られ、抱きしめられて、ありとあらゆる場所を
    揉みほぐされたというのに。
    狭い風呂場で、無防備な姿で、男性と2人きりなのが、ドキドキの理由なのだろうか。
    「あ、あの‥‥ご主人様」
    「ごゆっくり」
    言い残し、ご主人様が風呂場の擦りガラスの戸をしめた。
    女心を察してか‥‥それとも、調教の後の、リラックスを与えてくれたのか。ご主人
    様をどんどん好きになっていくのに、彼の心理だけが読みきれない。
    心身の汚れと疲労を洗い流す。
    ちゃぽんと水音をはねさせ、きしむ手足を思うさま湯舟で伸ばした。
    ご主人様は、何をさせたいのか。私をどうしたいのか。この後、私がどうなるのか。
    何もかもが見えないまま、マンツーマンの調教は続く。
    嫌‥‥ではなかった。だからこそ、なにもかもあの人に、私は預けているのだから。
    でも、なぜ‥‥
    「抱いてくれないのですか?」
    舌先にのせた台詞を、そっと、跳ねたお湯のしぶきに溶かしこむ。
    こんなにも気持ちを滲ませているのに、私から迫ってさえいるのに、あの人は最後の
    一線を越えようとしない。さっきの公園でも簡単に欲望をみたせただろうに、あの人
    はジーンズの前を膨らませたまま、それでも私を愛撫しようとはしなかった。
    嬉しい、満足‥‥でも、なぜか、心が‥‥
    「寂しい‥‥変ね」
    不意に視界がにじみ、ばしゃばしゃとお湯で顔を洗う。

    風呂上りのほどよくゆだった裸身に、ふたたび縄を打たれていく。
    放置プレイのときとは違い、ゆったり緊縛を身にまとう‥‥そう、まさしく縄装束だ。
    手首や胸縄はたるみも隙もなく緊まっている。けれど、血行が圧迫されたり、苦しい
    感じはまるでない。やわらかい手編みの籠に全身を包まれた不自由さだ。
    発情したまま、その熱をにじませて。
    ご主人様の調理した夕食を床下で頂き(スパイスの効いた野菜カレーだ)、トイレも
    付き添っていただいて、あとはお姫様抱っこの要領でベットの中へ連れ込まれる。
    またしてもドクドクと高鳴りだす胸に、私は驚いていた。
    バイブを外され、股縄だけを埋もれさせた下腹部が甘い蜜をたくわえだす。
    甘いときめき。まさしく私は彼に、強烈な異性の匂いを、誘惑を感じとっているのだ。
    今度は‥‥どう、なるのだろう。2人きりで、私は絶対抵抗しまいと誓う。

    30分ののち。
    穏やかな寝息をたてるご主人様を、私はなかば恨めしげに、もうほとんど公然と頬を
    ふくらませて睨みつけていた。ボールギャグを舌でつついては鼻を鳴らす。
    鈍感にも、ほどがある。怒っているのに、甘えたくて、でも起こすのがためらわれて。
    なんだコリャ。自分に問いかけたい。私の心はどうして、こんなバラバラなのかと。
    どうして、私を抱いてくれないのか‥‥と。
    「ンーー」
    不満のあまり喉声をあげ、私は彼の足に自分の足をぎゅっとからめる。
    ベットスタンドの灯りの中、はだけられたご主人様の裸の胸に私は頭をもたれていた。
    頬をすりよせる胸板はゆるやかに上下し、広い肩幅と引き締まったカラダはセックス
    アピールをただよわせ、男性の色香で私を切なく悶えさせてしまう。
    ご主人様を起こせばいい。その通りだけれど、そうは思っても満ちたりた彼の寝顔を
    邪魔するのが忍びないのだ。まして、私は奴隷の立場だから‥‥
    涎の痕が残るだろうに、ご主人様は優しく私の頭を引き寄せ、腰に手をかけている。
    とろんとした瞳で、私は飽くことなく彼を見つめていた。
    この人は誰だろう。どうして顔を隠すんだろう。
    仰向けに寝ている今でさえ、彼はサングラスとマスクをしたまま。ジャン・ポール・
    ゴルチェのロゴ入りサングラスは、輪郭を実際以上にシャープに見せている。水谷君
    の面影はたしかにある。でも、それにしては頬がふっくらしすぎ。それにあの子は、
    ブランド物とか好きなタイプじゃないはず‥‥
    声は全然似ていない。ずっと低い。ちょっと怖ささえある。
    でも、押し殺した声が声音かもしれないと疑いだしたら、そうも思えてしまう。笑い
    声がやけに明るくて水谷君ぽいとも思えるのだ。
    たえまなく猿轡で話す自由を奪われているのも、私の詮索を封じるためかもしれない。
    正体を秘めたご主人様。
    明白なのは、私の、変わらぬ思慕の思いだけ‥‥
    縄掛けされた裸身が疼き、濡れた股間をご主人様の太ももに押し当てた。
    片足をロープでベットの足に繋がれているため、こんなにもご主人様が無防備なのに、
    ずり上がって後ろ手で変装をはがすこともできないのだ。
    何重にも括りあわされた両手首の先で、自由な指先が意味もなくはためいてしまう。
    私を‥‥女として、みていない‥‥?
    でも、ならフェラチオなんかさせるだろうか。
    分からない。分からなかった。ここまで煽られて、最後は放置プレイだなんて。
    もどかしい火照りの行き場もなく、また鼻を鳴らす。
    ふわふわと焦らされたまま、意識が断続的にとびだした。
    あまりにもめまぐるしい調教の連続で、ありえない体験を立て続けにして、とっくに
    刺激の量が私のキャパシティを超えてしまっているらしい。泥のような睡魔が、頭を
    真っ白に塗りつぶそうと襲いかかってくる。
    ダメ、私‥‥まだ、ごほうびもらってない‥‥
    なにやら意味不明な寝言を最後に、私の意識はふっつり絶えた。
     
                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    さざめく雨音で目が覚める。
    外はまだ早朝のようだ。考えてみれば、緊張と疲労で引きずり込まれるように眠って
    しまったのが、10時も回らないぐらいの時間だったと思う。
    ご主人様は‥‥
    顔を向けると、至近距離から瞳の底をのぞきこんでくるご主人様の目に捕らえられた。
    サングラス越しの深みが私をからめとり、続いて意味もなく真っ赤に頬を染めさせる。
    「おはよう、早紀」
    「あふ‥‥ん、あふ」
    半ば寝ぼけて律儀に返事を返すと、彼はクスッと笑って起き上がった。

    ビデオデッキをいじっていたらしいご主人様が戻ってきて、朝の餌付けがはじまる。
    テーブルの足に首輪をつながれ、椅子に座った足でカラダをいじられながら、テトラ
    と見つめあって食事をする。ミルクを舐める彼女の向かいでコーンポタージュを舐め
    させられ、テトラと一緒にちろちろ舌を出しながら、いたたまれぬ浅ましさでカラダ
    がじゅんと濡れそぼっていく。
    いつでも、今すぐバックで貫かれたとしても。
    準備が整い潤いきった私のカラダは、ご主人様のモノを受け入れられるだろう。
    ‥‥セックスのことばかり考えている自分に気づき、さらに私はカァッとのぼせた。

    両足を投げだしてベットにすわり、後ろから抱きしめるご主人様の膝と膝のあいだに
    すっぽりとおさまる。尾てい骨にあたる男性のこわばりを意識するうち、ご主人様が
    リモコンを操作した。
    アパートの壁に、パァッと浅ましい女奴隷の姿が浮かび上がる。
    はっと身をこわばらせた私を抱き寄せ、ご主人様は耳の裏から囁きかけてきた。
    「昨日、君が風呂に入っている間に見つけたんだ。楽しんでいるね」
    「う、くふぅ」
    恥じらい‥‥いや、それ以上の、さらに悪い、いたたまれなさ。
    ご主人様を裏切ってしまったかのような、そんな後ろめたさが私を押しひしいでいた。
    彼以外のドミナに支配され、縄をかけられていく私自身が、あますところなく映し出
    されていく。その中で、私はあられもなくよがり、声を上げ、どう見てもレズSMを
    愉しんでいるようにしか見えないのだから。
    「感じて、いるんだね」
    「う、うぁう‥‥」
    「いいご主人様じゃないか。俺の出番なんかないような気がするよ、早紀」
    淡々とした、感情の見えない声が私をわななかせる。
    違う、違うの。だって、だって私は‥‥
    どれほど思っても、声を奪われ、こんな姿で、奴隷に言い訳の自由が許されるものか。
    私は、ご主人様の腕の中で小さくなっていた。さらにこわばり、激しく自己主張する
    ご主人様の下腹部の、その意味に気づかずに。
    「正直に答えるんだ。君は‥‥本当は、まだ誰のものでもないんだな?」
    コクリ。
    「俺は、他人が調教済みの奴隷なんて欲しくない。一人の奴隷をシェアするつもりも
    ない。俺のモノは俺のモノだ。俺だけのために尽くさせる」
    「‥‥」
    「正直、昨日はこれがショックだった。夕食後に力づくで嫌がってでも早紀をモノに
    したいと思っていたのに‥‥何もできなかった。俺は浅いんだ、案外」
    自嘲の響き。
    息詰まる告白を、私は息を潜めて聞いていた。
    「今はまだ君を俺のものにする時期じゃない。お互い準備がたらない」
    「んふっ、ン」
    「こんな状況で君を抱けば未練が残る。他人のモノになったかもしれない君のことを
    考えつづけるのはご主人様としてあまりにみっともない」
    だけど‥‥
    言葉を返し、ご主人様は私のカラダをやわやわと卑猥な手で揉みこんだ。
    思わず喘ぎ身悶えるその耳もとで低く囁く。
    「君は無防備に俺を信じてくれる。泥棒とか、金銭やカードを盗まれないかとか‥‥
    そんな心配さえ考えもせず、無条件に、僕にカラダを預けてくれる」
    「‥‥」
    「分からないんだ。早紀。俺は‥‥」
    ご主人様の声は、ためらい迷う男性の苦悩にみちていた。
    私が忠実な奴隷でありたいと思うように、この人もまた真摯なご主人様であろうと、
    そう思っているのだろう。
    「俺は‥‥どうしたら、いいのか‥‥」
    「‥‥」
    黙ったまま、ふりむいた私は彼の目を見あげ、舌先でボールギャグをつついてみせた。
    口枷を外され、そうして、もつれる唇で、やっと‥‥心を決める。
    恥ずかしいとか、顔から湯気を上げて上気しているとか、そんなこともう構わない。
    のぼせた瞳で、羞じらいをかなぐり捨て。
    言いたかった本音を言う。
    「ご主人様に愛されたいんです。今すぐ調教してくださらなくてもいい。一晩だけで
    いい。気に入ってくださったのなら、私を‥‥メチャクチャにして、抱いてください。
    ご主人様がウソじゃないって、知りたい。感じたい」
    「早紀」
    「本気です。ご主人様の、カラダを知りたい。欲望を欲しい。愛を交わして下さい」
    支離滅裂‥‥なんだか私、まるで、エッチに狂ったダメな女みたい‥‥
    灼りつく裸身のせいばかりではなかった。
    私は、本当に、ご主人様の思いをカラダで感じたいのだ。尽くすことが奴隷の役目、
    だからこそ。
    唇をかみしめた私のあごが、くいっと引かれた。
    思わずあわせた瞳が男の愉悦に、性欲にたぎっている。マスクを外し、形の良い唇を
    あらわにする。返事は短く。思いは深く。
    「分かった。君の、望みのままに」
    「はい‥‥ご主人様」
    閉じることなく、熱い吐息を重なった唇から飲み下す。

    求めあう舌と舌は懊悩の極致だった。
    ここまでずっと焦らされ、お預けにされてきた愛情が、愛の交歓が、生の感覚器官を
    通して、粘膜をとおして、とろとろとじくじくと混ざりあう。
    飽きることない口腔の探索。
    不自由に身を絞られていたって、こればかりはご主人様も私も条件は同じ。弾力ある
    舌の中腹を下の歯におさえつけ、ズリズリとなすりながら涎を飲ませていく。
    「ぐ‥‥う、んググ」
    「んふ」
    ご主人様に先んじてリードしている‥‥愉悦の笑みは、あっという間に妖しく崩れた。
    お返しとばかりプックリ尖っていた乳首をつままれ、きゅうと紡錘形に引き伸ばされ
    てしまう。
    「あぁン、はぁァンァ‥‥んんっ、んぷっ、ンンーー」
    痛みと快楽がグジャグジャになり、悩ましく吐息をつぐところで首をそらされ、彼の
    唾液をたっぷりと流し込まれた。口腔を舌で犯され、防戦一方の中さらに下腹部へと
    もう片方の手が伸びていく。
    「はぁン、ひぁァン、だめ、ダメェァ」
    ダメなのか、欲しいのか、声と裏腹にくびれた腰はおねだりするように伸び上がり、
    背筋をつたいおりてくる手にお尻を撫で回されてハスキーな鼻声で悶えてしまう。
    そう、もっと深くまで、太ももだけじゃイヤ、その奥が、私‥‥濡れて‥‥
    ついに。
    ツプリと、白桃の裂け目をかきわけたご主人様の手が、股縄をおしのけて前後の孔に
    やわやわと指を這わせだす。くすぐったくていじましくて、そのくせ刺激は柔らかい。
    「あっ、あぁン」
    ムダと知りつつ伸び上がって裸身をくねらせる。逃げられるはずもない抵抗だ。
    唇と指で、女の穴という穴を制圧され、下半身が浮き上がるような衝撃に、唇を深く
    奪われたまま、私は腰をビクンビクンとはしたなく揺すっていた。
    離れた唇からねばぁっと濃いアーチがしたたり、崩れ落ちる。
    もどかしく肌をくっつける私をつきはなし、ご主人様は縄の束をしごきだした。
    さっきまでの縛りはそのまま、さらに後ろ手胸縄の上から縦横に火照った裸身を縛り
    上げていく。オッパイの上下をヒリヒリとくびりだされ、ウェストを菱縄で緊めあげ
    られ、何度となく後ろ手の手首を通し、二の腕を上半身にびっちり一体化させていく。
    ふたたびのボールギャグを、私は自分からむさぼり咥えこむ。
    あぁ‥‥そう。この感じこそ。
    不自由の極みに広がる、愉悦の幻想境。身じろぐだけで爛れた素肌がキリリと縄目に
    虐めぬかれ、ご主人様の愛撫との相乗効果が、果てしない悦虐へと私を導くのだ。
    マゾの色に染まりきった私の瞳は、ご主人様にどう映るのか。
    たたんだ片足まで縛められ、凌辱の期待を目にこめて、私はご主人様ににじりよった。
    待ちきれなくてグショグショのオツユがシーツを汚す。
    ご主人様もまた、獣の目をしていた。
    遠慮も気遣いもない。乱暴な手つきで腰から抱えあげられ、対面座位の形でご主人様
    の上に腰を浮かされる。
    火を噴かんばかりに強く天を突く男性自身へにワレメの周囲をくすぐられ、そして。
    無造作に、前戯すらなく、ご主人様の猛りくるったソレがズドンと、落下の勢いで私
    のクレヴァスに、まちわびる蜜壷に突き刺さった。
    「い、ギィッッ!」
    ボールギャグの奥から歓喜の悲鳴をあげてしまう。
    すごい、もの凄くビクビクしてて、エラにこじあけられていく‥‥
    濡れそぼったアソコはやすやすとご主人様のモノを飲み込み、カリの張ったシャフト
    にねっとからみつく。そのまま、腰を支えるだけのご主人様の手の中で、私のカラダ
    は自分の重さに導かれ、じわじわとメリメリと串刺しになっていく。
    いきなりの変質的な性行為に目元をうるませ、私は、彼自身を味わいつくしていた。
    バクバクと動悸がおさまらず、乳房や後ろ手の縄目をいじられながら、ご主人様の肩
    にあごをのせてヒクヒクともだえてしまう。
    まだ繋がっただけで、受け入れただけでこの充足感なのだ。
    これが動き出したらどうなることか‥‥?
    恥ずかしい満足感に赤くなる頬をつままれ、顔をのぞかれて、ボールギャグの上から
    唇を吸われたり、唾液を流し込まれたりして、ネチネチと奴隷の辱めをうけるのだ。
    さんざんに私をもてあそび、嬲りつくしたあとで。
    「く‥‥すごい感触だな、早紀。ようやくなじんできたよ。いいかい、動くぞ」
    「ンッ、ンフ‥‥ぁ、ぁふ、ぅぅぅんンンーーーッッ!!」
    抽送の衝撃に、あっという間もなく私は最初のエクスタシーに、アクメの頂まで上り
    つめていた。無残に縛り合わされた奴隷の身をたわませ、捩じらせ、もがきあがいて。
    ご主人様の声だって上ずっている‥‥そのささやかな満足感に酔うひまさえ、私には
    与えられないのだ。

    何度も突かれ、貫かれ、ギンギンにこわばった彼自身を懸命に貝のヒダで緊めあげて。
    いつのまにか私がまたがる格好で彼の上にいた。
    下からオッパイをわしづかみにされ、唐突な愛撫に甘くよがりなく。
    騎上位でうねりくるう裸身。腰と腰が上下に弾み、恥骨に衝撃が響いてくる。
    長いリズムでたぷんたぷんと乗せあげられ、そのたびに雫がなんともいやらしい淫律
    を奏でている。腰に回されたご主人様の手。見下ろせば、縄打たれた全身が激しく汗
    ばみ、みしみしと軋んでたゆたっているのが分かる。
    激しい交合を見せつけるように深く貫かれ、腰を大きく弾ませる。
    ボールギャグから爆ぜる涎さえ、気にする余裕もない。
    また体位を入れ換えられ、上半身を前につきだすようにして背後から抉られる。
    前に崩れそうな裸体を縄で引き戻され、ご主人様が縄尻を自分の首に引っかけてでも
    いるのか、顔からシーツに埋まることもなく舳先の女神像のように裸身が反り返って
    いる。
    汗のつぶを弾きとばし、みだらに、官能に、縄打たれたカラダが隅々まで打ち震える。
    肌を這いつたい、アクメの波が重層的に重なり合って私をおののかせるのだ。
    「くぅうン、はぅぅぅン」
    もはや人の喘ぎなど出せなかった。
    縄尻を曳かれ、ぐいぐいと根元まで打ち込まれていくコレは獣のような交合だ。
    恥も外聞もなく啜り泣き、甘い蜜の味に歯を食いしばり、全身を火のように盛らせる。
    宙に浮く乳房がたゆたゆと縄のはざまで前後に震え、短くアップビートな抽送が私を
    ズクズクと突き崩していく。
    なしうくずしの快感に、反応も、彼につくすことさえ意識から消え去っていた。
    ひたすらに続くのはエンドレスな快楽の衝撃。
    とめどなく、めくるめく蜜の味にむせかえって、ガクガクと気をやりながら。
    まだ続く、まだ、まださらに上がある、まだ、躯がこんなにきつくギュウとねじれて
    いるのになお、オーガズムの波が、波濤が、全身を飲みつくし、遥かな高みへと押し
    流していく。
    男性のたくましい腕を感じ、脈打つモノのリズムを、味を、をあそこで噛みしめる。
    こんなにも‥‥カラダが、舞い上がる‥‥

                  ‥‥‥‥‥‥‥‥

    ご主人様‥‥
    意味のない睦言をつぶやき、暖かい男性の胸にもたれかかろうとして目覚める。
    違和感があった。しなだれかかった上体が何かに強制され、不自然に突っ張っている。
    まるで、両腕をピンと広げて、磔にされてでも、いるかのような‥‥
    磔‥‥両手が、磔に‥‥!?
    「へ‥‥ふぇっ!?」
    愕然として目が覚めた。
    室内は夜の闇に沈み、枕もとのスタンドと、天井の灯りだけがほの暗く部屋を照らす。
    首をかしげた私は、窓に映りこんだ光景を目にしていた。

    アパートの部屋の、いつものベットの上に座らされて。
    観賞用のオブジェらしく絶望的な拘束を施され、汗みずくの裸身を揺らす私自身が。
    ‥‥‥‥そこに。

    背負わされた金属のポールはたるみもなく、ニップルチェーンで繋がれた両の乳首は
    すでにしびれきっていた。女座りの足は、拘束の厳しさに変色しかけている。
    顔の下半分は、厳重なレザーのマスクに覆われていて。
    「あ、あふ‥‥!?」
    さぁぁっと血の気が引いていく。
    信じられなかった。わが目を疑った。
    セルフボンテージに失敗したあの瞬間のまま、何も変わらぬ拘束姿で座らされている。
    絶望的な緊縛に啼かされ、さらに消耗し、脱出の手段もなく、そして、一人きりで。
    胸の谷間で、二度と外すことのできない手枷のカギが揺れていた。
    助けなど、すがれる人など、ここにはいない。
    ご主人様との甘い蜜月‥‥では、あれすら死の寸前に朦朧とした意識が見せたただの
    幸福な幻想に過ぎなかったと?
    あの感触が、あの声が、すべて夢の中のものだったと‥‥いうの?
    ウソだウソだウソダほどけない外せない助からない逃げられないどうしてどうし‥‥
    狂ったようにその場でカラダをひねり暴れさせ、パニックに陥って叫ぶ。
    「イヤァァァ!!」
    こだます沈黙は、深く、長かった。
    叫びの残滓が、耳を刺すように部屋の空気を漂っている。
    「え?」
    「どうして」
    「声が‥‥出た?」
    狂人のようにぶつぶつ呟きを漏らす。
    マスクの下で当然噛みしめているはずのボールギャグは、なぜか首にかかっていた。
    あの時と‥‥自縛に失敗し、打ちのめされて気を失ったあの時とは、違う。
    しかも。
    「ウソよ、なんで‥‥外れて」
    思わず呟く私の足元、女座りに凹んだシーツの谷間には、飾り玉があったのだから。
    そう。あれほどもがき苦しんでばし外れなかった磔の横木の、その先端の飾り玉が。
    手枷を外す最大の障害が、そろえて、外された状態で、私の足元に。
    「‥‥」
    呆然となり、けれど、しばしのち。
    私は、忙しく手足を動かし、セルフボンテージからの脱出を再開したのだった。

    週明けの月曜日。
    いつもと同じ、いつもの朝。手足に縄のあざが軽く残り、連日連夜の調教三昧で腰が
    抜けそうなほど疲労している以外は、そう、いつも通りだ。
    彼との邂逅は夢ではない。そこは確信している。
    そうでなければ、あの磔の状況から、私が抜け出せたはずがないのだ。
    ご主人様は私を助けてくださり、週末の間、優しく愛してくれた。私はただあの人の
    命令におののき、啼かされ、温かい腕を感じながら、何度も何度ものぼせあがっては
    頂上をきわめていた‥‥
    「なのに、どうして消えちゃうんだか」
    とりとめない思いにふけりつつ玄関を出ると、隣の部屋のドアが開くところだった。
    「あら、水谷君」
    「はい。早紀さん、おはようございます。ちょっと眠そうですね」
    「うん‥‥」
    あのね、昨日何していた‥‥?
    昨日はありがとね‥‥
    一瞬のうちに様々な会話のパターンが思い浮かんでいた。アパートの隣人、水谷碌郎
    君。彼こそ、もっともご主人様に近い男性の一人だった。彼がそうなのだと、あるい
    は違うと、どうやってカマをかけるべきか。考えつつ年下の大学生に目をやる。
    あっと、私はのけぞっていた。
    「な‥‥なんですか? 寝癖でもついていました?」
    「いや、あの、えっと」
    思わず口ごもる私の視線は、開いたシャツの胸に無造作にひっかけられたサングラス
    へ集中していた。同じダークシルバーのフレーム、ゴルチェのロゴ。見覚えがある。
    ご、ご主人様‥‥の‥‥
    「あぁ、これですか? ヘヘ、いいでしょう」
    「へ?」
    私の動揺を知ってか知らずか、彼は無邪気そうな笑顔を見せる。
    「あのドラマ以来、このシリーズも品不足で困りますよね。やっと手に入れたんです
    ‥‥早紀さんが私大生の流行に詳しいとは知りませんでしたが」
    「へ、へぇ?」
    その時の私がどれだけ間抜けな声を出したか、想像もつかないことだろう。
    水谷君の話の断片から、そのサングラスは大学を舞台にしたWEBドラマで人気俳優
    がかけていて、一気に人気が爆発したシリーズだと分かった。
    つまり、彼ぐらいの年頃の男の子が持っていても、なんの不思議も無い、ということ。
    「ふ、ふぅーん」
    「ま、そんなワケですよ」
    得々と語った彼はサングラスをかけ、エレベーターホールへ歩きだす。
    でも。
    後ろ姿は、そして歩きぶりも、たしかに似ているようにしか思えない。今の説明も、
    なんだかとってつけた釈明めいて、白々しさがなかっただろうか。
    「‥‥ご主人、さま」
    われしらず呟いた私の前で、大きな背中がギクリと揺れた‥‥ような、気がした。
    違うと思う。たぶん彼じゃないかと思う。でも、確信はできない。
    そして確信できるまでは、私からは何も言えないのだった。セルフボンテージの性癖
    は、私とご主人様だけの秘密。決して、誰にも明かすわけにいかない。
    だから、今、ここで水谷君を問い詰めることができない。
    この、もどかしさ‥‥
    それでも、私は可能性を信じたかった。あるいはそうであって欲しいと願う。好きな
    人が、好きになりかけている人が、本当の意味で優しく厳しいご主人様なら。
    「その時が来るのを、待ってるわ‥‥私は。ずっと」
    「‥‥え? は、はい!?」
    語りかけた台詞に、思いっきり、水谷君がうろたえていた。
    まあ無理もない。こんな思わせぶりな台詞、たとえ彼があの人じゃなくても、普通は
    焦るに決まっている。だからカマをかけたというレベルの会話でさえない。
    あえて言えば、私の、独りよがりな願望。
    「あ、あの‥‥早紀さん? な、なんですか? なんか、約束しましたっけ?」
    「うふふ」
    ご主人様の準備が整うまで。私は私自身を取り返しのつかない所まで、従順なセルフ
    ボンテージ好きの奴隷に仕立て上げるまで、この秘めやかな行為を続けていくだろう。
    それにあの女性バーテンのことだってある。
    彼女とのデート‥‥ううん、一日調教のあとで、私が私のものである保証なんかない。
    あの人が、私のご主人さまになってしまうかもしれない。
    けっこうこれで、私の倍率は高いらしい。簡単には、なびかない女なのだから。
    だからこそ。
    だからこそ、私は、ご主人様からの告白を、待ち続けるだろう。
    そう。彼の準備が整うまでは、いつまででも。
    まだ動揺を隠せない年下の彼の、やけに初々しい姿にほほえみつつ、先に歩きだした。
    流し目をくれ、腹の中で台詞の残りを呟く。
    「付き合う前から本気で両想いってのも、素敵な主従関係‥‥ですよね、ご主人さま」

     

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